近畿理学療法学術大会
最新号
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  • -シングルケーススタディ-
    渕上 健, 川端 重樹, 西本 憲輔, 北裏 真己, 松尾 篤
    セッションID: 1
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  近年,運動観察と身体練習を組み合わせた運動観察治療(Action Observation Therapy;以下AOT)の効果が報告されている.慢性脳卒中片麻痺患者の上肢に対するAOTの報告では,日常生活動作の観察と身体練習の組み合わせが,身体練習のみと比べ,運動機能を有意に向上させたと報告されている.さらに,30分間の母指伸展運動のAOTが,麻痺した母指伸筋の一次運動野の皮質興奮性を高めると報告されている.これは,目標指向型動作だけでなく,単純な関節運動のAOTによっても運動機能改善を導く可能性を示している.一方,脳卒中後の下肢運動機能障害に対するAOTの報告は散在する程度であり,さらなる臨床研究が必要とされている.よって,本研究の目的は脳卒中片麻痺患者の足関節背屈機能障害に対して,単純な関節運動のAOTを行い,その効果を検証することである. 【方法】  対象は初発の脳梗塞(皮質下)右片麻痺を発症し,2カ月経過した70歳代の女性とした.研究開始時の理学所見としてFugl-Meyer下肢項目は24/34点,下肢粗大触覚は7/10,足関節運動覚は5/5,Mini-Mental State Examinationは28/30点,半側空間失認,失語症などの高次脳機能障害は認めなかった.下肢粗大筋力は4レベルであったが,足関節背屈MMTは1レベルであり,足関節背屈Modified Ashworth Scaleは2であった.FIMは111/126点で,院内移動はT字杖と短下肢装具にて歩行自立レベルであった.麻痺側足関節背屈機能低下に対して反復練習,課題指向型練習を積極的に取り入れ,毎日60分以上の理学療法を提供したが,著明な足関節背屈機能向上を確認することができなかったため,介入開始となった.〈BR〉  研究デザインはABAデザインを用い,Aを基礎水準期,Bを操作導入期とした.基礎水準期,操作導入期はいずれも2週間とし,介入は週に5回実施した.また,研究期間中通常の理学療法も施行した.〈BR〉 AOTは健常女性が右側足関節背屈運動を実施している場面を撮影したDVDを作製し,その映像を観察しながら同時に同運動を行った.DVDはデジタルビデオカメラで一人称視点になるように正中,外側,内側の3方向から撮影し,各方向からの映像を10分間ずつに編集し,9インチのDVDプレーヤーを使用して再生した.VTR中の足関節背屈運動は1秒間に1回行われ,参加者は椅坐位で映像を観察しながら運動を行った.また,このときVTR中の足関節背屈運動を模倣する意図を持って観察するよう指示した.一日の介入時間は3方向からの映像を各10分間の計30分間行い,10分間ごとに約1分間の休憩を取り入れた.評価項目はFugl-Meyer足関節項目(FM足項目),足関節自動背屈関節可動域(足関節背屈ROM),足関節背屈筋力,短下肢装具なしでの最大10m歩行時間・歩数とし,各期の直前直後に測定した.足関節背屈筋力の測定はHand-Held Dynamometer(ANIMA社製μ Tas MF-01)を用いた.測定肢位は左側股関節膝関節屈曲90°・足関節中間位,右側股関節屈曲90°・膝関節屈曲50°・足関節底屈30°で,両側足底が床に接地した端坐位で統一し,等尺性足関節背屈筋力を3回測定し,最高値を採用した.また,研究期間中通常理学療法も施行されていた. 【説明と同意】 先行研究の知見や方法について口頭及び紙面にて十分に説明を行い,自由意志にて同意を得た. 【結果】 ABA各期における変化量は,FM足項目が0点,+4点,0点であり,足関節背屈ROMは0°,+5°,0°であり,足関節背屈筋力は0kg,+2.7kg,-0.6kgであった.最大10m歩行時間は+2.8秒,-6.7秒,-0.4秒であり,歩数は+2歩,-4歩,-1歩であった. 【考察】 AOT後,麻痺側足関節背屈の自動運動が確認できるようになり,足関節背屈筋力,ROM,FM足項目に改善を認めた.これは,先行研究と同様に,運動方向の一致した運動観察と身体練習を組み合わせることで,足関節背屈筋の皮質興奮性を高め,足関節背屈機能向上を導き,さらに歩行時間や歩数の短縮に関与した可能性が考えられる.〈BR〉 先行研究では,日常生活上の上下肢運動の観察と身体練習の組み合わせが一般的であるが,本研究では単純な単関節運動をVTRに使用した.これにより,単純な単関節運動のAOTは,先行研究と同様に,脳卒中後の機能障害を改善させる可能性が考えられる.しかし,本研究は回復過程にある参加者を対象にしたことから,自然回復の影響を除去した研究デザインで効果を検討していかなければならない. 【理学療法研究としての意義】  シングルケースデザインではあるが,AOTの臨床応用への根拠の一部を提供できたことは意義深いと考える.
  • 尾崎 泰, 長 知子, 辻村 雅美, 藤本 康裕, 杉山 華子
    セッションID: 2
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 当院のリハビリテーションプログラムとして急性期より基本動作の積極的介入が挙げられる。今回、出血性脳梗塞により、重度片麻痺・半側空間無視が予想された症例に対し、急性期より寝返り動作を中心とした体幹の回旋を促した結果、基本動作能力に改善が認められた。今回我々は、体幹の回旋による身体図式の再構築と姿勢制御に関わる体幹機能に着目し、急性期からアプローチすることにより比較的良好な成績が得られたので報告する。 【方法】 症例は70歳代女性である。平成X年10月右中大脳動脈領域広範囲(右前頭葉・頭頂葉、側頭葉)の脳梗塞による左片麻痺。入院3日目より理学療法開始となる。入院5日目、梗塞巣内に出血拡大を認めたため一時リハビリ中止となるが、2週後より再開となった。初期評価では、注意持続性低下と半側空間無視(SIAS visio-spatial-deficit0点)が認められた。SIAS sensory 表在U/E1/3 L/E1/3、深部U/E0/3 L/E0/3。SIAS motor U/E0/5 F0/5 L/E1・1・0/5。FIM35点。日常生活機能評価14点。動作能力では寝返りから端座位保持まで全介助であり、基本動作評価(ABMS)10点であった。治療頻度1日40分、治療期間はリハビリ再開から退院までの2週間。治療プログラムとして、安静時仰臥位姿勢では頭部体幹が右回旋しているため、寝返り動作の準備段階として仰臥位姿勢のアライメント修正から試みた。左肩甲帯・左上部体幹を左回旋させ支持基底面として強調した。次いで右肩甲帯・上部体幹の左回旋を介助下で誘導し、上部体幹・下部体幹の分節的な活動性及び症例が能動的に寝返り動作へ参加することを中心にプログラムを実施した。 【説明と同意】 倫理的配慮として、対象者とその家族に書面にて説明し承諾を得た。 【結果】 退院時において、半側空間無視(SIAS visio-spatial-deficit1点)、FIM42点、日常生活機能評価8点、基本動作評価(ABMS)17点とそれぞれ改善がみられた。SIAS sensory・motor変化はみられなかったが、動作能力としては、寝返り監視、起き上がり一部介助、端座位保持近位監視まで改善がみられた。 【考察】 松葉らは、急性期から機能回復を促すためには、2次的障害の予防と早期離床からなる理学療法プログラムだけでは不十分であり、その後の長期にわたる機能回復の基本として急性期からの体幹機能へのアプローチの重要性を述べている。そこで、基本動作がすべて全介助である本症例に対し、病巣部位より半側空間無視による身体図式の障害に加え姿勢制御不全を呈していると推測し、急性期より積極的な体幹の回旋を伴った寝返り動作に着目した。また、半側空間無視に対しては、仰臥位での姿勢アライメントを修正することで、左後頸部の筋が伸長されることにより体幹の正中軸が左へ偏倚し、頭部が能動的に左側方へ回旋を促すことが有効であったと考えられる。Karnathらは左半側空間無視例では、方向性注意が顔面の向きではなく体幹の回旋の方向に依存するとし、体幹の正中軸は伸張された筋の方向へ偏位すると述べている。一方、体幹の安定性には多くの筋群が関与するが、体表に位置する比較的大きな筋群であるグローバル筋は体幹の運動に作用し、身体深部に位置する比較的小さな筋群であるローカル筋は姿勢制御に関与するといわれている。Peckらは、小さい筋の筋紡錘の密度は全ての部位で例外なく、大きい筋に比べて高値であったと述べており、小さい筋には中枢神経系に重要な固有受容感覚のフィードバックを行う役割があると考えられる。本症例において上部体幹から下部体幹へと分節的に寝返ることで、脊柱起立筋など体幹の姿勢制御に関わるローカル筋が活動し、内側運動制御系である網様体脊髄路が賦活され、運動麻痺が重度であっても動作能力に改善がみられたのではないかと考えられる。 【理学療法研究としての意義】 本症例のような重度片麻痺に半側空間無視を有する場合、急性期リハビリテーションにおいて半側空間無視に対する体幹の回旋と姿勢制御に関与する内側運動制御系を賦活する基本動作として寝返り動作が有用であったと考える。
  • 徒手的介入により嚥下障害が改善した1症例
    餅越 竜也, 小澤 明人
    セッションID: 3
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  脳卒中治療ガイドラインによると、急性期の脳血管障害では70%程度の割合で嚥下障害を認めるとされ、経口摂取を開始する前には、意識状態や流涎、水飲み時の咳や喉頭挙上などを観察し、嚥下造影検査、内視鏡検査などを行って、栄養摂取方法を調整することで、肺炎の発症が有意に減少すると報告されている。当院においてもガイドラインに従って発症後早期から理学療法、作業療法、言語聴覚療法を開始することで早期離床を促すとともに、二次的な障害発生の予防及び日常生活動作の拡大を図っている。  脳血管障害の嚥下障害に対しては、坐位姿勢の工夫やポジショニング等で関わることが多く、嚥下障害に対して直接的介入を行うことで嚥下障害が改善したという報告は少ない。  今回、左延髄外側の脳梗塞により嚥下障害を呈した症例に対して、喉頭挙上に必要とされる舌骨上筋群を直接手指にて圧迫することにより嚥下障害の改善を認めた経験を得たため、若干の考察を加え報告する。 【方法】  症例は左椎骨動脈瘤からのくも膜下出血と左延髄外側の脳梗塞を発症した50歳の女性である。具体的な機能障害は右半身の温度覚と痛覚鈍麻、及び左半身の運動失調症と右の顔面麻痺といったいわゆるWallenberg syndromeを呈していた。嚥下障害は左軟口蓋麻痺を認め、唾液嚥下時に喉頭挙上を認めず嚥下が困難であったため経鼻経管栄養となった。咽頭に痰の貯留が多く、咳嗽反射は不十分であった。発話明瞭度は2~3で嗄声を認めた。改訂水飲みテストは実施不可であった。藤島の摂食・嚥下能力のグレードは2。FIMは38点(食事1点)であった。  発症から約4週後に嚥下造影検査を実施し、左声帯麻痺、咽頭の嚥下運動低下を指摘されるが、咳、嚥下反射は保たれており、軟口蓋麻痺も目立たないという診断であった。理学療法介入として嚥下時に必要となる顎二腹筋後腹、茎突舌骨筋もしくは顎舌骨筋を徒手的に圧迫し、喉頭挙上が起こり嚥下が可能となるか否かを評価した。 【説明と同意】  症例に対し本研究の主旨を説明し同意を得た。 【結果】  左側の顎二腹筋後腹、茎突舌骨筋もしくは顎舌骨筋を圧迫することで、喉頭蓋の挙上が起こり、ゼリーの嚥下が可能となった。  発症から約6週間後の最終評価時には、改訂水飲みテストは5点。藤島の摂食・嚥下能力のグレードは9。最終のFIMは123点(食事7点)となった。 【考察】  症例は、くも膜下出血による頭痛と延髄梗塞による回転性幻暈、運動失調症に加え、頻回な咳嗽により頚部・肩甲帯周囲筋は過緊張を呈し、腰背部から頭頂部にかけて広範囲に疼痛を訴えていた。また、咀嚼運動を行わないことで咀嚼・嚥下に必要な筋群にも廃用が生じ、将来的に嚥下機能回復の妨げや二次的な疼痛を生じさせる可能性も考えられる。  端座位姿勢は左側中枢部の低緊張のため骨盤は後傾・左後方回旋した左後方重心となり、頚部は右側屈・右回旋し体幹は右側屈して両側の肩甲帯は挙上位を呈していた。左重心となっていることや頚部が右回旋していることに対しての自覚は乏しく、感覚障害に加えボディーイメージの障害も疑われた。  理学療法では、骨盤のコントロールと頚部・体幹の自律的な反応を促してきた結果、座位のアライメントが改善し、上部体幹の過剰な努力が軽減した。また、リラクゼーションと疼痛緩和を目的に頚部筋に対して徒手療法を行ったが、第1、第2頸椎横突起付近を圧迫した際に、対象者から「唾液が飲めそう」と発言があった。そこで同部位を圧迫しながら唾液嚥下を行った結果、唾液嚥下が可能となった。同日に言語聴覚士によるゼリー食の練習も同様の方法により摂取可能となった。また、下顎の内下方を圧迫する事でも同様に嚥下が可能となった。第1、第2頸椎横突起付近には顎二腹筋後腹、茎突舌骨筋が存在し、下顎の内下方には顎舌骨筋が存在する。いずれの筋も喉頭を挙上させる筋群であり、同筋群を圧迫することにより喉頭挙上が得られ、食道入口部が拡大しやすくなり嚥下が可能となったと考えられる。  上記筋群にも筋紡錘の存在が確認されており、骨格筋からの痛みの信号を伝える_III_・_IV_群感覚神経は筋の受動的伸張や筋収縮にも応答しないが、筋の圧迫により応答すると報告されている。よって舌骨上筋群を圧迫刺激することで感覚入力が増して筋収縮が促され、喉頭挙上に繋がったものと推測される。  延髄梗塞等によって舌骨上筋群の収縮のタイミングや協調的な筋収縮に左右差を生じている症例に対しては、上記のアプローチが有効であると考えられる。 【理学療法研究としての意義】  理学療法士はこのような症状を示す対象者に対して、姿勢や動作からのアプローチのみならず舌骨上筋群に直接アプローチすることで、急性期の嚥下障害改善に関与できる可能性が示唆された。
