日本健康教育学会誌
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最新号
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巻頭言
原著
  • 大西 安季, 柴田 愛
    2024 年 32 巻 2 号 p. 61-71
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/06/26
    ジャーナル フリー

    目的:腹圧性尿失禁(SUI)を有する成人女性を対象に非対面で提供する骨盤底筋へのセルフマッサージプログラムにおける自覚的尿失禁への効果検証と半構造化個別インタビューから簡易的かつ継続的に実施可能なSUI予防対策開発に向けた改良点抽出を目的とした.

    方法:2022年9月に,埋め込み型混合研究法介入デザインを実施した.ソーシャルネットワーキングサービス(Facebook, Instagram)の利用者に向けて公募し,SUIを有する成人女性40名(量的調査:40名,質的調査:32名)に2週間のコントロール期間後に12週間の骨盤底筋へのセルフマッサージを1日1回以上,週5回以上の頻度で対象者それぞれが自宅等で実施した.介入期間中1, 6, 12週にインタビューを行い,実施方法の忠実性,教材内容と表現,使用機器の適正について調査した.主要評価指標の国際尿失禁会議質問票(ICIQ-SF)は,コントロール期間開始時,ベースライン,介入後4, 8, 12週に調査した.

    結果:反復測定一元配置分散分析にてICIQ-SFスコア変化を検討した結果,測定時期に主効果が認められた.多重比較の結果,介入開始時より,介入後4, 8, 12週のICIQ-SFスコアが有意に低かった.インタビュー調査からは,実施方法説明書,使用するボールの大きさ,支援方法への課題が抽出された.

    結論:12週間の骨盤底筋へのセルフマッサージは,自覚的尿失禁症状低減に有用である可能性が示された一方,ボールや提供資料の改善が更なる効果向上には必要であることが分かった.

  • 川村 晃右, 松本 賢哉, 森岡 郁晴
    2024 年 32 巻 2 号 p. 72-83
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/06/26
    ジャーナル フリー

    目的:Broad Autism Phenotype(BAP)の程度が高い人は,対人関係で困難を抱えることが多い.本研究では,BAPの程度に応じた社会的スキル,コミュニケーション・スキルの向上のための教育プログラムを構築することを目的とした.

    方法:前後比較デザインで実施した.4週間の教育プログラムは,Social skills trainingのプロセスを参考に,こころかるた,ジェスチャーゲーム,物語の完成,参加者同士の自己開示で構築した.2大学の看護系学部の学生の1, 2年生で,22人を対象とした.教育プログラムの前後にBroad Autism Phenotype Questionnaire日本語版(BAPQ-J),Kikuchi’s social scale-18項目版(KiSS-18),ENDCOREsの質問紙調査を行った.対象者をBAPの程度で区分するために,BAPQ-Jの全体尺度の平均点を用いて2群に分けた.群ごとにプログラム前後のKiSS-18, ENDCOREsを比較した.

    結果:教育プログラム後にBAPの程度が低い群で,攻撃に代わるスキル,他者受容が,BAPの程度が高い群でKiSS-18の全体尺度,攻撃に代わるスキル,表現力,自己主張が有意に上昇した.

    結論:本研究で構築した教育プログラムはBAPの程度が低い者でも社会的スキルとコミュニケーション・スキルが向上し,高い者ではより顕著に向上させる可能性が示唆された.

  • 新保 みさ, 吉井 瑛美
    2024 年 32 巻 2 号 p. 84-93
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/06/26
    ジャーナル フリー

    目的:情報通信技術(information and communications technology, ICT)活用により特定保健指導を効率的・効果的に実施するために,ICTを活用した面接のメリットとデメリットを調べることを目的とした.

    方法:2022年8~9月に特定保健指導の委託会社A社と契約している管理栄養士で対面およびICTを活用した初回面接の経験がある者を対象に,WEB調査とインタビュー調査を行った.調査項目は属性等,ICTを活用した面接のメリットとデメリットであった.WEB調査ではメリットとデメリットを自由記述式でたずねた.自由記述の回答とインタビューの逐語録からICTを活用した面接のメリット・デメリットを抽出し,コード化やカテゴリー化を行った.

    結果:WEB調査は78名,インタビュー調査は6名が回答した.ICTを活用した面接のメリットとして495件のコードが抽出され,〈利便性〉〈面接しやすさ〉〈資料の共有や管理〉〈指導しやすさ〉〈感染症関連〉〈学びや経験〉に分けられた.デメリットとして484件のコードが抽出され,〈ICT利用の物理的な障害〉〈ICT利用の認知的な障害〉〈コミュニケーション〉〈指導しにくさ〉〈資料やツール〉〈環境の設定〉〈時間の調整〉に分けられた.

    結論:ICTを活用した面接には,メリットもデメリットもあった.より効率的・効果的な特定保健指導を実施するためには,対象者や環境に合わせてICTと対面での面接を使い分ける必要性が示唆された.

  • 松岡 珠美, 坂本 達昭
    2024 年 32 巻 2 号 p. 94-103
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/06/26
    ジャーナル フリー

    目的:中学生の給食喫食前の減量調節に関連する不安要素を検討すること.

