近畿理学療法学術大会
第47回近畿理学療法学術大会
セッションID: 12
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脊髄損傷者の下肢運動および運動イメージ中の前頭葉活動
*佐藤 剛介千葉 郁代喜多 あゆみ藤田 浩之中野 英樹山下 浩史森岡 周
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抄録

【目的】脊髄損傷者の大脳皮質では、受傷後の感覚運動経験に伴いその機能再編成が起こるといわれる。これは運動学習のための重要な脳内機構であるが、その実際の脳活動を測定した報告は極めて少ない。本研究では脊髄損傷者の下肢運動および運動イメージ課題の最中の脳活動を機能的近赤外線分光法(以下fNIRS)を用いて検討する。
【方法】研究計画を説明し、同意の得られた健常男性2名(年齢29±2歳)と外傷による第12胸髄完全損傷の対麻痺者1名(年齢39歳)が実験に参加した。脊髄損傷者は受傷より1年10ヵ月が経過し、損傷高位以下の感覚と運動は完全麻痺であった。日常生活は自立しており、ロフストランド杖と長下肢装具を使用した立位と歩行は可能であった。頭部外傷や他の脳損傷の既往症は認められなかった。脳活動の測定にはfNIRS(島津製作所FOIRE3000)を用いた。今回は前頭葉部に限定し、中心溝より前方の前頭部全体をフォルダで覆いファイバを装着した。測定は5×6を3cm間隔でファイバを装着し、30チャンネル使用した。課題は1)言語指示を加えない他動的膝伸展運動、2)「膝を伸ばす」の言語指示を加えた後の他動的膝伸展運動、3)膝伸展運動の一人称的イメージの3条件とした。測定は利き足で行ない、すべて閉眼、端座位で実施した。タイミングプロトコルは安静を20秒間測定した後、安静-課題-安静を10秒-20秒-10秒とし、各課題とも3回連続で行った。パラメータには酸素化ヘモグロビン(oxyHB)を用いた。また、Fusionソフト(島津製作所製)を用いて、マッピング後MRI画像へ重ね合わせを行い、oxyHBが増加した部位の推定を行った。
【結果】脊髄損傷者は、課題1で左一次運動野、左前運動野、左前頭前野背外側部のoxyHBが増加した。課題2では課題1に比べ、左一次運動野、左前運動野、左前頭前野背外側部のoxyHBが低下した。課題3では左一次運動野と左前頭前野背外側部のoxyHBが増加した。健常者との比較では、課題1と2で同様の結果を示したが、課題3において前運動野の若干の活動の違いが認められた。
【考察】課題1は自由意志に基づく運動であったことから、左一次運動野に加えて左前運動野、左前頭前野背外側部に活動が認められたと考えられる。これは運動予測やワーキングメモリ機能の関与が大きいと考えられる。一方、課題2は自由意志に基づいた運動ではないため、それらの機能が働かなかったことが考えられる。課題3では運動を伴わない一人称イメージであったことから、実際運動よりも運動を企画する領域である前運動野の活動が低下したと推測される。通常、運動イメージは身体イメージに基づいて生成される。運動イメージにおいても一次運動野や前頭前野に活動が認められたことは、脊髄損傷者の身体イメージが経過とともに脳内に形成される可能性が示唆された。

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© 2007 社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
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