2026 年 61 巻 2 号 p. 58-62
同位体は化学的性質をほとんど変えることなく特定の原子や分子を標識できるため,物質輸送や化学反応の追跡に広く用いられている.しかし従来の同位体分析手法は空間分解能に制約があり,ナノスケールでの直接観察は困難であった.近年,単色化電子源の導入により電子エネルギー損失分光(EELS)のエネルギー分解能が飛躍的に向上し,振動分光が可能となった.さらに暗視野条件を組み合わせることで,サブナノメートルの空間分解能での同位体識別が実現されている.本稿では,振動EELSの発展とその応用として,グラフェン中の炭素同位体の識別と拡散過程の可視化,および有機材料中の水素/重水素分布のマッピングについて概説する.振動EELSは,局所的な振動情報と高い空間分解能を両立する新たな分光手法として,今後の材料科学における重要な基盤技術となることが期待される.