  • 久郷 真人, 谷口 匡史, 渋川 武志, 岩井 宏治, 平岩 康之, 前川 昭次, 阪上 芳男, 今井 晋二
    セッションID: 4
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     皮膚筋炎(delmatomyositis:DM)は対称性の四肢近位筋・頸部屈筋の筋力低下、筋痛を主症状とし、Gottron兆候やヘリオトープ疹などの特徴的な皮膚症状を伴う慢性炎症性筋疾患のひとつである。臨床検査では血清筋逸脱酵素(creatine kinase;CK)やLDH、aldorase、尿中クレアチン排泄量が異常高値を示す。治療としては副腎皮質ステロイドが第一選択薬とされるが、長期投与により満月様顔貌、行動変化、糖耐能異常、骨密度低下、ステロイドミオパチー等の多彩な副作用を生じることも多い。また、近年運動療法の適応についても多数報告されており、その効果が期待されている。
    今回、皮膚筋炎治療中にステロイドミオパチーを呈した症例を経験したので報告する。
    【症例紹介および理学療法評価】
     症例は43歳男性。2010年12月頃より右上腕部に筋肉痛・潰瘍出現、顔・頸部・対側上腕に皮疹が広がり、皮膚筋炎を疑われ精査目的にて当院入院となる。入院後皮膚生検・筋生検にて皮膚筋炎と診断され、ステロイド療法(prednisolone;PSL,60mg/day)が開始される。最大PSL120mg/dayまで漸増するもCK値低下遅延し免疫グロブリン療法(IVIG)施行。またPSL120mg/dayに増量後、副作用と思われる両下腿浮腫、満月様顔貌、および下肢優位のステロイドミオパチーと考えられる筋力低下の進行を認めたためCK値の低下に伴いPSLを漸減。
     入院後15病日目より理学療法開始。開始当初よりCK高値(約6000IU/L)であり、易疲労性、筋痛、脱力感著明。筋力はMMTにて股関節周囲筋2~3レベル。HHD(OG技研GT300)を用いた測定では膝関節伸展筋力右0.96Nm/kg、左0.83Nm/kg、股関節屈曲筋力右0.3Nm/kg、左0.28Nm/kgであった。立ち上がり動作は登攀性起立様、歩行は大殿筋歩行を呈していた。6分間歩行は141mであった。また体組成分析(Paroma-tech社X-scan)を用いた骨格筋量/体重比では34.4%であった。理学療法では下肢・体幹筋の筋力増強を目的に、自動介助運動から開始。CK値の低下とともに修正Borg scaleを利用し自覚的疲労度3~5の範囲の耐えうる範囲で自動運動、抵抗運動と負荷量を設定し、翌日の疲労に応じて調節しながら行った。
    【説明と同意】
     ヘルシンキ宣言に基づき、症例には今回の発表の趣旨を十分説明した上で同意を得た。
    【結果】
     理学療法介入後4ヶ月時点では、CK値は116UI/Lまで低下。PSLは25mg/dayまで漸減し、筋痛は消失するも易疲労性残存。筋力はHHDにて膝関節伸展筋力が右0.92Nm/kg、左0.78Nm/kg、股関節屈曲右0.69Nm/kg、左0.71Nm/kgであった。立ち上がりは上肢を用いずに可能、歩行はロフストランド杖にてすり足、大殿筋歩行。6分間歩行は180mに増加した。体組成分析を用いた骨格筋量/体重比では29.4%であった。
    【考察】
     今回、皮膚筋炎治療中にステロイドミオパチーを合併した症例を経験した。ステロイドミオパチーは蛋白の分解促進と合成抑制が起こり、特にtype_II_b線維の選択的萎縮を招くとされ、近位筋を中心とした筋力低下により難治例も多い。
     ステロイドミオパチーに対する治療は主にステロイドの減量である。一方で、近年ステロイドミオパチーに伴う筋力低下、筋萎縮の進行に対して運動療法は予防および治療手段として有効であるとされている。また、皮膚筋炎の場合、急激なステロイドの減量は筋炎症状の再燃を招き易く、これらの相反する治療方法から厳重な投与量管理および負荷量の設定が重要であるとされる。本症例において、CK値の正常化後も有意な上昇もなくステロイド減量が可能となり、筋力、骨格筋量の著明な低下を最小限に抑えられたことから、今回使用した修正Borg Scaleを用いた運動負荷量の設定方法および継続的な運動療法が有用であると考えられた。また、市川はステロイド減量による効果として10~30mg/dayに減量してから1~4ヶ月で筋力回復が認められると報告しており、本症例においては長期間の経過により廃用性の筋力低下も合併していることが考えられるため、今後も長期的な理学療法の介入が必要であると考える。
    【理学療法学研究としての意義】
     皮膚筋炎およびステロイドミオパチーに対する理学療法において筋力低下の病態を考慮した上で、早期からの介入により運動機能の維持、向上に努め、長期的な理学療法の介入が必要であると考える。また運動療法効果についての報告は少なく、今後さらなる症例・研究報告が望まれる。
  • 野洲 達史, 中江 基満, 川上 寿一
    セッションID: 5
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 2001年度からの5年間、国の施策として実施された高次脳機能障害支援モデル事業の結果、記憶障害・注意障害・遂行機能障害・情緒行動障害などといった、いわゆる前頭葉機能の問題によって引き起こされる高次脳機能障害が注目されるようになった。そのような背景のもと、高次脳機能障害の診断や評価法について活発な議論がなされている。その一方、高次脳機能障害者の身体機能に対する評価法や治療効果に対する報告は少ない。 当院では、一般的な理学療法評価に加え、高次脳機能障害者の総合的な体力を評価するために体力テストを実施している。本発表では実施した体力テスト結果について、若干の知見を得たので報告する。 【方法】 対象は当センターリハビリテーション科を受診し、高次脳機能障害と診断され、リハビリテーションを実施した患者の中で、ADL動作が自立し、20m以上走行可能な17歳~56歳(平均年齢51.2歳)の21名とした。 体力テストは文部科学省が実施している「新体力テスト」を対象者の年齢に合わせ、実施要項に準じて実施した。テスト項目は実施要項に準じ、握力・上体起こし・長座体前屈・反復横とび・20メートルシャトルランテスト・立ち幅跳びを実施した。 テスト結果は、実施要項に準じ項目別に得点をつけ、総合評価A~E判定・体力年齢の判定を行った。また、項目別結果および総合評価を平成21年度文部科学省統計によるテスト結果と比較した。 【説明と同意】 対象者には事前に、テストを行うこと・テスト結果を発表等に使用することもあることに同意していただき、主治医の許可の下、テスト実施中の安全に配慮し実施した。 【結果】 20名中1名は年齢相応の総合評価Cであったが、他の20名は総合評価D~F(D判定6例・E判定14例)でありテスト時の年齢よりも体力年齢が下回った。 項目別に見ると、握力・長座位体前屈・立ち幅跳びは年齢平均を上回る結果も見られたが、上体起こし、反復横とび、20mシャトルランテストでは、21例中19例で年齢平均に満たない結果となった。また実施中の拙劣な動作が目立った。 【考察】 今回体力テストを実施した21名中20名で、体力テスト結果に低下がみられた。また、項目別に見ても、低下している項目は同様であり、テスト中の動作様式も特徴的な場面が多く観察された。ADLを自立され、20mの走行が可能な程度の運動機能を有する患者は、自宅生活への復帰だけでなく、生活しておられた社会への復帰が目標となる。高次脳機能障害者の社会復帰においては、記憶障害・注意障害・遂行機能障害・情緒行動障害などの障害が主な問題点となることが多いが、復学や復職、地域社会での活動を考慮すると、体力的低下は大きな問題となる。今回行ったテスト結果は、社会復帰へむけた、いわゆる「体力」を正確にあらわす結果ではないが、同年齢と比較しての低下が著明にみられたことはライフステージに応じた支援を行っていく中で、継続したフォローが必要な項目と考える。 今回実施した体力テストは、テストの説明や指示も実施要項に従い、同一条件で行ったため、結果には、運動機能以外にも、注意の転動性やテストに対する意欲なども影響を与えていると考えられた。今後は、高次脳機能障害者の運動機能の特徴や体力的な問題点を明らかにしていき、復職・復学などの社会復帰に必要な社会的・総合的な運動機能・全身持久力評価を検討していきたい。 【理学療法研究としての意義】 一般的な理学療法評価バッテリーでは評価しにくいADL自立レベルの高次脳機能障害者の体力評価を行うことにより、プログラム立案・実施のデータとして用いる。また、高次脳機能障害者の運動機能特性考察や社会的・総合的な運動機能評価検討の基礎データとしての発展性が考えられる。
  • -膝伸展筋力・最大一歩幅の左右差に着目して-
    新井 隆生, 西濱 大輔, 大垣 昌之
    セッションID: 6
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 一般的に脳卒中片麻痺を呈した患者(以下,片麻痺患者)の歩行の特徴は,歩行速度の低下,ストライド長の低下,麻痺側から非麻痺側へのステップ長が短くなるなどが挙げられ,歩行の左右差が歩行効率の低下や,歩行速度に影響を与える可能性が考えられる.最大歩行速度に関連する因子として,麻痺側膝伸展筋力が関連するとの報告が散見されるが,運動麻痺の改善は認めないも,歩行能力が改善することも少なくない.運動麻痺の機能だけでなく,歩行能力に関連のある動作能力への着目も必要であり,高齢者の移動能力を定量化するテストとして最大一歩幅がある.最大一歩幅は歩行と同様,前方への推進力を必要とする動作の一つであると考えられるが,運動麻痺の機能,最大一歩幅の左右差が歩行速度に影響するかは明確となっていない.そこで,本研究の目的は,片麻痺患者の膝伸展筋力及び最大一歩幅の左右差(麻痺側/非麻痺側)が最大歩行速度(Maximum Waking Speed;以下,MWS)に及ぼす影響を検討した. 【方法】 対象は片麻痺患者12名(平均年齢67.6±9.4歳,男性7名,女性5名)であり,発症後経過期間は127.5±56.9日であった.選択基準は3分間以上見守りもしくは自立歩行可能なものとし,整形外科疾患を有するもの,認知症,高次脳機能障害により研究の理解および同意が困難であったものは除外した.MWSは助走路3m歩行後の距離10mをできるだけ速く歩いた時の所要時間をストップウォッチを用いて0.1秒単位で測定し,1回の試行の値をMWS(秒/分)とした.等尺性膝伸展筋力の測定はHand-Held Dynamometer(OG技研ISOFORCE GT-310)に固定用ベルトを用い,端座位下腿下垂位にて約5秒間の最大随意収縮による膝関節伸展運動を行わせた.各脚2回測定し,各脚の平均値を非麻痺側肢の値で除し,左右差の値を等尺性膝伸展筋力比(kgf)とした.最大一歩幅の測定は靴を履いた状態で立位をとり,平行に引かれた線に踵部を合わせ,前方へ努力性にステップを行わせた.数回練習した後,各脚1回測定し,非麻痺側下肢支持での麻痺側下肢最大一歩幅の値で除し,左右差の値を最大一歩幅比(cm)とした. MWSと等尺性膝伸展筋力比及び最大一歩幅比の各変数間の関連性の影響を除外し,MWSと各変数との偏相関関係を検討すること,MWSに影響を及ぼす因子を抽出することを目的に,MWSを目的変数,等尺性膝伸展筋力比及び最大一歩幅比を説明変数としたステップワイズ重回帰分析を行った.解析にはstatcelを使用し有意水準5%とした. 【説明と同意】 対象者に研究の主旨を説明し,参加の同意を得た上で行った.本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した. 【結果】 MWSは平均14.8±12.8秒/分,等尺性膝伸展筋力比は平均0.92±0.15kgf,最大一歩幅比は平均0.65±0.27cmであり,ステップワイズ重回帰分析ではMWSと等尺性膝伸展筋力比(-0.09,n.s.)との間には偏相関は認めなかったが,最大一歩幅比(-0.63,p<0.05)では有意な偏相関を認めた.MWSに影響を及ぼす因子としては最大一歩幅比が抽出され,寄与率は54%であり,得られた回帰式はy=-0.7A+72.6[y:MWS,A:最大一歩幅比]であった. 【考察】 膝伸展筋力はMWSに関連するとの報告がなされている.しかし,今回は膝伸展筋力の左右差とMWSとの関連は認めなかった.これは,脳血管障害の一次障害である運動麻痺が随意的な筋出力の発揮の左右差に影響したものと考えられる.最大一歩幅は支持脚の動作時に発揮される筋出力の影響を受け,一歩幅の左右差を生じると考えられる.また,片麻痺患者の歩行速度は麻痺側の支持性の影響を受けるとの報告もあり,最大一歩幅の左右差が歩行速度に影響を与える可能性があると考えられた.歩行は2本足を交互に前方に出すことと,重心を前方に移すことで全身を移動させることから,最大一歩幅の前方に重心を移す動作が左右差に影響を与える可能性が考えられた.最大一歩幅の左右差への着目や経時的変化を確認することが治療的介入に反映できるかと考えられた.今回は,最大一歩幅の左右差が生じる原因を追及できていないため,今後の研究課題としたい. 【理学療法研究としての意義】 片麻痺患者の最大一歩幅の左右差が歩行速度に影響を与える可能性があり,歩行速度の向上を目的とする場合,最大一歩幅の左右差への着目も必要であると考えられた.
