日本健康教育学会誌
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巻頭言
原著
  • 河嵜 唯衣, 佐藤 清香, 新保 みさ, 赤松 利恵
    2025 年 33 巻 2 号 p. 61-68
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    目的:成人期の食に対する感謝の気持ち(Gratitude for food: GF)を持つ成人の属性や食習慣の特徴や,GFと食物摂取頻度との関連を検討すること.

    方法:2023年2月にオンライン調査を実施した.成人男女4,296人を対象に,属性,GF,食習慣(調理,外食,中食,共食頻度),食物摂取頻度(加糖飲料,スナック菓子,甘い菓子類,加工肉類,野菜類)をたずねた.GFは1因子5項目の成人版食に対する感謝の気持ち尺度(Gratitude for food scale for adults: GFS-A)を用いて測定した.回帰分析を用いて,属性・食習慣・食物摂取頻度とGFS-A得点との関連を評価した.

    結果:1,800人を解析対象とした(解析対象率:41.9%).対象者の年齢の中央値(Q1, Q3)は40(30, 50)歳,半数が女性(n=900, 50.0%)であった.GFS-A得点が高い者は,最終学歴,世帯年収,調理・中食・共食頻度が高かった.属性,食習慣を調整した重回帰分析の結果,GFS-A得点が高いほど,加工肉類(β=0.07, P=0.003)と野菜類(β=0.14, P<0.001)の摂取頻度が高かった.

    結論:成人期のGFS-A得点が高い者では,調理や共食頻度が高く,野菜類等の摂取頻度が高い等,健康的な食生活に繋がる食習慣や食物摂取頻度との関連がみられた.

  • 吉田 悠, 牛田 悠介, 前田 和歌子, 山田 小織, 菅沼 大行
    2025 年 33 巻 2 号 p. 69-77
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    目的:尿ナトリウム/カリウム(Na/K)比と「推定野菜摂取レベル」を組み合わせた食生活指導と,両指標の定期測定を含むプログラムによる対象者の食生活や血圧の変化を検討した.

    方法:工場従業員112人に対し,非盲検単群前後比較試験を実施した.①2021年10月の健診時における尿Na/K比と「推定野菜摂取レベル」の結果に基づく食生活指導,②両指標の定期的な測定と結果の返却を行った.収縮期・拡張期血圧,尿Na/K比,「推定野菜摂取レベル」,塩分チェックシートスコア,減塩と野菜摂取に関する行動変容ステージについて介入前後の比較を行った.

    結果:88人(研究対象者の79%)を解析対象とした.指導から1年後の収縮期・拡張期血圧と尿Na/K比は有意に低下した(各々P=0.004, 0.004, 0.001).「推定野菜摂取レベル」および塩分チェックシートスコアは有意に上昇した(各々P<0.001, =0.006).減塩と野菜摂取の行動変容ステージは,「実行期」または「維持期」と回答した者がそれぞれ有意に増加した(いずれもP<0.001).重回帰分析にて血圧低下の要因を検討したが,有意な関連は認められなかった.

    結論:本プログラムは,尿Na/K比の低下および「推定野菜摂取レベル」の上昇を介して血圧の低下に寄与する可能性があることが示唆された.今後,さらに詳細な検討を行っていく.

  • 増岡 里紗, 佐藤 清香, 赤松 利恵, 井澤 修平, 中村 菜々子, 吉川 徹, 池田 大樹, 久保 智英
    2025 年 33 巻 2 号 p. 78-86
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    目的:労働者の朝食摂取の推進に向けて,勤務間インターバルの短い日が多い者の朝食の摂取頻度を検討すること.

    方法:本研究は,2022年に20~59歳の労働者20,000人を対象に実施されたインターネット調査「WELWEL」のデータを二次利用した横断研究である.属性や朝食を含む生活習慣について勤務間インターバル11時間未満の日数の比較を行った.従属変数を朝食の摂取頻度,独立変数を勤務間インターバル11時間未満の日数とし多項ロジスティック回帰分析を実施した.解析は男女別に行った.

    結果:解析対象者17,123人のうち,男性は9,221人(53.9%)であった.朝食をほとんど毎日食べる者は,男性5,790人(62.8%),女性5,534人(70.0%)であった.勤務間インターバル11時間未満の日がない者は男性7,113人(77.1%),女性7,079人(89.6%)であった.多項ロジスティック回帰分析では,男性のみ属性や生活習慣に関わらず,勤務間インターバル11時間未満の日数が1日増えたときに朝食をほとんど食べないオッズ比が高かった(男性:1.02[1.01, 1.03],女性:1.00[0.98, 1.02]).

