日本健康教育学会誌
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総説
傷害制御の基本的原理
今井 博之
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2010 年 18 巻 1 号 p. 32-41

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抄録
傷害(injury)は子どもや比較的若年の成人に多いので社会的損失が大きい.より若年の早死に焦点を当てたYPLL(損失生存可能年数)によると,傷害はガンや心疾患を凌駕する第一位の座を占めており,公衆衛生上の重要問題の一つである.
かつて事故予防(accident prevention)と呼ばれていた分野は,今日では傷害制御(injury control)と呼ばれるようになった.その背景にはこの分野での過去数十年の進歩による概念の変遷がある.つまり,感染症制御モデルに倣った公衆衛生学的アプローチがその主軸となっている.
傷害制御の基本的原理は,(1) Haddonマトリックスに示されるように,必ずしも事故の発生頻度を減らさないでも傷害の重症度を減らすことは可能であり,また,それらの対策には予防-介入-事後対策など包括的な実践が可能であるという考え方である.さらに,(2) 受動的-vs-能動的対策,(3) 3E(教育,工学,法制化)アプローチ,などの理解も不可欠である.本稿は,これらの基本的原理を解説することを主な目的とした.
そしてさらに,近年発展をとげてきた行動科学的アプローチ(傷害氷山のエコロジカル・モデル,プリシード・プロシード・モデル,Haddonマトリックスの第3の軸)や,セーフコミュニティ運動が,傷害制御にどのように関わっているのかについても言及した.
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© 2010 日本健康教育学会
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