  • 住谷 精洋, 田篭 慶一, 生友 尚志, 三浦 なみ香, 阪本 良太, 中川 法一, 都留 貴志, 増原 建作
    セッションID: 7
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】変形性股関節症患者の歩行立脚期や片脚立位時に非支持側の骨盤が下制するTrendelenburg徴候に着目した報告は数多い。一方、臨床においては非支持側の骨盤が挙上する症例もしばしば経験する。しかし、骨盤傾斜方向の違いによる身体機能の特徴の差についての報告は少ない。よって本研究の目的は、変形性股関節症患者を片脚立位時に非支持側骨盤が下制する群と挙上する群に分け、その身体機能の特徴を比較検討することとした。 【方法】対象は当クリニックにて人工股関節全置換術を目的に入院した末期変形性股関節症患者23名(平均年齢58.3±9.7歳)とした。 片脚立位時の骨盤傾斜方向の測定は、デジタルカメラ(FINEPIX Z800, FUJIFILM)を使用して行った。両側上後腸骨棘にマーカーを貼付し、罹患側を支持側とした片脚立位姿勢を後方から撮影した。得られた画像から画像解析ソフト(ImageJ1.39u,NIH)を使用し、支持側の上後腸骨棘より引いた水平線に対し、非支持側の上後腸骨棘が下方にある群を下制群(11名)、上方にある群を挙上群(12名)とした。 身体機能の項目は年齢、BMI、罹患期間、疼痛、棘果長差、仮性脚長差、股関節外転可動域、股関節内転可動域、股関節外転筋力、股関節テコ比の10項目とした。罹患期間は、問診にて疼痛や跛行を自覚した時から手術までの年数とした。疼痛はVisual Analogue Scaleで計測した。棘果長差は上前腸骨棘から内果までの距離を測定し、その左右差とした。仮性脚長差は臍果長差から棘果長差を引いた値とし、骨盤傾斜のみで生じた脚長差を表す。股関節内外転可動域は背臥位にて他動的な角度を計測した。股関節外転筋力はハンドヘルドダイナモメーター(μ-Tas F1, アニマ)を用いて、背臥位股関節中間位での等尺性最大外転筋力を測定し、トルク体重比(Nm/kg)で表した。股関節テコ比はX線画像にて、大腿骨頭中心より恥骨結合中心を通る重心線への垂線の長さ(体重モーメントアーム)を、大腿骨頭中心より股関節外転筋力の張力作用方向線への垂線の長さ(外転筋モーメントアーム)で除した値とした。 統計処理には統計解析ソフト(StatviewJ5.0,SAS)を用い、各項目の下制群と挙上群との比較には対応のないt検定を用いて行った。有意水準は5%とした。 【説明と同意】各対象者には、当クリニックの倫理規定に則り、研究内容を書面にて十分に説明し理解と同意を得た。 【結果】両群間において有意差がみられた項目は罹患期間(p<0.01)、棘果長差(p<0.01)、仮性脚長差(p<0.05)、股関節外転可動域(p<0.05)であった。それらの平均値(下制群、挙上群)は、罹患期間(4.8±3.8年、1.8±1.0年)、棘果長差(1.45±0.2cm 、0.83±0.3cm)、仮性脚長差(0.7±0.9cm、-0.1±0.4cm)、股関節外転可動域(14.0±12.2°、25.0±9.3°)であった。 有意差がみられなかった項目は年齢(58.1±7.4歳、60.6±11.6歳)、BMI(21.8±4.1、22.0±2.3)、疼痛(57.1±29.2mm、63.9±24.5mm)、股関節内転可動域(10.0±5.3°、11.8±4.0°)、股関節外転筋力(0.77±0.3Nm/kg、0.74±0.3Nm/kg)、股関節テコ比(2.4±0.3、2.3±0.4)であった。 【考察】本研究の結果、片脚立位時に非支持側の骨盤が下制する群と挙上する群の身体機能を比較すると、下制群の方が罹患期間は長く、棘果長差および仮性脚長差は大きく、股関節外転可動域は小さいという特徴がみられた。これに対し年齢やBMI、疼痛、股関節内転可動域、股関節外転筋力、股関節テコ比には両群間の差はみられなかった。 仮性脚長差は骨盤傾斜による脚長差を表しており、今回両群間で有意な差がみられた。これは片脚立位などの荷重位だけでなく、背臥位などの非荷重位においてもすでに下制群と挙上群で骨盤傾斜方向が異なっていることを表している。 また、先行研究ではTrendelenburg徴候は股関節外転筋力の低下や股関節テコ比不良など、力学的条件の不利が影響すると報告されている。しかし、本研究では股関節外転筋力、股関節テコ比ともに両群間で有意な差はみられなかった。このことは、片脚立位時の骨盤傾斜方向の違いは、股関節外転筋力の低下や股関節テコ比不良などの力学的条件の不利によって生じないことが示された。 これらから、骨盤傾斜方向の違いは股関節外転筋力や股関節テコ比だけでなく、罹患期間、棘果長差、仮性脚長差、股関節外転可動域などの特徴にも着目し、多角的な視点から検討する必要性が示唆された。 【理学療法学研究としての意義】 本研究では、変形性股関節症の片脚立位時の骨盤傾斜方向の違いによる身体機能の特徴を比較した。今回の結果は臨床における股関節症患者のアライメント評価や歩容改善の一助となると考える。
  • -性別の違いによる回復状況に着目して-
    山木  健司, 西野  加奈子, 矢野 正剛, 安田  真理子, 長尾 卓, 小杉 正, 大垣 昌之, 欅 篤, 平中  崇文
    セッションID: 8
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【はじめに】 膝前十字靱帯(以下、ACL)再建術後の筋力や重心動揺性についての研究は数多くあり、一般的に競技復帰の時期は6~12カ月とされている。当院のクリニカルパスでも術後6カ月で競技復帰としているが、筋力や重心動揺性の回復状況には個人差が強く、十分に回復していないケースも多々見受けられる。我々は第23回大阪府理学療法士学術大会において、接触型受傷者に比べ非接触型受傷者の6カ月膝屈曲筋力の回復が遅延すると報告したが、非接触型受傷者に女性の割合が多かったため、今回性別の違いに着目して、術後6カ月での筋力・重心動揺性の回復状況について後方視的に調査・比較したのでここに報告する。 【方法】 対象は、2009年9月~2010年12月までの間に当院にて半腱様筋腱と薄筋腱を用いた2重束ACL再建術を施行した25例25膝(平均年齢28.9歳)とした。そのうち男性11例(平均年齢29.3歳)と女性14例(平均年齢29.2歳)の2群とした。調査項目は術後6カ月での膝伸展筋力と膝屈曲筋力の健患側比、重心動揺性とした。筋力測定にはHand Held Dynamometer(以下、HHD)を用いて先行文献で良好な再現性が得られているベルト固定法を用いて3回測定し、その中の最大値を筋力として採用した。重心動揺性は、アニマ社製の(GRAVICORDER G-620)解析システムを使用し、閉眼片脚立位で10秒間測定し、動揺の大きさとして外周面積、姿勢制御の微細さとして単位面積軌跡長を採用した。 【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、各対象者には本研究の施行ならびに目的を詳細に説明し、研究への参加に対する同意を得た。 【結果】 膝伸展筋力の健患側比は男性0.84±0.2、女性0.87±0.15で有意差は認めなかった。膝屈曲筋力の健患側比は男性0.94±0.28、女性0.72±0.11で有意差を認めた(p<0.03)。  重心動揺性は、男女比較では外周面積、単位面積軌跡長ともに有意な差を認めなかった。また、男女別の健患比較でも外周面積、単位面積軌跡長ともに有意な差を認めなかった。 【考察】 ACL再建術後筋力回復に影響する因子として、性別1)、術前の筋力や競技レベル2)などが報告されているが、今回当院の術後6カ月の結果でも先行文献と同じく、男性群は健患比90%以上に回復していたのに対して、女性群は72%の回復しかしておらず、有意差を認めた。当院では術後2-3週間部分荷重の状態で自宅退院し外来理学療法(以下、外来PT)に移行しているが、急性期総合病院であるため外来PTは整形外科の診察日(午前中)に限定され、学生や社会人の症例は多くても週に1度のペースでしか外来PTが行えていない現状がある。このため、トレーニング方法や運動負荷量を指導し、学生であれば校内のトレーニング室、社会人であれば仕事後にジムなどの利用を勧めてはいるが、本人の競技復帰に対するモチベーションや行っている競技レベル、社会的背景(職業、学生、家庭環境など)などによって運動習慣に差が生じ、結果的に筋力回復に影響していると考えられる。今回の研究では性別のみに着目したため、競技レベル・運動習慣・外来PT頻度は調査できなかったので今後の課題としたい。  次にACL損傷は膝の生体力学的機能の破綻と同時に、関節固有感覚の破綻を生じ3)、再建術によって障害された関節固有感覚は改善するが健側と同程度に回復するかは明らかでない4)とされているが、性別に着目した回復状況の報告は少ない。今回、我々は関節固有感覚の評価法として閉眼片脚立位の重心動揺性を用いたが、術後6カ月の重心動揺性は健側と同様に回復し、また性別による差を認めなかった。つまり、関節固有感覚の回復には性別が影響しないこと、女性群は膝屈曲筋力の回復が遅延していたにも関わらず重心動揺性が回復していることから筋力の回復にも影響しないことが示唆された。 【理学療法研究としての意義】 ACL再建術後女性の重心動揺性は健側に比べて回復を認めていたが、膝屈曲筋力回復が遅延していた。このことは理学療法プログラムや外来PTの頻度・期間などを考える上で重要と思われ、理学療法研究として意義があるものと考えられる。 【参考文献】 1)牧本伸子ら:膝前十字靱帯再建術後の筋力回復に性差が及ぼす影響.北海道整形災害外科学会雑誌43(1):80,2001. 2)堤康二郎:膝屈筋腱を用いた前十字靱帯再建術後の膝伸展筋力の回復について.整形外科と災害外科51(2):287-290,2002. 3)平松由美子ら:前十字靱帯再建膝における重心動揺性の評価.中国四国整形外科会誌21(1):1-5,2009. 4)前十字靱帯損傷診療ガイドライン.南江堂.98,2007.
