政府の再分配機能としての最適所得税制の設計は,政策の是非と直結した課題である。政府は厚生の改善を目指すという意味で,効率性だけではなく格差是正や公平性に着目する。そこで,応能原則に基づいた税制を構築することが必要となるが,累進税制は目的を達成するうえで有効な手段である。また,労働能力について毎期のショックをヘッジするような保険市場が経済に存在しない場合,累進税制は労働能力のリスクヘッジの役割も部分的に果たすことができる。しかしながら,一括税とは異なり,累進所得課税は歪みをもたらす税制であり,効率性を損なう。本研究は,不完備市場の世代重複モデル(Bewley-type OLGモデル)の環境下で,日本の所得税制を対象に,累進度を推計し,税収水準固定,租税関数の関数形は保存するという制約付きでの最適累進度を求めるものである。分析の結果,日本政府は現状よりも高い累進度を設定すべきであるという結論を得た。