2022 年 57 巻 2 号 p. 49-53
走査透過電子顕微鏡法(STEM)は極めて高い空間分解能を有する顕微鏡法であり,物質の原子構造解析に有力な手法である.近年,電子線への耐性が低い電子線敏感材料の原子構造解析が注目を集めているが,通常のSTEM法では試料ダメージが深刻であるため,原子スケールでの観察は極めて困難であった.そこで我々は,次世代型のSTEM検出器である分割型検出器を利用することで,超高感度結像法である最適明視野(OBF)STEM法の開発を進めてきた.OBF法は従来型のSTEM法と比較して2桁程度高い結像効率を有しており,照射損傷を抑えることのできる低ドーズ条件においても明瞭に原子構造を可視化できる.本稿では,このOBF STEM法の基礎的な結像理論に加えて,リチウムイオン電池材料をはじめとする様々な試料へのアプリケーションについて紹介する.