  • -股関節内転、内旋可動域に着目した一症例-
    林 晃生, 小野 志操, 細見 ゆい, 大坂 芳明
    セッションID: 9
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【はじめに】大腿骨頚部内側骨折は高齢者に多い骨折であり、一般に人工骨頭置換術が選択されることが多い。しかし、Garden分類 stage_I_や_II_などの非転位型骨折では、骨接合術が選択されることも少なくない。今回、大腿骨頚部内側骨折後にHannson pinによる骨接合術が施行されたのち、階段昇段時に大腿後外側痛が出現した症例を経験した。階段昇段時痛に対し、受傷と術侵襲を考慮して、機能解剖に基づいた運動療法を施行した。経過と結果に若干の考察を加え報告する。 【症例紹介】症例は60歳代の女性である。階段を降段中に転落して受傷した。その後、起立困難となったため受診した。画像所見より左大腿骨頚部骨折Garden分類 stage_II_と診断され、手術を目的に入院となった。受傷後4日目にHannson pinを用いた骨接合術が施行された。術後1日目より理学療法が開始となった。荷重制限はなかった。 【説明と同意】発表にあたって、本症例に対し発表の目的と意義について十分に説明し、同意を得た。 【理学療法初診時所見と運動療法】左大腿周囲に腫脹と熱感が見られた。圧痛は大腿筋膜張筋、中殿筋、腸腰筋、長内転筋、恥骨筋、外側広筋に認めた。左股関節の関節可動域(以下ROMと略す)は屈曲85°、伸展-10°、外転10°、内転0°、内旋15°であった。左膝関節のROMは屈曲120°、伸展0°であった。徒手筋力測定(以下MMTと略す)は、左股関節屈曲と外転は2であり、SLRは困難であった。運動療法として、_丸1_アイシング、_丸2_術創部の癒着予防、_丸3_圧痛が認められた筋に対してリラクゼーションを行い、股関節と膝関節のROM訓練を実施した。術後5日目より立位訓練、術後7日目より歩行訓練を開始した。 【経過および結果】疼痛なく独歩が可能となったため、術後24日目に退院となった。外来にて週2~3回の頻度で運動療法を継続した。独歩や階段昇降は可能であったが、階段昇段時にNRS2~3程度の左大腿後外側部痛は残存していた。そのため、再評価を行った。圧痛は大腿二頭筋短頭、大殿筋上部線維、中殿筋後部線維、梨状筋に認めた。股関節ROM(以下、健側/患側と表記する)は、股関節内旋は40°/35°、股関節伸展位での内旋は45°/35°であり、股関節90°屈曲位での内転は25°/15°と制限がみられた。昇段動作は股関節外転、外旋位で左下肢を支持し、骨盤の右回旋と体幹の左側屈が見られた。これらの所見より、以下の治療内容に変更した。(1)大殿筋、中殿筋後部線維、梨状筋のリラクゼーションとストレッチ、(2)大腿二頭筋のリラクゼーション、(3)背臥位で股関節伸展、外転、外旋位から股関節屈曲、内転、内旋の自動介助運動、(4)股関節内転、内旋位での昇段動作練習を実施した。その結果、左股関節ROMは内旋40°、伸展位での内旋50°、屈曲位で内転25°となった。MMTは屈曲が4、外転が4となった。昇段動作時痛は消失し、上肢支持なく昇段動作が可能となった。 【考察】本症例は、受傷による関節内圧の上昇、炎症による関節周囲の癒着によって関節包の浅層に存在する梨状筋などの外旋筋や停止部では梨状筋とほぼ同様の走行をしている中殿筋後部線維に攣縮、癒着が生じたと考えられた。そのため、梨状筋と中殿筋後部線維の炎症による癒着や関節内圧の上昇と疼痛による筋攣縮により股関節の内転と内旋にROM制限が生じたと考えられた。本症例の健側での階段昇段動作は股関節内転、内旋位での下肢振り出しであったが、患側では股関節外転、外旋位での振り出しとなっており、その状態から荷重支持を行うことで、大殿筋と大腿二頭筋に過剰な努力性の収縮が強いられる動作となっていたと考えられた。この努力性の筋収縮の反復動作が、大腿二頭筋に筋攣縮を生じさせ、大腿後外側部痛の惹起につながっていたと推察した。そこで、梨状筋と中殿筋後部線維の筋攣縮の除去と、柔軟性の改善を図った。その結果、股関節内転と内旋のROM改善が得られ、健側と同様の昇段動作が可能となった。それに伴い、大殿筋や大腿二頭筋に認められていた圧痛と、階段昇段時にみられた大腿後外側部痛が消失したと考えられた。理学療法を行っていく上で、動作時に出現する疼痛の解釈に難渋することは少なくない。本症例を通して拘縮治療の重要性を改めて認識することができた。
  • 飛山 義憲, 山田 実, 和田 治, 田所 麻衣子, 北河 朗, 新田 真吾, 水野 清典, 岩崎 安伸, 岡田 修一
    セッションID: 10
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】
    わが国における人工膝関節置換術(以下,TKA)の件数は年間7万件に及ぶと報告されている.医療費の抑制や早期の日常生活への復帰という観点から入院期間の短縮化が注目されているものの,わが国におけるTKAの入院期間は1ヶ月程度と報告しているものが多い.一方,諸外国では早期理学療法介入の有効性が報告されており,入院期間は2日から7日とわが国とは大きな差がある.諸外国では術後早期もしくは術当日から理学療法介入を行うことで術後早期から身体機能の向上を図り,入院期間の短縮と早期の日常生活復帰を実現させているが,わが国ではTKA術後における術当日からの理学療法介入や早期離床に関する報告はまだ少ない.早期の日常生活復帰には術後の歩行を中心とした日常生活動作を早期に獲得することが不可欠となるが,より短縮化された入院期間では術後の歩行能力の回復状況を術前から予測することが重要である.そこで本研究では当院にて実践しているTKA後の早期理学療法介入において,術前の身体機能や運動機能が術後に自立した杖歩行を獲得するまでの期間に及ぼす影響を検討することを目的とした.
    【方法】
    対象は変形性膝関節症によりTKAを施行された113(男性18名,女性95名,平均年齢74.6±7.8歳,平均BMI26.8±4.4kg/m2)名とした.原疾患は変形性膝関節症とし,術前にバギーや車椅子など杖以外の歩行補助具を用いている者,術後せん妄が著明であった者は除外した.術日に深部静脈血栓症予防に関する理学療法介入を開始し,術翌日から歩行練習などの理学療法を行った.入院期間は7.3±0.8日であった. 術前の運動機能評価として,膝関節可動域,膝関節伸展筋力,10m歩行時間,5回立ち座りテスト,Timed Up & Go test(TUG)の計測を実施した.膝関節可動域は日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会が推奨する測定方法に準じ,膝関節の屈曲および伸展可動域を他動にて測定した.膝関節伸展筋力の測定にはミュータスF-1(アニマ株式会社製)を使用し,最大等尺性筋力を測定した.測定肢位は座位にて膝関節90度屈曲位とし,トルク体重比(Nm/kg)にて算出した.10m歩行時間は自由歩行とし,TUG,5回立ち座りテストはできるだけ速く行うように指示し,時間を計測した.5回立ち座りテストは疼痛を考慮し測定を1回のみとし,それ以外の項目は各2回ずつ計測を行った.筋力は最大値,歩行時間,TUGは最小値を採用した.杖歩行自立に要する期間は,術日から病棟内での杖歩行自立を許可するまでの日数と定義した.さらに,手術情報として手術時間,駆血時間,術者を手術記録より後方視的に調査し,術者に関してはダミー変数として用いた.統計学的解析にはスピアマンの順位相関係数検定を用いて杖歩行自立に要する期間と術前の運動機能評価各項目,年齢,BMI,各手術情報との関連性を検討した.さらに杖歩行自立に要する期間を目的変数とし,杖歩行自立に要する期間と有意な相関関係を認めた項目を説明変数としたStepwise重回帰分析を行った.統計学的有意水準は5%とした.
    【説明と同意】
    参加者には本研究の主旨,目的,測定の内容および方法,安全管理,プライバシーの保護に関して書面および口頭にて十分な説明を行い,署名にて同意を得た。
    【結果】
    杖歩行自立に要した時間は術後平均4.2±1.6日(2~10日)であった.術後から杖歩行自立に要した期間は,術前におけるTUG(r=0.32,p<0.001),10m歩行時間(r=0.25,p<0.01)と有意な相関関係を認めた.さらにStepwise重回帰分析の結果,杖歩行自立に要する期間を決定する因子として,術前のTUG(偏回帰係数:0.24,p<0.001),10m歩行時間(偏回帰係数:-0.13,p<0.01)が抽出され,この回帰式の修正済決定係数はR2=0.45であった.
    【考察】
    本研究の結果から,TKA後早期の杖歩行自立に要する期間の予測に最も有用な術前の運動機能はTUGであることが明らかとなった.さらに,10m歩行時間に関しても杖歩行自立に要する期間に関連することが示され,単純な伸展筋力などではなく,術前の歩行能力や立ち上がりからの歩行,方向転換動作などを含めた総合的な移動能力が杖歩行自立に要する期間に関連することが示唆された.
    【理学療法研究としての意義】
    わが国においてTKA後の杖歩行自立に要する期間に関連する術前の身体機能に関する報告は散見されるが,一週間程度の入院期間における早期の杖歩行自立に関する報告は少ない.今後,諸外国同様にわが国においても入院期間の短縮化が図られることが予測され,その中で本研究は術前の移動能力の重要性を示し,術前から移動能力を向上させるような術前リハビリテーションの重要性を示唆したことは非常に意義深い.
  • 田中 暢一, 高 重治, 永井 智貴, 太 勇介, 立田 一彦, 藤原 佳央理, 山岡 理恵
    セッションID: 11
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】
     股関節疾患患者は、疾患由来の疼痛に悩まされ、日常生活動作(以下、ADL)の低下だけではなく、生活の質(以下、QOL)も低下する。しかし、人工股関節全置換術(以下、THA)は、患者を疼痛から解放し、ADLやQOLの向上が期待されている。近年、THA術後のアウトカム評価は、医療者側の客観的評価と同時に、患者側の主観的評価も重要であると言われている。その評価尺度の一つであるOxford Hip Score(以下、OHS)は、Dawsonにより開発された疾患特異的尺度であり、本邦では上杉らにより日本語版が作成され、高い信頼性と妥当性が証明されている。しかし、本邦においてOHSを用いてアウトカム評価を行った報告や術後早期にQOL評価を行った報告は散見される程度であった。そこで、今回は術前から退院時までの短期間に示すQOLの変化とその変化に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。
    【対象と方法】
     対象は初回THAを施行された43例44関節とした。性別は女性38例、男性5例、平均年齢は68.7歳(55-83歳)であった。原疾患は変形性股関節症39関節、大腿骨頭壊死4関節、関節リウマチ1関節であった。全例に対し、術前と退院時にOHSを自己記入式にて回答を依頼した。また、同時期に股関節の可動域(以下、ROM)を測定した。OHSとは、疼痛およびADLについて問う12項目からなる5段階リッカートスケールであり、点数が低いほどQOLがよいことを表す。今回は在院中には回答が不可能である3項目(バスや電車の昇降、買い物、普段の仕事)を除いた9項目にて評価を行った。回収後、疼痛を表す項目の合計点(以下、疼痛合計点)とADLを表す項目の合計点(以下、ADL合計点)、全項目の合計点(以下、総合計点)を算出した。検討項目は、1)各合計点の術前と退院時の比較、2)各項目の術前と退院時の比較、3)各合計点に年齢、在院日数、股関節ROMを含めた相関関係とした。統計学的検討は、1)対応のあるt検定、2)ウィルコクソンの符号順位和検定、3)Spearman順位相関係数およびPearson相関係数を用い、有意水準は5%とした。
    【説明と同意】
     対象者には本研究の目的と方法、個人情報の保護について十分な説明を行い、同意を得られたものに対して実施した。
    【結果】
     1)術前と退院時の各点数は、疼痛合計点は13.0点、9.0点、ADL合計点は13.2点、11.5点、総合計点は26.0点、20.1点とすべてにおいて有意差を認めた。2)各項目の比較では、疼痛を表す項目(通常感じる痛み、立ち上がる時の痛み、突然の痛み、夜間時の痛み)のすべてにおいて有意に改善を認めた。ADLを表す項目では、歩行や階段に関する項目は有意に改善を認めたが、洗体や靴下着脱に関する項目は有意差を認めなかった。3)総合計点と有意な相関を認めたものは、疼痛合計点、ADL合計点、屈曲ROMであった。ADL合計点は、疼痛合計点と屈曲ROMと有意な相関を認めた。
    【考察】