    結論:男性は属性や生活習慣によらず,勤務間インターバルの短い日が多いと,朝食をほとんど毎日食べない者が多かった.十分な勤務間インターバル確保のための取組が求められる.

実践報告
  • 染井 順一郎, 河口 八重子
    2025 年 33 巻 2 号 p. 87-99
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    目的:未就学児への食育を支援するため,外部講師が保育所等の2, 3歳児クラスを対象に五感で食を体験しその感想を言語化する感覚学習の手法であるサペレメソッドを使った年6回の食育プログラム「味の教室」を訪問実践した.この有用性や普及可能性を検証する.

    活動内容:2020~2022年度の3年間,延べ21の保育所等(2歳児17クラス,3歳児20クラス:園児684名)を対象に,保育士等の参加を得て計220回実践した.実践日の保育士等との振り返りと共に,保育士等の参加メモ484件から活動を評価した.

    活動評価:園児たちは初回を除き約8割の班でほとんど全員が楽しそうに参加し,回を重ねるに従って体験活動や発話が活発となり,他の園児とのやりとりも増え,食への興味や関心の高まりが確認された.保育士等も園児と一緒の体験活動を楽しみ,食教材への共同注視と身体感覚の共有を通じて園児の感性に気づくきっかけを得,園児に寄り添った今後の保育・食育活動への応用が期待された.

    結論:外部講師による味の教室は,保育所等の日常保育業務に親和性をもって受容された.2歳児クラスでも保育士等と園児のコミュニケーションは成立し,園児の食への興味・関心を高め,保育士等には園児の感性への気づきを与える効果が確認された.多忙な保育現場への2歳児からの食育活動支援策として有効な手法である.

  • 松岡 珠美, 中嶋 名菜, 坂本 達昭
    2025 年 33 巻 2 号 p. 100-109
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    目的:中学1年生を対象として,給食喫食量適正化に向けた指導を行い喫食量等の変化を検討すること.

    活動内容:熊本市立A中学校の1学年185名を対象とした.学年全体を対象に保健体育科と技術・家庭科(各1時間)の時間に「適正量の給食を食べること」に関する授業を行った.加えて,継続的に喫食量が少ない生徒25名を対象に,栄養教諭による個別的な指導を実施した.介入前後の3日間,全生徒の給食喫食量を秤量記録した.給食からのエネルギー摂取量が,個人の推定エネルギー必要量×33%値に近づいたかを評価するために,秤量調査から求めた個人のエネルギー摂取量と,個人の推定エネルギー必要量×33%値の差の絶対値を評価指標とし,介入前後で比較した.

    活動評価:秤量により求めた個人のエネルギー摂取量と,個人の推定エネルギー必要量×33%値の差の絶対値の中央値は,男子は介入前の9月92 kcal,介入後の3月104 kcalで変化はなかった.一方,女子は9月89 kcal,3月63 kcal(P=0.025)であり,介入後に推定エネルギー必要量×33%値と給食からのエネルギー摂取量の差の絶対値が低下し,給食からのエネルギー摂取量が推定エネルギー必要量×33%値に近づいた.

    結論:介入後において,女子の給食喫食量が好ましい方向に変化した.この変化が指導の効果であるかは,さらなる検討が必要である.

  • 千葉 由美子, 石井 あかね, 鈴木 向日葵, 林 芙美
    2025 年 33 巻 2 号 p. 110-122
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    目的:市内の弁当販売店でナッジを活用し,栄養バランスに配慮した弁当の販売と情報提供を行い,弁当選択に関連する要因を量的・質的に検証すること.

    事業内容:各店舗2種類,計4種類の弁当(T弁当)を著者らが考案し,2023年7月18日~10月31日に戸田市内の弁当販売店2店舗で週2日販売した.販売時にはラベル,ポスター等でナッジの枠組み(EAST)を活用した情報提供を行った.選択理由の把握のため,7月末~9月に店舗利用者を対象としたインターネット調査を行い,8月には福祉保健センター職員6名に個別インタビュー調査を実施し,感想やヘルシーメニューに対する印象の変化を評価した.

    事業評価:販売実績はA店舗259食,B店舗150食であった.購入群の選択理由は「見た目がおいしそう」が最多で,魅力的な見た目(A: 魅力的)が選択を促した.一方,非購入群は「好きな料理・食材」「自分で作らない料理」の割合が高く,嗜好に合った食材や調理の工夫(A)が必要であると示唆された.「価格」も非購入群で高く,手頃な価格設定の重要性が示された.インタビューでは,T弁当について[味に満足]が全員から挙げられたが,個々にマイナスの感想・意見も挙げられた.

