抄録
本学の初年次教育では1年次生を対象に,大学での学びおよび人格的な成長に必要な「考える力」と「主張する力」であるクリティカルシンキングおよびロジカルライティングに関する教育を行っている.過去にわれわれは,その学修効果について調査を行った結果,受講前の「批判的思考テスト」の成績の違いによって学修効果に差がある可能性や,学生満足度を向上させる取り組みの必要性が示唆された.そこで本研究は,成績上位群と成績下位群の学修効果や主観的評価の違い,教員との授業評価の違いについての分析に加え,実習内容,学修環境,指導内容に対する主観的評価に影響を及ぼす因子と学生満足度との関連性について調査し,指導で注力すべき点や指導方針についての課題点を明らかにすることを目的とした.その結果,成績上位群と成績下位群ともに受講による一定の学修効果は認められた一方で,実習の満足度に関する主観的評価では評価に差が認められた.また,学生群と教員群の比較では互いに自己評価が低い傾向があることがわかった.指導で優先して注力すべき項目は「隠れた前提」における能力の向上であることがわかった.指導方法の改善点は,互いにフィードバックが得られるような取り組みや平等に多くの意見を引き出すこと,学修効果を実感させるような指導の工夫が挙げられ,「思いやりのある幅広い指導能力」を強化することが特に重要な課題であることが示唆された.