     術前から退院時までの間に総合計点は有意に低値となり、術後早期においてQOLの向上が認められた。その変化に影響を及ぼす因子として疼痛合計点とADL合計点が強い相関を認め、疼痛とADLの改善の両者が総合的なQOLの向上に寄与したと考えられる。また、屈曲ROMも相関を認めたことから、機能障害面では疼痛とROM制限の両者の改善がQOL向上に影響を及ぼしていると考えられた。その総合計点の改善と相関を認めた疼痛は、4項目すべてにおいて有意差を認め、原疾患由来の疼痛からの解放が顕著に表現されたと思われる。一方、ADL合計点の改善は、疼痛合計点と屈曲ROMが相関を認め、術後のADLの改善は、総合計点と同様に疼痛とROMの改善が必要であると考えられた。しかし、歩行や階段のような移動能力を問う項目は、有意な改善を認めたにも関わらず、洗体や靴下着脱のようなセルフケア動作を問う項目は有意差を認めなかった。洗体や靴下着脱は、股関節に大きなROMを必要とする動作であり、退院時には動作を容易にするまでの十分なROMの獲得が図れなかった可能性がある。また、屈曲ROMはADL総合計点と相関を認めたが、洗体や靴下着脱は股関節の単一方向の運動だけではないこと、体幹の可動性や上肢機能などの影響を受けることを考慮すると、総合的な評価が必要があると思われる。
    【理学療法学研究としての意義】
     THAを受けられた患者は、長年共にしてきた疼痛がなくなることで、ADLが改善し、よりよいライフスタイルが送れることを期待している。その目的が達成できたか否かの評価は、我々が行う客観的評価だけではなく、患者自身が行う主観的評価も重要である。実際に、患者の声を聞くことで問題点が明確となり、適切な理学療法アプローチが可能になることで、さらなるQOLの向上を図る必要がある。
  • 吉川 琢磨, 森本 佳代, 山崎 真帆, 上村 洋充, 望月 佐記子(MD), 朴 智(MD)
    セッションID: 12
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】今日、大腿骨頚部骨折患者は地域連携パスに組み込まれ、早期より集中的なリハビリテーションが提供されている。その結果、受傷前の移動能力を再獲得し、以前より自宅復帰がスムーズになった。しかし実際は、中枢神経疾患のそれとは異なり、地域連携パスの運用が円滑に行われなかったり、急性期医療だけで完結してしまったりと、在宅復帰までの一連の流れにおいて、効果的な医療が体系的に提供されているかは少し疑問である。当院でも、現時点では、急性期病棟から自宅退院か当院回復期病棟への転棟かを明確に決定する指標はない。術後3~4週頃に主治医・コメディカルの主観により検討、実施されるケースが多いのが現状である。そこで今回、急性期在院日数に影響する因子について、術早期の状態を中心に検討したので以下に報告する。 【方法】対象は当院整形外科にて大腿骨頚部骨折の診断を受け、観血的治療を施行した52例(男性13例、女性39例)。平均年齢75.9±9.3歳、平均BMI20.0±2.8、認知症あり11.8%、内側骨折45例、外側骨折7例で、受傷前の歩行が屋内外問わず自立しており、当院急性期病棟より直接自宅退院に至った患者とした。今回は、急性期在院日数に影響を及ぼしそうな因子に、年齢、BMIおよび術後第7病日の平行棒内往復可能回数・患肢荷重率・Functional Reach Test(以下FRT)・疼痛(Visual Analogue Scale:以下VAS)・意欲(Vitality Index:以下VI)、および車椅子移乗が見守りで可能になるまでの所要日数の8項目を挙げ、在院日数との関係をみた。さらに、高い相関を示した項目については、対象者を急性期在院日数から早期群(1~28日間)・中間群(29~42日間)・遅延群(43日間以上)の3群に分け、群間で比較検討した。患肢荷重率[%]は、(最大限の患側荷重)/(体重)×100より求め、FRTは患側上肢のリーチで測定。意欲は鳥羽らによって開発されたVIにて10点満点で評価し、平行棒内往復可能回数は連続10回を上限とし、見守りで測定。尚、相関関係は回帰分析法、群間比較は一元配置分散分析法にて行い、各検定の有意水準は5%未満で判定した。 【説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を得、対象者には研究の内容と目的を十分説明し、同意を得た上で行った。 【結果】急性期平均在院日数は35.2±14.1日。平行棒内往復可能回数の平均は6.8±4.0回、患肢荷重率は66.8±23.4%、FRTは17.4±9.4 cm、VASは4.3±2.4、VIは8.8±2.2点、車椅子移乗が見守りで可能になるまでの所要日数は5.0±3.8日。在院日数と比較的高い相関を示したのは、平行棒内往復可能回数(r=-0.52,p<0.0001)、患肢荷重率(r=-0.57,p<0.0004)、FRT(r=-0.63 ,p<0.0001)であった。年齢、BMI、VI、および車椅子移乗が見守りで可能になるまでの所要日数は相関が低く、VASは相関を認めなかった。在院日数と高い相関を示した3項目の群間比較では、平行棒内往復可能回数の平均が、早期群9.3±2.1回、中間群5.7±4.0回、遅延群4.7±4.6回。患肢荷重率の平均は、早期群85.1±12.0%、中間群48.8±21.9%、遅延群59.3±16.9%で。FRTは早期群22.9±7.7cm、中間群15.0±9.1cm、遅延群11.1±7.4cm。全3項目において早期・中間群間および早期・遅延群間で有意差を認め、中間・遅延群間では有意差を認めなかった。 【考察】今回の結果では、受傷以前に歩行が自立していた大腿骨頚部骨折術後患者の在院日数は、運動機能に影響を受けるという事を再確認した。さらに、術後第7病日という早期の段階である程度スムーズに治療が進むかどうかを判断する事も可能と考える。一方、中間・遅延群間では身体機能的な差は少なく、この2群に属する患者の在院日数は、介助者の有無、住環境や社会資源の調整、共存疾患、認知機能など他の因子が深く関係すると思われる。よって、このような患者に対しては、早期より他職種も含めた包括的なリハビリテーション医療を提供する必要があると考える。 【理学療法学研究としての意義】大腿骨頚部骨折術後患者の在院日数に関与する因子として、術後第7病日の平行棒内往復可能回数・患肢荷重率・FRTが重要と考えられた。早期よりある程度の予後予測が可能となれば、回復期リハ適応患者をより早期に抽出し、適切な時期に転院・転棟させる事が可能となる。また、入院が長期化する恐れのある患者に対しては、より早期からチームアプローチを徹底し、少しでも在院日数を短縮する事で、患者の医療費負担を軽減し、QOLの充実に貢献する事が出来る。
  • 大沼 俊博, 渡邊 裕文, 藤本 将志, 赤松 圭介, 谷埜 予士次, 高崎 恭輔, 鈴木 俊明
    セッションID: 13
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】我々は先行研究にて腹斜筋群が走行している部位に複数の電極を配置し、直立位における各部位の筋活動について検討した。この時両腸骨稜を結ぶ線より下部の腹斜筋群の筋活動に増加傾向を認め(内腹斜筋の横方向線維の活動を反映)、これは両下肢において両大腿骨頭が両臼蓋を介して寛骨を支持する事から、仙腸関節に生じる剪断力を防ぐ作用であると報告した。臨床において我々は直立位から踵部への荷重誘導を行う事で、自律的な身体の後方傾斜を制御すると考えられる腹斜筋群に対してアプローチを行っているが、その筋電図学的指標となる報告は少ない。そこで今回、立位での踵部荷重に伴う腹斜筋群の筋活動についてその指標となる知見を得る事を目的に検討を実施したので報告する。 【方法】健常男性7名(平均年齢30.3歳)に足幅を肩幅と同様とした立位を保持させ、筋電計テレメトリーMQ-8を用いて腹斜筋群の筋電図を測定した。腹斜筋群の電極はNgの報告から一側の外腹斜筋単独部位、内外腹斜筋重層部位、内腹斜筋単独部位へ双極導出法にて配置した。さらに内腹斜筋単独部位の直上より肋骨下端にかけて6チャンネル、内外腹斜筋重層部位直下から骨盤にかけて3チャンネル、大転子直上の腸骨稜の上部から肋骨下端にかけて3チャンネルの電極を配置した。そして測定時間は5秒間で3回測定し、その平均値を求めた。つぎに両前足部が極わずかに離床した立位(以下踵部荷重立位)を保持させ、各部位の筋電図を測定した。この時、踵部荷重に伴う自律的な身体の後方傾斜は許可し、過剰な股関節屈曲に伴う体幹の前傾が生じない事を確認した。 【説明と同意】本実験ではヘルシンキ宣言の助言・基本原則及び追加原則を鑑み、予め説明した本実験の概要と侵襲、公表の有無と形式、個人情報の取り扱いについて同意を得た被検者を対象とした。 【結果】踵部荷重立位における腹斜筋群各部位の筋電図積分値は、直立位と比較して有意な増加を認めた(p<0.05)。 【考察】踵部荷重立位においては身体が後方へ傾斜しようとする働きが生じると考えられる。これにより胸腰椎の伸展方向への働きと共に、胸郭と骨盤間は離れようとする働きが生じると考える。そしてその制御には、胸郭と骨盤間を縦走する腹直筋が関与すると考えられる。鈴木らは矢状面での骨盤に対する胸郭の制御には腹直筋が関与し、内腹斜筋の横方向線維は腹直筋鞘を側方に引く事で腹直筋の活動を安定させると述べている。今回の結果から、内腹斜筋の横方向線維の活動を反映すると考えられる両腸骨稜を結ぶ線より下部の腹斜筋群重層部位については、腹直筋の活動の安定化に関与したと考える。また両腸骨稜を結ぶ線より上部の腹斜筋群重層部位については、踵部への荷重により身体が後方へ傾斜しようとする働きに伴う胸郭と骨盤が離れようとする働きに対し、腹直筋と共に体幹の屈曲作用にて関与したと考える。 【理学療法研究としての意義】臨床上、踵部荷重立位時の腹斜筋群への評価・治療時には以下の作用を考慮していく事が必要となる。1)内腹斜筋の横方向線維の活動を反映すると考えられる両腸骨稜を結ぶ線より下部の腹斜筋群は、骨盤と胸郭間が離れようとする働きの制御に関与する腹直筋の活動を安定させる作用がある。2)両腸骨稜を結ぶ線より上部の腹斜筋群については、骨盤と胸郭間が離れようとする働きに対して体幹屈曲作用にてその制御に関与する。今後は同課題における腰背筋群の活動を明確にし、臨床の一指標として用いていけるように検討していく。
  • 津江 正樹, 赤松 圭介, 藤本 将志, 大沼 俊博, 渡邊 裕文, 鈴木 俊明
    セッションID: 14
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】脳血管障害片麻痺患者の入浴時の座位でのまたぎ動作にて、体幹筋や股関節周囲筋の筋緊張異常により一側下肢挙上が困難になる事がある。このような症例に対し、我々は、端座位にて側方体重移動を促し一側下肢挙上練習を実施している。この時体重移動側(以下荷重側)体幹筋には伸張位での活動を、下肢挙上側(以下挙上側)体幹筋には短縮位での活動を促すようにしている。さらに股関節周囲筋のなかでも荷重側殿筋群は支持面に適応する活動を、挙上側殿筋群は下肢を空間位に保持する活動を促しているがその臨床的指標となる筋電図学的検討の報告は少ない。我々は先行研究にて端座位一側下肢挙上位での側方への体重移動が両側内外腹斜筋単独部位・腹斜筋群重層部位の筋電図積分値に与える影響について検討した。今回は同課題にて両側大殿筋上部線維・腰背筋群を対象筋とし検討したので報告する。 【方法】対象は健常男性7名、平均年齢29.0±7.2歳とした。被験者に端座位を保持させ、両上肢は胸の前で交差するよう指示した。そして両殿部下に2台の体重計をおき、両股関節内外旋0°・屈曲90°、膝関節屈曲90°となるよう座面を調節した。この時、殿裂を2台の体重計の中心に位置させ、各体重計の数値を合計し総殿部荷重量として測定した。次に一側下肢を挙上させるが、この時下肢の変化による影響を排除し骨盤の運動に着目にする為挙上側股・膝関節肢位は変化させず挙上側骨盤後傾角度(床への垂線と上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ線の垂線との角)を10°に変化させ下肢を挙上させた。この肢位を開始肢位とし両側大殿筋上部線維・腰背筋群の筋電図を筋電計ニュ―ロパック(日本光電)にて5秒間、3回測定し平均値を求めた。電極位置について、大殿筋上部線維は上後腸骨棘の2横指下方と大転子外側端を結ぶ線上の筋腹に、腰背筋群は第4腰椎棘突起の側方3cmにそれぞれ電極間距離2cmにて配置した。次に荷重側へ荷重量を総殿部荷重量の60%、70%、80%、90%、95%へとランダムに変化させ、同様に各筋の筋電図を測定した。そして各課題では規定した挙上側骨盤後傾角度と股・膝関節角度を変化させないよう指示した。また頭部は床面に対して垂直位に、両側の肩峰を結ぶ線は水平位とした。さらに荷重側下腿が床面に対して垂直位を保つよう規定した。そして開始肢位での各筋の筋電図積分値を1とした筋電図積分値相対値(以下相対値)を求め、一元配置の分散分析とTukeyの多重比較を用いて検討した。 【説明と同意】本実験ではヘルシンキ宣言を鑑み、予め説明された本実験の概要と侵襲、公表の有無と形式について同意を得た被験者を対象とした。 【結果】荷重側大殿筋上部線維の相対値は荷重量の増大に伴い有意な増加を認めた(p<0.05)。また荷重側腰背筋群の相対値は荷重量の増大に対して著明な変化を認めなかった。一方、挙上側大殿筋上部線維の相対値は荷重量の増大に伴い増加傾向を認めた。そして挙上側腰背筋群の相対値は荷重量の増大に伴い有意な増加を認めた(p<0.05)。 【考察】本課題では開始肢位からの荷重量の増大に伴い、挙上側骨盤はより挙上位となる。この時荷重側では骨盤の後傾・荷重側回旋方向への働きが生じ、荷重側股関節は相対的に軽度内転・内旋位になる(規定より荷重側大腿は固定)と考えられる。これに対し荷重側大殿筋上部線維は股関節外転・外旋作用にてこの働きに対する制動に関与し有意な増加を示したと考える。また荷重側腰背筋群の相対値は荷重量の増大に対して変化を認めなかった。これは荷重側への体重移動に伴い荷重側体幹は伸張位となる為、その肢位保持に一定の活動にて関与したと考える。一方、挙上側大殿筋上部線維の相対値は荷重量の増大に伴い増加傾向を認めた。本課題では荷重側への体重移動に伴う挙上側骨盤の挙上により、挙上側下肢には下方(股関節内転・伸展)への働きが生じると考える。これに対し挙上側大殿筋上部線維は股関節外転作用にてこの働きに対する制動に関与し増加傾向を示したと考える。また挙上側腰背筋群は荷重側への体重移動に伴う挙上側骨盤の挙上作用として有意に増加したと考える。 【理学療法学研究としての意義】またぎ動作の改善を目指し脳血管障害片麻痺患者に治療を実施する時、特に股関節周囲筋の筋緊張異常から座位での体重移動を伴う一側下肢挙上にて骨盤から崩れを認める症例や、一側下肢挙上が困難な症例では、本研究から荷重側大殿筋上部線維による股関節外転・外旋作用と挙上側大殿筋上部線維による挙上側下肢を保持する作用を評価する必要性があると考える。また腰背筋群においては、荷重側腰背筋群による体重移動に伴う体幹の伸張位を保障する座位レベルの活動の維持と、挙上側腰背筋群による骨盤の挙上作用について評価する必要性が示唆された。