    方法:熊本市内の公立中学校(5校)の中学1年生973名に横断調査を行った.調査項目は,身長と体重(自己申告),給食の食べ残し,給食喫食前の減量調節(主食・おかず),給食喫食前の不安要素である.無効回答を除く659名(男子331名,女子328名)を解析対象とした.給食喫食前の不安要素と給食喫食前の減量調節との関連は,給食喫食前の不安要素を独立変数,給食喫食前の減量調節を従属変数としたロジスティック回帰分析で検討した.

    結果:給食を全部食べるには時間が足りないのではないかと思っている者は,喫食前に減量調節をしているオッズ比が高かった(オッズ比[95%信頼区間]主食:男子2.49[1.34, 4.62],女子2.39[1.41, 4.06]おかず:女子2.31[1.37, 3.88]).また,給食を全部食べることで体調が悪くなるのではないかと思っている者は,喫食前の減量調節をしているオッズ比が高かった(主食:男子5.89[2.29, 15.10],女子4.15[1.85, 9.30],おかず:男子4.43[1.67, 11.74],女子3.44[1.59, 7.51]).

    結論:時間が足りないと思っている者や,喫食後の体調を不安に思っている者ほど,喫食前に主食やおかずの量を減らしていることが示唆された.

実践報告
  • 小山 達也, 川畑 輝子, 青野 昌代, 三國 正人, 川原田 恒, 道林 千賀子, 中村 正和, 吉池 信男
    2024 年 32 巻 2 号 p. 104-110
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/06/26
    ジャーナル フリー

    目的:青森県東通村では,減塩・増カリウムを目指し,住民健康診査の場を活用した保健指導と食環境づくりを組み合わせた事業を開始した.本報告は,スーパーとそのスーパーが運営し,スーパーに行く手段として利用される買い物バス内での情報へのアクセス向上を目指した食環境づくりに関し,プロセス評価を行い,それらの実施可能性を考察することを目的とした.

    活動内容:2021年11月から食環境づくりを開始し,減塩レシピカードを作成してスーパーと買い物バス内に設置した.スーパー内には,減塩食品や牛乳・乳製品の陳列棚にポップを付けた.買い物バス内には,減塩のコツやカリウムの摂取の推奨を記載したポップを設置した.買い物バス利用者を対象に,2021年11月(事前調査34名)と2022年3月(事後調査22名)に聞き取りによる質問紙調査を3日間ずつ行った.

    活動評価:ポップやレシピ等の設置後に行った事後調査では,ポップを「よく見た」または「時々見た」と回答した者の割合は,スーパー店内に関しては約3割であったのに対し,買い物バス内に関しては約6割であった.減塩レシピカードの利用状況として「ほぼ全部作った」「半分以上作った」「何品か作った」のいずれかを回答した者は約2割であった.

    結論:買い物バスの利用客に対しては,スーパー内よりも買い物バス内で情報提供した方が,より認識されやすい可能性が示唆された.

特別報告
  • 佐藤 清香, 大内 実結, 谷内 ななみ, 髙野 真梨子, 福井 涼太, Li Jing, 石川 ひろの
    2024 年 32 巻 2 号 p. 111-117
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/06/26
    ジャーナル フリー

    目的:2023年度に日本健康教育学会若手の会が企画した,『「健康無関心層」に対するヘルスコミュニケーションのあり方について考える』というテーマの学習会について,その内容と成果を報告する.

    活動内容:オンライン形式で,25人が参加した.参加者は,個人ワークで考えた健康無関心層に対する印象を共有したのち,石川ひろの氏による健康無関心層の特徴とヘルスコミュニケーションに関する講義を受け,どのようにヘルスコミュニケーションを用いれば健康無関心層にアプローチできるかをグループワークで議論し発表した.学習会後に事後アンケートを実施した結果,回答者全員が学習会プログラムに対して満足であると回答し,ほとんどの参加者がテーマに対する理解度が上昇し,学んだ内容を活用する手がかりが得られたと回答した.改善点は,講義時間や内容,グループワークの時間や構成,開催形態,告知などについて挙げられた.

    今後の課題:講義やグループワークの最適時間の検討,具体的な開催内容の告知,効果的なグループワークの考案,参加者の知識・経験レベルに合わせた事前課題の設定などを行うことで,より多くの若手研究者・実践者の研究・実践活動の促進に貢献できる学習会となる可能性がある.

特集:健康教育・ヘルスプロモーション研究のための方法論講座
  • 喜屋武 享
    2024 年 32 巻 2 号 p. 118-124
    発行日: 2024/05/31
    公開日: 2024/06/26
    ジャーナル フリー

    本稿は,これからシステマティックレビューを実施してみたいという初学者がその基礎を一通り理解できるようになることを目指している.システマティックレビューは1次研究の成果を包括的に収集,評価し,知見を統合することを目的とした2次研究である.1次情報の「収集」「選択」「抽出」「評価」が明確かつ系統的に行われるため,研究者の個人的な知識や経験に依存するナラティブ・レビューとは区別される.エビデンスヒエラルキーにおいて上位に位置し,研究者にとって研究の現状と将来の展望を客観的に把握するための重要な手段となる.システマティックレビューの過程にはリサーチクエスチョンの設定,データベースの選定,検索式の作成,採択・除外基準の定義,データの抽出と管理,論文の質の評価,そしてプロトコルの登録が含まれる.システマティックレビューは論文執筆のためだけでなく,研究分野の発展や政策決定においても重要な役割を果たす.本誌へのシステマティックレビューの投稿が期待される.

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