    今後の課題:弁当販売店等にてヘルシーメニューの選択を推進するためには,外観だけでなく,利用者の嗜好に合わせた味付けの工夫や経済的インセンティブの活用について検討する必要性が示唆された.

特集:「歯・口腔の健康づくりプラン」の実現戦略を考える
  • 福田 英輝
    2025 年 33 巻 2 号 p. 123-124
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー
  • 相田 潤
    2025 年 33 巻 2 号 p. 125-131
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    「健康日本21(第三次)」では個人の行動や健康の土台にある社会環境の改善により「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」をすることが目指されており,社会環境が健康に影響をする「健康の社会的決定要因」の概念を反映している.経済状況や人のつながりなどの多様な社会的決定要因は,人々の行動や健康に影響し健康格差の原因となる.社会環境の影響は強く,学校での健康教育後に経済的に豊かな地区の子どもたちの口腔の健康は改善したが貧困地区の子どもたちでは改善が見られず,健康格差が拡大したという報告もある.このようにケアが届いてほしいハイリスク者ほど改善が難しいことは「逆転するケアの法則」として知られてきた.そのため社会環境へのアプローチが強調されるようになったのである.この例としてう蝕予防のための園・学校での集団フッ化物洗口や,職域での歯科検診を促進する取り組みが挙げられる.集団フッ化物洗口は家庭環境にかかわらず子どもにも恩恵があり,健康格差を減らすことが知られ,政策的にも推奨されている.職域での取り組みは,忙しくて受診が難しい年齢層の歯科検診受診を増加させるであろう.こうした学校や職域を健康的な社会環境に変容するためには,健康部門が学校や職域と協働する多部門連携が必要となる.この「社会の変容」のためには,異なる部門の人々にアドボケート・推奨,すなわち社会を変える広い意味での健康教育が求められている.

  • 小川 祐司
    2025 年 33 巻 2 号 p. 132-139
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    口腔疾患は先進国・開発途上国を問わず人々のクオリティオブライフを損ね,公衆衛生上大きな問題である.口腔保健を世界的に推進していくため,世界保健機関(World Health Organization: WHO)は口腔疾患を非感染性疾患(Noncommunicable Diseases: NCDs)と位置付けて活動を展開している.その背景には,喫煙,過度の飲酒,不健康な食生活などの共通するリスクファクターを有しているからである.口腔疾患のコントロールや予防を学校保健や高齢者保健など他の分野と施策を共有させることにより,ライフコースアプローチとして,子供から高齢者までの健康に寄与することが可能になる.そして,歯科における禁煙支援や砂糖の摂取抑制を含めた栄養指導の実践は,口腔疾患とNCDs予防に貢献する.

    また,急速な高齢化は世界共通の課題となっており,高齢者の幸福や住み慣れた環境での機能性を実現する健康な高齢化が模索されている.健康寿命延伸のためには,高齢者への歯科医療・口腔保健の充実が不可避であり,口腔保健の専門家が他職種の専門家と協働する多職種連携のチームに加わることが求められている.

    口腔保健は口腔の健康を意味するものだけでは成り立たなくなっている昨今,SDGsなどのグローバルイニシアティブにおいて口腔保健の意義を実質化するためにも,あらゆる保健に従事する専門家の意識改革が必要である.

  • 深井 穫博
    2025 年 33 巻 2 号 p. 140-146
    発行日: 2025/05/31
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    背景:2024年から歯科口腔保健の推進に関する基本的事項(歯・口腔の健康づくりプラン)(第二次)が,健康日本21(第三次)と調和のとれた計画としてスタートした.期間は2035年までの12年間である.この基本的事項は,2011年に制定された歯科口腔保健法の本文の記載に基づく.

    内容:歯科口腔保健法は,歯科口腔保健の総合的推進という観点から,地域保健法及び健康増進法と連携・補足する基本法的性格を持っている.加えてこの法律の中で,口腔と全身の健康との関連を示すエビデンスが蓄積されてきたことを踏まえ,口腔の健康は,「国民が健康で質の高い生活を営む上で基礎的かつ重要な役割を果たしている」と位置づけられた.この法文に定めた基本的事項には,歯科口腔保健の知識の啓発,個別的及び公衆衛生的見地から行う歯科疾患予防,歯科検診を受けること等又は歯科医療を受けることが困難な者に対する対策,口腔の健康に関する調査・研究の推進の必要性等が明記されている.この歯・口腔の健康づくりプランと健康日本21の最上位の目標は,いずれも健康寿命の延伸と健康格差の縮小である.

    結論:歯科口腔保健の推進を誰一人取り残さず進めていくためには,多分野・多職種が連携した健康増進を図る社会環境の整備が必要である.他分野から孤立した歯科口腔保健施策であってはならない.

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