  • 池田 幸司, 津江 正樹, 早田 荘, 藤本 将志, 赤松 圭介, 大沼 俊博, 渡邊 裕文, 鈴木 俊明
    セッションID: 15
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】  臨床において、腹筋群や殿筋群の筋緊張低下により、端座位にて骨盤後傾を伴う体幹回旋や屈曲位などの非対称性を認める症例の理学療法を経験する。この様な症例に対し、我々は端座位での側方への体重移動に伴う体幹の立ち直り練習により、非移動側腹筋群の求心的な活動や移動側腹筋群の遠心的な活動を促している。この時体重移動側の大腿を固定し、大腿骨に対する骨盤の移動側方向への側方傾斜を伴う体幹の立ち直り練習を実施する事で、上記した腹筋群の活動性の向上を図っている。そしてこの時の移動側殿部においては支持面に対しての適応、及び殿筋群の活性化を考慮しているが、その指標となる股関節周囲筋の筋電図学的報告は少ない。そこで今回、端座位での側方体重移動時における移動側殿部への荷重量の変化が、移動側中殿筋・大腿筋膜張筋・大殿筋上部線維の筋電図積分値に及ぼす影響について検討したところ、若干の知見を得たので報告する。 【方法】 対象は健常男性8名(平均年齢29.3±6.6歳)とした。まず被験者に両上肢を胸の前で交差させ、両肩峰を結んだ線が水平位となる端座位を保持させた。そして両股関節屈曲90度・内外転0度位、両膝関節屈曲90度位と規定し、両下腿が床面と垂直位となるよう足底を接地させた。この時両殿部下に2台の体重計を配置し、殿裂を2台の体重計の中心上に位置させ、各体重計の数値を合計した値を総殿部荷重量とした。そしてこれを開始肢位とし、一側の中殿筋(以下GME)・大腿筋膜張筋(以下TFL)・大殿筋上部線維(以下GMU)の筋電図を筋電計ニューロパック(日本光電)にて5秒間、3回測定し、3回の平均値をもって個人のデータとした。また電極位置について、GMEは腸骨稜と大転子を結ぶ線の近位1/3、TFLは上前腸骨棘と大転子前縁を結ぶ線の中点、GMUは上後腸骨棘の2横指下と大転子外側端を結ぶ線上の筋腹上とし、各筋線維に沿って電極間距離2_cm_にて配置した。次に電極を配置した方へ側方体重移動を行い、荷重量を総殿部荷重量の55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%とランダムに変化させ、各課題において筋電図を同様に測定した。この時両肩峰を結ぶ線と移動側大腿・下腿は開始肢位を保持し、両足底は接地したまま側方体重移動を行うよう指示した。さらに骨盤は開始肢位より回旋及び前後傾を起こさない事とし、側方体重移動に伴い自律的に生じる非移動側の骨盤の挙上と、非移動側の股関節伸展・外旋・外転及び下腿の外側傾斜は許可した。そして開始肢位における各筋の筋電図積分値を1とした筋電図積分値相対値を求め、端座位での一側殿部への側方体重移動が移動側GME・TFL・GMUの筋電図積分値に及ぼす影響について検討した。尚、統計処理には一元配置の分散分析とTukeyの多重比較検定を用いた。 【説明と同意】 本実験ではヘルシンキ宣言の助言・基本原則及び追加原則を鑑み、予め説明した本実験の概要と侵襲、公表の有無と形式、個人情報の取り扱いについて同意を得た被験者を対象に実施した。 【結果】 GME及びTFLの筋電図積分値相対値は荷重量の増大に伴い増加傾向を認め、GMEは荷重量85%において荷重量55%と比較して有意な増加を認めた。またTFLは荷重量80%・85%において荷重量55%・60%・65%と比較して有意な増加を認めた。一方GMUの筋電図積分値相対値は荷重量の増大に伴い若干の増加傾向を認めた。 【考察】 GME及びTFLの筋電図積分値相対値は荷重量の増大に伴い有意な増加を認めた。本課題においては端座位にて移動側への荷重量の増大に伴い、固定位である大腿部に対し骨盤は自律的に側方傾斜が生じる(骨盤に対して大腿骨は内旋位)。この時、移動側のGME・TFLは股関節内旋・外転作用にて骨盤の移動側方向への側方傾斜に関与したと考える。一方GMUの筋電図積分値相対値は荷重量の増大に伴い若干の増加傾向を認めた。本課題において移動側GMUは股関節外転作用により骨盤の移動側方向への側方傾斜に関与すると考えられる。しかしGMUは股関節外旋作用を有する事から、今回の課題において股関節外旋作用にて関与すると、移動側大腿骨を骨盤に対して内旋位に保持する事が困難になる為、積極的な活動として関与を認めなかったと考える。 【理学療法学研究としての意義】  本研究結果より、端座位における側方への体重移動練習(移動側大腿固定位)時には各筋における以下の作用を考慮する必要がある。1)移動側GME・TFLについては股関節内旋・外転作用にて骨盤の移動側方向への側方傾斜に関与する。2)移動側GMUは股関節外転作用として骨盤の移動側方向への側方傾斜に関与する。今後今回の結果を指標に臨床経験を重ね、更なる示唆に努めていく。
  • COP移動側変位初期に着目して
    田口 綾香, 河原 香, 井上 隆文, 中道 哲朗, 鈴木 俊明
    セッションID: 16
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】
     臨床において、トレンデレンブルグ現象など、股関節外転筋の筋力低下を有する症例に対し、我々は立位での一側下肢への側方体重移動練習を頻繁に用いている。このとき、側方体重移動の駆動方法の違いが移動側股関節外転筋、なかでも中殿筋の筋活動を変化させることを経験する。そこで今回、一側下肢への側方体重移動の駆動方法の違いが移動側中殿筋の筋活動に与える影響を、足底圧中心位置(以下COP)と筋電図にて検討した。
    【方法】
     対象は整形外科学的・神経学的に問題のない健常者10名(平均年齢24.3歳±2.5歳)の利き脚10肢とした。まず被験者の両下肢を重心計のプレート上に置き、立位姿勢をとらせた。運動課題は立位姿勢を開始肢位として、音刺激の合図によって1秒間で利き脚側(以下移動側)へ側方体重移動を行うこととした。運動課題は、非移動側股関節外転により側方体重移動を行う課題(以下課題1)と非移動側足関節底屈により床面を蹴って側方体重移動を行う課題(以下課題2)の2通りを実施した。両課題において、側方体重移動に伴い、非移動側の踵を床面から離し、膝・股関節を軽度屈曲させた。運動規定として、課題遂行中、視線は前方を注視させ、両肩峰と骨盤は水平位に保持し、骨盤の前後傾や体幹・骨盤の回旋が起こらないようにした。側方移動距離は、規定内で各被験者が最大に移動できる距離とした。測定回数は各運動課題を各被験者につき3施行測定した。測定項目は側方体重移動中のCOPと、移動側・非移動側中殿筋、非移動側腓腹筋の筋電図波形を記録した。電極位置は、中殿筋は腸骨稜と大転子を結ぶ線の近位1/3、腓腹筋は筋腹中央に、それぞれ2cmの電極間距離にて配置した。分析方法は両課題におけるCOP軌跡の時間的変化とそれに伴う導出筋の筋活動パターンを分析した。
    【説明と同意】
     各被験者には本研究の目的と内容について説明を行い、同意を得た後に測定を行った。
    【結果】
     COPは両課題共に、立位姿勢から側方体重移動の開始に伴い移動側へ変位した。この時、両課題間において、COP軌跡が異なるパターンを示した。課題1では、課題遂行中のCOPが一定の速度で移動側に変位するのに対し、課題2では、COPの変位開始直後に急速に移動側に変位し、その後は変位速度が低下する傾向がみられた。筋電図について、課題1における非移動側中殿筋は、COP移動側変位の開始直前に活動し、移動側中殿筋は、COP移動側変位の開始にやや遅れて活動した。また、非移動側腓腹筋の筋活動は認められなかった。一方、課題2において、非移動側腓腹筋はCOP移動側変位の開始直前に活動し、移動側中殿筋はCOP移動側変位の開始と同時に活動した。また、課題2において非移動側中殿筋の筋活動は認められなかった。
    【考察】
     課題1では、移動側への側方体重移動を行う駆動力として非移動側股関節外転を用いている。この時、非移動側中殿筋は、その主動作筋として関与したためCOP移動側変位の開始直前から活動したと考えられる。また、本課題における移動側中殿筋は、移動側への荷重に伴い増加する移動側股関節内転を制動する目的でCOP移動側変位の開始にやや遅れて活動したと考えられる。次に課題2では、移動側への側方体重移動を行う駆動力として非移動側腓腹筋の筋活動による足関節底屈を用いている。このため、非移動側腓腹筋はCOP移動側変位の開始直前から活動したと考えられる。課題2において、移動側中殿筋はCOP移動側変位の開始と同時に活動した。課題2では、側方体重移動の駆動を非移動側足関節底屈により行うため、側方体重移動の初動が課題1よりも速まると考えられる。これに伴い、COP移動側変位開始時における移動側股関節内転が課題1に比してより瞬発的に生じるため、移動側中殿筋はCOP移動側変位の開始と同時に活動したと考えられる。
    【理学療法研究としての意義】
     本研究結果より、移動側中殿筋の筋活動は、非移動側股関節外転により駆動する側方体重移動では、COP移動側変位開始にやや遅れて活動し、非移動側足関節底屈により駆動する側方体重移動では、COP移動側変位開始と同時に活動することが示唆された。このことから臨床において、中殿筋の筋活動パターンが問題となる症例に対し側方体重移動練習を実施する際には、側方体重移動の駆動方法を選択して実施することが有用であると考えられる。
  • 木下 拓真, 高木 綾一, 鈴木 俊明
    セッションID: 17
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】
    立位など荷重下での姿勢制御には股関節制御と足関節制御が存在する。股関節制御は股関節・骨盤・体幹による身体重心(以下COG)制御、足関節制御は足関節・足部による足圧中心(以下 COP)制御であり、これらの制御は相補的作用がある(福井 2006)。COGの制御は股関節のみならず体幹などの関節運動が生じるため、股関節周囲筋や下部体幹筋群の筋活動を要する(福井2006)。COPの制御は足部周囲筋の筋活動による制御が必要である(山口 2005)。COPと COGの制御を考える際は同一面上の視点で考えられていることが多く、それぞれの制御に必要な筋の関係性も同一面上で分析されることが多い。臨床において、矢状面上でCOP移動可能範囲が後方に限局された症例の歩行時に、患側立脚期に前額面上で骨盤の過度な側方移動を観察した。これは正常歩行における矢状面上のCOP位置とは異なる場合に、前額面上のCOG制御に変化が生じている結果、骨盤が過度に側方移動するという現象が生じていると考えられた。つまり矢状面におけるCOPの移動可能範囲に制限がおきた場合には、前額面上のCOG制御に何らかの影響を及ぼす可能性が考えられる。そこで本研究は、片脚立位時の矢状面上におけるCOP位置の違いが股関節周囲筋の筋活動に与える影響を検討することとする。
    【方法】
    健常者19名の利き足19肢を対象とした。対象者の平均年齢は24.8±2.1歳、平均身長は171.0±5.2cm、平均体重は61.9±6.7kgであった。
