顕微鏡
Online ISSN : 2434-2386
Print ISSN : 1349-0958
56 巻, 3 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
特集:その場観察から読み解く材料科学:最近の研究事例
  • 村上 恭和
    2021 年 56 巻 3 号 p. 94
    発行日: 2021/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー
  • 木村 勇気
    2021 年 56 巻 3 号 p. 95-99
    発行日: 2021/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

    原子や分子が集まって粒子を形成する最初期のプロセスである核生成は,身の回りで普遍的に起こっている非常に基本的な現象であるのに,その理解は極めて限定的である.我々は,核生成を理解する鍵はナノ粒子の物性や特異的な振る舞いにあると考え,これまでブラックボックスであった溶液からの核生成過程を,透過型電子顕微鏡を用いて可視化する取り組みを行ってきた.水の代わりにイオン液体を溶媒として用いた独自の手法と,黎明期から取り組んできた液体セルを用いた水溶液からの核生成の観察手法により,未飽和や平衡状態における核の析出と溶解,異なる頻度で生成する結晶多形間の競合,同一実験系内での複数経路を経る核生成過程,結晶化における水和層の役割などを明らかにしてきた.これらの結果は,核生成の統一モデルの誕生に資すると期待される.

  • 松田 潤子, 山本 知一, 高橋 真司, 佐々木 一成, 松村 晶
    2021 年 56 巻 3 号 p. 100-104
    発行日: 2021/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

    ニッケル(Ni)は優れた水素解離能を持ち,貴金属に比べて低コストであることから,水素製造など工業化学の様々な分野で広く用いられている触媒である.しかしながら高温で繰り返し酸化・還元雰囲気に曝されると凝集したり,一酸化炭素や炭化水素系ガス中で作動する際には反応により生成した炭素が触媒表面に析出したりし,触媒能が低下することが問題となる.本研究では炭素がNi触媒表面に析出する過程に着目し,環境制御型透過電子顕微鏡(ETEM)を用いて,メタン雰囲気でNi/MgO・Al2O3触媒を加熱しながらその場観察を行った.その結果,300°C付近からNi粒子に炭素が固溶することで,その結晶構造が面心立方(fcc)から六方最密構造(hcp)に変化することを明らかにした.Ni粒子への炭素析出は粒子全体がhcpに変化した後から顕著に見られるようになり,Ni内にいったん固溶した炭素が固溶限を超えると表面に析出することが推測された.

  • 佐々木 祐生, 吉田 要, 桑原 彰秀, 幾原 雄一
    2021 年 56 巻 3 号 p. 105-109
    発行日: 2021/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

    亜鉛空気電池は次世代の蓄電池としての応用が期待されているが,亜鉛電極表面での樹枝状結晶(デンドライト)成長による短絡や充放電サイクルによる急激な電気容量の低下など,同電池の2次電池応用には未だ多くの課題が残されている.デンドライトの発生原因や劣化機構の詳細は明らかになっておらず,これを解決するためには電極表面と電解質の間で起きる電気化学反応を直接観察する必要がある.そこで透過型電子顕微鏡(TEM)による高分解能観察と液中電気化学ホルダーを用いることで,充放電時の電極反応をその場で観察するとともにその劣化機構を明らかにし,長寿命な亜鉛空気電池の設計指針を得ることを目指した.本稿では,如何にしてデンドライトが生じるのか,亜鉛電析反応のその場TEM観察に関する筆者らの最新の研究成果を紹介する.

  • 中村 篤智, 大島 優, 松永 克志
    2021 年 56 巻 3 号 p. 110-115
    発行日: 2021/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

    近年,脆く壊れやすいと考えられていた半導体材料が室温でも高い可塑性を示しうることが明らかとなっている.例えば,チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)結晶では,点欠陥濃度を制御することで室温での塑性変形能(可塑性)が向上する.また,硫化亜鉛(ZnS)結晶では,光照射下では壊れやすいが,暗闇の中では大きな可塑性を発現する.このように従来想像すらされていなかった結晶の異常な可塑性が見出され,大きく注目を集めている.これら半導体ともセラミックスとも言える材料系は,脆いがゆえに構造材としての適正がなく,結果として専ら機能材料として利用されてきた.材料の脆さを克服できるメカニズムが見つかれば,そのメカニズムの理解は様々な材料系にとって非常に有用であり,構造材として利用できる材料系の拡大が期待される.本稿では,結晶の形状変化のその場観察および電子顕微鏡による転位組織観察を元に,SrTiO3よびZnSの可塑性向上に関する最新の研究を議論する.

解説
  • 野村 優貴, 穴田 智史, 山本 和生, 平山 司, 齋藤 晃
    2021 年 56 巻 3 号 p. 116-123
    発行日: 2021/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

    不十分な数の観測データから原信号を推定する圧縮センシング技術における根幹は,原信号に含まれるパターンや法則を見つけ出すことであり,その目的において機械学習は非常に有効な手段である.本解説では,走査透過電子顕微鏡法・電子エネルギー損失分光法・電子線ホログラフィーに対して,それぞれに含まれるパターンや法則を,それぞれの信号特性に適する統計的信号処理(スパースコーディング/テンソル分解)によって抽出し,原信号を高精度に推定する技術を紹介する.

  • 早津 学, 奥山 健太郎, 信藤 知子, 岡野 栄之, 芝田 晋介
    2021 年 56 巻 3 号 p. 124-130
    発行日: 2021/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

    近年注目される電子顕微鏡用の連続切片を三次元的に解析可能なATUM-SEM法は,樹脂包埋試料のSEM観察法の中でも特に広い範囲の生体構造を高解像度観察が可能であることや,繰り返し切片の観察ができることなど優れた特徴を有する手法である.さらにこの手法で作製された連続切片の観察に,61本のビームを並行照射してイメージングするマルチビームSEMを用いることにより試料の全体像を素早くかつ高分解能で画像化することができ,ミクロレベルのオーダーからナノレベルのオーダーまでの試料の三次元的な構造解析が実施可能となる.最近ではマルチビームSEMとCLEM法を組み合わせた解析により,特定分子の局在を広範囲の切片上にて可視化することができている.本解説ではATUM-SEM法,マルチビームSEMを使った広範囲試料の解析法を概説し,さらにマルチビームSEMによる広範囲CLEM法のイメージング技術についても述べる.

講座
  • 小池 正人
    2021 年 56 巻 3 号 p. 131-138
    発行日: 2021/12/30
    公開日: 2021/12/30
    ジャーナル フリー

    凍結超薄切片法は細胞生物学分野における標準的な免疫電顕法である.本法は光顕の組織化学で多用される凍結切片法の電顕バージョンであるが,超薄切片の回収など,電顕ならではのステップがいくつか存在する.凍結超薄切片法が徳安法(Tokuyasu method)という名で世界に通用するのは,固定から切片回収,観察までの主要なステップのほとんどが約半世紀前に徳安清輝博士により確立され,そのプロトコルが現在まで利用されているからである.本稿では徳安法の現在の標準的なプロトコルについて筆者の経験に基づきその要点を解説する.さらに様々な応用例,特に試料が無包埋であることの利点を活かした他の手法との組み合わせの事例について紹介したい.

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