殿部筋肉内注射部位として推奨されているクラークの点は上殿神経損傷の危険性が低いと言われているが、注射部位決定の際に用いる上後腸骨棘が触知しづらいという問題がある。そこで、本研究では上後腸骨棘を用いない注射部位決定法を独自に考案した。上前腸骨棘を通る水平線と大転子中央上縁を通る垂線との交点を新殿筋注点として、21~25歳の女性において、この点が注射部位として適当かを、各点間の距離の計測と、上殿動脈の血流音聴取から、これに伴行する上殿神経の位置を推測し、検討した。その結果、新殿筋注点はクラークの点より常に約1.2 cm下方に位置し、17/26人 (65.3%) で新殿筋注点はクラークの点より後方に位置した。新殿筋注点、クラークの点で、上殿動脈の血流音が聴取されたのは、それぞれ2/17人 (11.8%) と1/17人 (5.9%) であった。残りの14人 (82.4%) は、両点の上方、下方で血流音が聴取されたので、上殿動脈の上枝と下枝は、新殿筋注点とクラークの点を挟むように、フォーク状に走行していると考えられる。これらのことから、新殿筋注点は殿部筋肉内注射部位として適当であると考えられるが、クラークの点の高さのほうが神経から遠いので、新殿筋注点の約1 cm上方では、より安全に殿部筋肉内注射を実施できると考えられる。さらに血管損傷を考慮する場合は、血流検知器で上殿動脈の位置を確認することが重要であると思われる。