    3条件(前足部荷重・中足部荷重・後足部荷重)での片脚立位時に、重心バランスシステムJK-310(ユニメック社)を用いて矢状面上におけるCOP位置変化(Y軸動揺平均中心変位)を、テレメトリー筋電計MQ–8(キッセイコム社)を用いて股関節周囲筋の筋活動を測定した。片脚立位姿勢は両上肢下垂位、非支持側股関節、膝関節は屈曲90°保持と規定した。はじめに、片脚立位姿勢から可能な限り足関節制御のみを使わせ最大限に前方・後方の順でCOPを移動させ、前後方向のCOP移動可能範囲を求めた。前後方向のCOP移動可能範囲前1/3、中1/3、後ろ1/3にCOP を位置させた片脚立位をそれぞれ前足部荷重、中足部荷重、後足部荷重と定義した。測定は検者が重心バランスシステムモニターでCOP位置がそれぞれの規定範囲内に位置していることを確認しながら行った。各3ヶ所でCOPが位置していることを確認し、その位置で10秒間の測定を1回合計3回行った。
    測定筋は、支持側大腿直筋、大腿筋膜張筋、中殿筋、大殿筋、大内転筋、半腱様筋、大腿二頭筋長頭とした。3条件におけるY軸動揺中心変位の比較は一元配置分散分析及び多重比較検定を用いて行った。また前・中・後足部荷重で測定した筋電図より波形が安定した5秒間を取り出しそれぞれの筋電図積分値を算出した。
    3条件でそれぞれ取り出した各筋における5秒間の筋電図積分値の比較はフリードマン検定及び多重比較検定を用いて行った。有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】
    各対象者には本研究の主旨について十分な説明を行い、同意を得た。
    【結果】
    Y軸動揺中心変位平均値において3条件で有意差が認められ(p<0.01)、前・中・後足部の順にCOPが前方にあったことが確認された。前足部荷重時に、大腿二頭筋の筋電図積分値は後足部荷重と比較して有意に増加した(p<0.05)。後足部荷重時に、大腿直筋の筋電図積分値は前足部荷重・中足部荷重と比較して、大腿筋膜張筋は前足部荷重と比較して、大内転筋は中足部荷重と比較して有意に増加した(p<0.05)。
    【考察】
    前足部荷重時に、後足部荷重と比較して股関節伸展作用を有する測定筋のうち大腿二頭筋の筋活動量が増加した。矢状面上でCOP位置を前方に規定した際は、股関節屈曲によるCOGの前方移動を股関節伸展筋により制御していた可能性が考えられた。後足部荷重時に、前足部荷重・中足部荷重と比較して股関節屈曲作用を有する大腿直筋・大腿筋膜張筋・大内転筋の筋活動量が増加した。矢状面上でCOP位置を後方に規定した際には、股関節伸展によるCOGの後方移動を股関節屈筋により制御していた可能性が考えられた。
    また、大腿筋膜張筋・大内転筋は股関節前額面上にも作用することから、股関節矢状面上と同時に前額面上のCOG制御にも作用している可能性が考えられた。このことから、矢状面上におけるCOP位置の違いは、前額面上における股関節周囲筋の筋活動に変化を与える可能性が考えられた。つまり、矢状面上のCOP位置の違いが前額面上のCOG制御に影響を与える可能性が考えられた。
    【理学療法学研究としての意義】
    片脚立位時の矢状面上におけるCOP位置の違いは、股関節周囲筋の筋活動に変化を与える可能性が示唆された。
  • 植谷 欣也, 川又 敏男, 山本 昌樹
    セッションID: 18
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】  歩行時の脳活動は空間的側面での研究が多く、歩行の運動イメージでも実際の歩行時と類似した部位が活動することが示されている。一方、時間的側面においては歩行の準備過程に関する研究は少なく、歩行の運動イメージを検討した報告は見当たらない。本研究では、歩行の運動イメージや観察をリハビリテーション介入に用いる根拠を明確にするため、時間分解能の高い脳電図を用いて歩行の準備過程およびその運動イメージを時間的側面から検討した。
    【方法】  対象は健常人18名(平均年齢24.1歳±4.4歳、男性13人、女性5人)であった。課題は実際に歩行を行う通常歩行課題、他者が歩行するのを観察する歩行観察課題、両下腿遠位部に2kgの重錘バンドをつけて歩く重錘負荷歩行課題の3課題とし、条件としてそれぞれ実際に歩行を行う実行条件、運動イメージを想起するイメージ条件を設定した。歩行開始時の脳活動は日本光電社製誘発電位・筋電図検査装置Neuropack M1を用いて随伴性陰性変動(CNV)を記録した。CNVは聴覚刺激などを用いてS1、S2の二組の刺激を呈示し、そのS2に対してできるだけ速く反応するという課題を行っているときの脳活動を捉えるもので、その後期成分はLate CNVと言われ、S2に対する期待や運動の準備過程を反映するとされている。参加者はヘッドホンを装着し、そこから聴覚刺激によるS1とS2が提示された。S1、S2は1000Hzのtone burstを用い、刺激間間隔は2秒であった。全ての課題・条件の計測時には参加者の前方にある目印を注視させた。記録電極は国際10-20法に従い、Fz、Czの2部位とし、右耳朶を基準電極とした。電極にはAg/AgCl皿電極を用いた。測定時、各電極の電気抵抗は5kΩ以下であった。また、眼電図により眼球運動をモニターし、前脛骨筋(TA)の筋電図により歩行開始を判断した。眼球運動によるアーチファクトやS2前にTAの筋活動が認められた場合は、その試行結果を除外した。得られた波形からS1前100msの電位をベースラインとし、S2前100ms時点の電位をLate CNVの振幅として算出した。統計学的分析は統計ソフトSPSS for Widows 13.0Jを用いて、2要因(課題・条件×電極)の分散分析を行った。
    【説明と同意】  研究内容は神戸大学保健学倫理委員会にて承認を得た。研究参加者には事前に研究内容と方法について十分な説明を行い、書面での同意を得た。
    【結果】  データを取得した参加者のうち、全ての課題・条件で最終的に得られた波形の加算回数が30回以上であった10名について、統計学的検討を行った。Late CNVの2要因分散分析では、課題・条件(F (5, 99) = 1.65, p = 0.153)の主効果は認められなかったが、電極(F (1, 99) = 64.00, p < 0.001)の主効果が認められ、全ての課題・条件でFzに比しCzに有意な陰性電位を認めた。交互作用は認められなかった(F (5, 99) = 1.24, p = 0.298)。
    【考察】  足の運動に伴う準備電位や歩行時のLate CNVはCzで最大であることが報告されており、本研究でも全ての課題・条件でそのことが確かめられた。また、イメージ条件においてもCzにLate CNVを認めたことから、歩行を課題とした場合にも運動イメージによる運動準備が生じることが示された。Late CNVの発生源は前頭前野、補足運動野、一次運動野、一次感覚野や大脳基底核であることが報告されており、イメージ条件でLate CNVが認められたことは、歩行イメージによってもこれらの運動関連領野が活性化された可能性が考えられる。
     上肢の運動観察と運動実行を比較した研究では、振幅は減少しているものの運動観察において準備電位が認められたと報告されている。歩行観察においてもLate CNVを認めたことは、上肢による対象物への行為だけでなく、歩行の観察においても運動準備が生じることを示唆する。
     重錘負荷歩行ではLate CNVの増大傾向を認めた。運動の準備電位は発揮する筋力に比例して大きくなったとの報告がある。本研究の結果はこれまでの単関節での運動に対する負荷だけでなく、歩行という動作に対する負荷によっても同様の傾向があることを示した。しかし、通常歩行と比較して有意差を認めなかったことから、負荷量等を考慮した上で今後さらなる検討が必要である。
     これらのことから、本研究では歩行の運動イメージや観察において、実際の運動時と時間的に類似した脳活動が生じている可能性が示された。
    【理学療法研究としての意義】  運動イメージや観察を臨床に利用するための根拠としては、これまで空間的側面での研究結果によるものがほとんどであった。今回の研究結果は時間的側面での根拠の一つとなる。
  • 表面筋電図による嚥下持続時間と筋積分値の検討
    乾 亮介, 森 清子, 中島 敏貴, 西守 隆, 田平 一行
    セッションID: 19
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】
    摂食・嚥下機能障害患者に対してのリハビリテーションにおいて理学療法は一般的に嚥下に関わる舌骨上筋群の強化や姿勢管理などを担当する。嚥下筋は頸部の角度や脊柱を介して姿勢アライメント等から影響を受けることが指摘されており、頸部のポジショニングにおいていわゆる顎引き姿勢(chin-down)や頸部回旋による誤嚥予防や嚥下量の増大などの口腔咽頭の解剖学的変化による有効性については緒家らの報告がある。しかしいずれも体位や、嚥下する物性を変えた研究が殆どであり、頸部角度に注目した報告は少ない。そこで今回は頸部角度の違いが嚥下時の舌骨上下筋群及び頸部筋の筋活動に与える影響について検討した。
    【方法】
    対象者は口腔・咽頭系及び顎の形態と機能に問題がなく、頚椎疾患を有さない健常男性5名(年齢29.8±4.4歳)とした。被験者の口腔にシリンジにて5ccの水を注いだ後、端座位姿勢で頸部正中位、屈曲40°、屈曲20°、伸展20°、伸展40°の各姿勢で検者の合図で水嚥下を指示した。この時飲み込むタイミングは被験者に任せ、検者は被験者の嚥下に伴う喉頭隆起の移動が終了したことを確認し、測定を終了した。
    また嚥下後に嚥下困難感をRating Scale(0=difficult to swallow 10=easy to swallow)で評価した。表面筋電図は嚥下筋として舌骨上筋、舌骨下筋を、頸部筋として胸鎖乳突筋で記録した。記録電極はメッツ社製ブルーセンサーを電極幅20mmで各筋に貼付し使用した。 筋電計はノラクソン社製Myosystem1200を用い、A/Dコンバータを介してサンプリング周期1msにてパーソナルコンピューターにデータ信号を取り込んだ。取り込んだ信号はソフトウェア(Myo Research XP Master Edition1.07.25)にて全波整流したのちLow-passフィルター(5Hz)処理を行い、その基線の平均振幅+2SD以上になった波形の最初の点を筋活動開始点、最後の点を筋活動終了点とし、嚥下時の各筋のタイミング及び筋活動持続時間(以下持続時間)と筋積分値を求めた。
    解析方法は持続時間と筋積分値の頸部位置における比較は反復測定分散分析を用い、多重比較はTukey-Kramer法を用いた。またRating Scaleと頸部位置における関係についてはFriedmanの検定を用い、有意水準はいずれも5%未満とした。
    【説明と同意】
    全ての被験者に対して研究依頼を書面にて行い、本人より同意書を得た後に実施した。
    【結果】
    舌骨上筋では屈曲40°、20°、と比較して伸展40°で有意に持続時間、筋積分値は高値を示したが(p<0.05)、が舌骨下筋、胸鎖乳突筋では有意差を認めなかった。またRating Scaleにおいては頸部角度により有意差(p<0.05)を認め、頸部が伸展位になるほど嚥下困難感が増強する傾向がみられた。
    【考察】
    嚥下における表面筋電図測定については各筋の持続時間が評価の指標として有用であるとVimanらが報告しており、加齢とともに嚥下時の持続時間は延長するとしている。またSakumaらの報告では嚥下時の舌骨上筋と舌骨下筋の持続時間と嚥下困難感(Rating Scale)には有意な負の相関があると報告しており、嚥下筋の持続時間の延長は嚥下困難の指標になると考えられている。従来、頸部伸展位は咽頭と気管が直線になり解剖学的位置関係により誤嚥しやすくなると言われており嚥下には不利とされてきた。今回は筋活動において伸展40°で持続時間の延長を認め、自覚的にも嚥下が困難であった。また筋積分値においても有意に高値であったことは努力性の嚥下になっていることが考えられ、頸部伸展位は筋活動の点からも嚥下に不利であることが示唆された。このことより、摂食・嚥下機能障害患者に対して頸部屈曲・伸展の可動域評価及び介入が有用であると考えられた。
    【理学療法研究としての意義】
    頸部の屈曲・伸展の位置により嚥下時の筋活動は影響を受けることから摂食・嚥下機能障害のある患者において 頸部可動域評価及び介入の有用性が示唆された。
  • 小栢 進也, 岩田 晃, 淵岡 聡
    セッションID: 20
