2021 年 56 巻 3 号 p. 95-99
原子や分子が集まって粒子を形成する最初期のプロセスである核生成は,身の回りで普遍的に起こっている非常に基本的な現象であるのに,その理解は極めて限定的である.我々は,核生成を理解する鍵はナノ粒子の物性や特異的な振る舞いにあると考え,これまでブラックボックスであった溶液からの核生成過程を,透過型電子顕微鏡を用いて可視化する取り組みを行ってきた.水の代わりにイオン液体を溶媒として用いた独自の手法と,黎明期から取り組んできた液体セルを用いた水溶液からの核生成の観察手法により,未飽和や平衡状態における核の析出と溶解,異なる頻度で生成する結晶多形間の競合,同一実験系内での複数経路を経る核生成過程,結晶化における水和層の役割などを明らかにしてきた.これらの結果は,核生成の統一モデルの誕生に資すると期待される.