抄録
呼吸補助筋である胸鎖乳突筋は、努力性呼吸時に活動が顕著となる。そこで、肺の気腫性変化の重症度が上がると換気能の低下を代償するために胸鎖乳突筋への負荷が亢進してその筋力が増すかどうかを、筋断面積をその筋力の指標として、篤志献体されたご遺体を用いて検証した。症例数は合計42例、平均年齢は85.0歳であった。両肺の10ヶ所から組織切片用に標本を採取し、顕微鏡下での観察並びに画像処理による肺胞長径測定によって気腫性変化の重症度を評価した。並行して胸鎖乳突筋と上腕二頭筋を筋腹中央で切断しデジタルカメラで撮影した後、画像処理により両筋の断面積の比を求めた。その結果、死因が肺疾患とされている症例では、胸鎖乳突筋の上腕二頭筋に対する断面積の比が高いほど、気腫性変化が重症となった。また、女性は、男性に比較してその傾向が顕著であり統計学的に有意差が認められた。胸鎖乳突筋の断面積が大きいほどその筋力は強いと考えられるので、本筋の機能的肥大の程度を直接体表から評価することによって、肺の気腫性変化の重症度を予測できる可能性が示唆された。