2021 年 87 巻 5 号 p. 237-245
【背景】長崎市では多くの人びとが斜面地に建てられた住宅に住んでおり,とくに急斜面である場合も少なくない.しかし,高齢者は身体機能が低下していることが多いため,こうした斜面地での生活には困難が伴う.すなわち,居住環境に起因する不利益をより大きく被りやすい.【目的】長崎市中央地域を対象として,1)斜面地では車道に接面していない建物の割合が高いこと,2)勾配が急で,車道に面していない建物の割合が高い地域では,高齢者・高齢世帯の割合が高いこと,の2点を定量的に示すこと.【方法】地理情報システムを用いて幅員3メートル以上の道路から10メートル以上離れている建築物を抽出した.さらに,その割合と土地の勾配によって250 メートル四方のメッシュを分類した.1)はカイ二乗検定,2)は二元配置分散分析を用いて検討した.【結果】土地の勾配が5度以上15度未満のメッシュでは42.5%,15度以上のメッシュでは48.3%の建築物が車道に接していないと推定され,勾配によってその割合が有意に異なった.高齢者・高齢世帯の割合は,勾配が急なメッシュで高く,また,車道から離れた建物の割合が50%以上のメッシュで高かった.土地の勾配,車道から離れた建物の割合によるメッシュの分類は,高齢者・高齢世帯の割合と有意に相関した.【考察】上記1)および2)の仮説がともに定量的に支持された.自宅の周囲が急な斜面地であること,自宅から車両で移動できないことは高齢者の居住環境として不都合であり,外出行動の減少,ひいては身体活動の減少の要因となりうる.潜在的な社会的弱者が生活困難な地域に高い割合で居住している状態は改善されるべきである.また,都市計画においては,現状の人口構成では大きな問題とならない環境であっても,将来的に地域人口が高齢化すると住民に不都合なものとして顕在化しうることを認識すべきである.