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】人が周囲環境に合わせて動作を行うには、視覚情報が重要であるとされている。しかし、視覚情報は周囲の明るさ、対象物の色、模様などに影響を受け、対象物が実際の大きさよりも小さくまたは大きく見えることがある。このような目の錯覚によって身体運動が変化するかどうかは明らかではない。身体運動が錯覚に惑わされるのであれば、生活環境整備の際に考慮すべき要素となる。よって本研究では高さは同じだが、見た目の高さが異なる障害物を跨ぐ動作で、錯覚の影響を受けるのかを検討した。 【方法】対象は下肢に障害を有さない健常成人22名とした。測定には動作分析装置VICON(Oxford medics製)を用いた。被験者は裸足となり、両側のつま先(第二中足骨頭)、踵(踵骨隆起上端)にマーカーを張り付けた。障害物は高さ20cm、横幅40cm、奥行5cmとし、側面と上面は縦ストライプまたは横ストライプの2種類の模様を用意した。ストライプ幅は2.3cmとし、黒白を等間隔に配列した。なお、被験者には事前に障害物の模様は変わるが高さが同じであることを伝えた。被験者は障害物5m手前から歩行を始め、右足から障害物を跨ぐように指示した。縦ストライプ、横ストライプの測定順序はランダムとした。解析項目は障害物前縁を超える際のつま先高さ(前縁つま先高)、障害物後縁を超える際の踵高さ(後縁踵高)、踏切前の左足つま先から障害物までの距離(踏切前距離)とした。なお、右足で障害物を跨げなかった、または障害物直前で歩幅を大きく変えた場合には再測定とした。さらに、踏切前距離が50cmを超えた試行は障害物に足を合わせられなかったと判断し、それ以降の解析から除外した。統計は縦ストライプ条件と横ストライプ条件の足部位置を比較するために、対応のあるt検定を用いた。有意水準は5%未満とした。 【説明と同意】被験者には実験の内容を説明し、書面で同意を得た。 【結果】全被験者のうち1名の踏切前距離が50cmを超えていたため、解析は残りの21名(男性10名、女性11名、年齢21.2±1.5歳)で行った。右足の前縁つま先高は縦ストライプ35.1±2.9cm、横ストライプ34.9±2.6cm、右足の後縁踵高は縦ストライプ33.3±3.8cm、横ストライプ33.6±4.5cmとどちらも有意差を認めなかった。一方、左足の前縁つま先高は縦ストライプ36.6±5.3cm、横ストライプ35.3±5.0cm、左足の後縁踵高は縦ストライプ52.4±5.6cm、横ストライプ50.3±5.6cmと両項目とも縦ストライプ条件で有意に高い値を示した。一方、踏切前距離は27.4±8.8cm、横ストライプ26.1±9.0cmで有意差を認めなかった。 【考察】本研究での縦および横ストライプは、ヘルムホルツの図形と言われ、縦に線が入った図形は縦長に、横に線が入った図形は横長に見えるとされている。本研究の結果より、障害物を跨ぐ際の足の高さの差は左足で認められ、目の錯覚と同様に縦ストライプ条件で横ストライプ条件よりも高くなった。障害物の高さが同じであると認識しているにもかかわらず、後から跨ぐ足は目の錯覚の影響を受けることがわかった。先行研究より、錯覚によって対象物の大きさを誤認識していても、視覚情報(目標物と身体の位置関係)をフィードバックすることで動作を修正し、環境に適した運動を遂行することができるとされている。本研究でも先に跨ぐ右足では視覚で確認できるのに対し、後から跨ぐ左足では身体と障害物との位置関係がフィードバックできないために、錯覚の影響を受けたことが考えられる。 【理学療法研究としての意義】ヒトの運動は目の錯覚の影響を受けることが明らかとなった。転倒と障害物跨ぎの関係を検討している研究では、前の足が引っ掛かることを前提としていること多いが、むしろ後ろの足が外部環境に作用されて引っ掛かる可能性があり、注目すべき点であると考える。引っ掛かりやすい段差、特に後から跨ぐ足が引っ掛かる場合には形状や色、明るさなど住環境整備を検討する必要がある。
  • ~運動機能とHDS-Rスコアの関連性~
    上原 光司, 小杉 正, 長尾 卓, 西野 加奈子, 石原 拓郎, 浅野 美季, 欅 篤
    セッションID: 21
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【はじめに】当院の位置する高槻市北部は、全人口中の65歳以上の年齢層の占める割合が27%を超える(全国平均22%)高齢化地域である。人口の高齢化に伴い認知症患者の激増が予想され、早期発見・早期治療の重要性が高まっている。認知症の高齢者は、注意力の低下などから転倒する機会が増加するといわれ、外出の機会減少や活動量低下に伴い基本運動能力も低下すると考えられている。当院では、2010年9月より初期もの忘れ外来がスタートした。まず医師の診察時に改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)を行い、作業療法士や言語聴覚士がMMSEを含む5種類の神経心理検査を実施、理学療法士が基本運動能力の評価を行っている。画像検査はMRI(VSRAD)を全例に、脳血流シンチグラフィーを一部の症例に行い全ての検査終了後、医師と各療法士が検査結果を検討し患者や紹介医への報告書を作成している。我々理学療法士が検査・測定する項目は、膝伸展筋力、握力、片脚立位、10m歩行、Time up & Go test(以下TUG)、重心動揺計測などである。 本研究では、初期もの忘れ外来受診患者において神経心理検査の中のHDS-Rのスコアと運動機能の評価項目との関係を検討した。
    【対象】2011年2月~6月の間に当院もの忘れ外来を受診した患者29名(男性11名、女性18名)で平均年齢は77.9±7.6歳であった。また、厚生省障害老人の日常生活自立度判定基準がJランクの者とした。
    【方法】身長、体重を測定し日常の身体活動量(運動習慣)と、転倒スコアの聞き取りを行った。身体活動量は点数化し、日常生活以外に運動の時間を毎日作って実行している群を3、週に2~3回実施している群を2、全く実施していない群を1と設定した。膝伸展筋力は、ハンドヘルドダイナモメーターを用いて測定した。左右それぞれ2回ずつ行い、最大値を筋力として採用し、体重で除した値を筋力体重比とした。バランス能力は、GRAVICORDER(G-620)解析システムを使用し、開眼・閉眼ともに30秒間計測した。 10m歩行とTUGの測定は、2回連続して行いその最速値を代表値とした。なお測定に際して、杖歩行が不可能な場合は対象から除外し本研究では最大努力で行った。分析は、HDS-Rスコアと運動機能評価項目との関連性についてSpearmanの順位相関を用いて検討した。さらに、HDS-Rスコアの20点以上(以下A群)と19点以下(以下B群)に分類し検討を加えた。
    【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、各対象者には本研究の施行ならびに目的を詳細に説明し、研究への参加に対する同意を得た。
    【結果】測定項目の全患者平均値は、大腿四頭筋筋力が0.36±0.11、10m歩行が7.1±2.1秒、TUGが9.3±2.4秒、開眼片脚立位が14.4±11.7秒、総軌跡長が39.3±17.4_cm_、外周面積が1.8±1.7_cm_2、HDS-Rスコアが21.5±4.3点、日常の身体活動量は2.1±0.8であった。HDS-Rスコアと運動機能評価項目との関連性を検討すると、膝伸展筋力(r=0.54、p<0.004)が有意な正の相関を認め、TUG(r=-0.43 p<0.03)が有意な負の相関を認めた。一方、A群とB群を検討すると、HDS-Rスコア(p<0.0001)と膝伸展筋力(p<0.01)において有意差が認められた。
    【考察】今回、初期もの忘れ外来患者を対象に、認知機能を表す指標であるHDS-Rスコアと運動機能の関連性について検討した。その結果、膝伸展筋力が有意な正の相関を認め、TUGが有意な負の相関を認めた。またHDS-Rスコア別に膝伸展筋力との関係を検討すると、一般に認知症が疑われるB群においてA群の患者より有意に低く、下肢筋力と認知機能との関係が推測された。また本研究では、日常の身体活動量は有意差が認められないものの、B群の方がA群と比較して低値を示す傾向(p<0.08)があり、認知機能低下に伴う活動性低下、運動量の減少により必然的に廃用の要素が加重されることになった結果が反映されている。以上のことより、運動機能と認知機能は車の車輪のようなもので、片方が落ちると他方も落ちやすいことを示している。両病態が相まって高齢者のADLを低下させ転倒や寝たきりに結び付くため、A群の患者でもADL維持に努めることの重要性が示唆される。
    【理学療法研究としての意義】今回の研究では、認知機能と運動機能には密接な関連性があることが示唆された。今後は、運動機能を維持あるいは向上させることによりADLの低下を防ぐことが高齢化に伴う認知機能の低下にどのように寄与できるか、理学療法士として取り組んでいきたいと考えている。
  • 高見 武志, 松田 俊樹, 三馬 孝明, 中道 哲朗, 鈴木 俊明
    セッションID: 22
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】 我々は第50回近畿理学療法学術大会にて、結帯動作における僧帽筋上部線維・中部線維・下部線維・前鋸筋の筋活動パターンについて報告した。臨床ではこれら4筋の筋活動パターンについて評価、治療を行うことで良好な治療効果が得られているが、広背筋の筋活動パターンの変化により結帯動作が改善する症例を経験することがある。そこで今回は先行研究の対象筋4筋に広背筋上部線維を加えた計5筋を対象に、結帯動作時の筋活動を筋電図学的に検討した。 【方法】 対象は整形外科学・神経学的に問題のない健常男性10名(平均年齢23.9±2.1歳)の両上肢、計20肢とした。開始肢位は端座位にて検査側肩関節外転・伸展・内旋位とし、母指の掌側面先端が第5腰椎(以下 L5)に位置する肢位とした。運動課題は開始肢位から母指を脊柱に沿って上方に移動させ、第12胸椎(以下 Th12)を通過して第7胸椎(以下 Th7)に至った肢位を終了肢位とした。運動課題の遂行時間は2秒間で行い、これを1施行とし各被験者につき3施行ずつ実施した。運動課題中の規定は体幹の運動が起こらないようにし、視線は前方を注視させた。測定項目は僧帽筋上部線維・中部線維・下部線維、前鋸筋、広背筋上部線維の筋電図波形を筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)にて記録した。また各筋が活動する時期を明確にする目的でスイッチをL5、Th12、Th7のそれぞれ棘突起上に貼付し、母指とスイッチが接触するようにした。分析方法は、3箇所に貼付したスイッチの反応時期と導出筋の筋活動パターンについて分析した。また運動課題時における肩甲骨の運動を明確にする目的で、肩峰・肩甲棘内側端・下角にマーカーを付け3点で結び、静止画を撮影し、結帯動作における下垂・L5・Th12・Th7の各レベルにおける脊柱と肩甲骨の位置関係を解析した。 【説明と同意】 各被験者には本研究の目的と方法を十分に説明し、同意を得た上で研究を実施した。 【結果】 結帯動作における肩甲骨運動は全ての被験者にて下垂位からL5で挙上・内転位、L5からTh12で挙上・上方回旋位、Th12からTh7で下方回旋位を示した。筋電図では僧帽筋上部線維・中部線維は開始肢位より活動した。僧帽筋上部線維の筋活動はL5からTh12の間で増加傾向を示し、Th12からTh7の間で減少傾向を示した。僧帽筋中部線維の筋活動はTh12からTh7まで増加傾向を示した。僧帽筋下部線維と前鋸筋の筋活動はTh12以降にほぼ同時に開始し、Th7まで増加傾向を示した。広背筋上部線維はTh12付近から活動が開始し、この活動はTh7まで認められた。 【考察】 僧帽筋上部線維の筋活動が開始肢位からみられたことについて、開始肢位にて肩関節は外転位となるため、肩甲帯を挙上する目的で活動したと考える。また僧帽筋上部線維の筋活動がL5からTh12の間で増加傾向を示したが、これは肩甲帯を挙上し上肢をより高位に移動する目的で活動したと考える。僧帽筋中部線維の筋活動は開始肢位から認められ、Th12付近からTh7にかけて漸増傾向を示した。まず開始肢位において肩関節は伸展位となるため、これに伴い肩甲骨は内転し、この時僧帽筋中部線維は肩甲骨の内転位保持に関与したと考える。本田らは結帯動作ではTh12からTh7にて肩甲上腕関節の内旋と外転は変化がなく、Th12以降は主に肩甲骨運動によって行われると報告している。本課題でも僧帽筋中部線維は肩関節運動が減少するTh12付近から、積極的に肩甲骨を内転する目的で活動したと考える。僧帽筋下部線維と前鋸筋はTh12からTh7間で筋活動が認められた。福島らは僧帽筋下部線維は肩甲棘内側下部に付着し、肩甲骨前傾モーメントの制御機能を有すると報告している。本課題ではTh7に近づくにつれ肩甲骨前傾角度が増加すると考えられ、僧帽筋下部線維と前鋸筋は肩甲骨前傾を制動する目的で活動したと考える。生友らは広背筋上部線維は肩関節内旋・水平伸展時に選択的に作用すると報告している。またNeumannは肩鎖関節における下方回旋は解剖学的肢位に肩甲骨を戻すことであり、この運動は力学的に肩の内転あるいは伸展と関係し、さらに肩甲骨に付着する広背筋線維の一部は菱形筋による肩甲骨の下方回旋を補助すると報告している。本課題では肩甲骨はL5からTh12において上方回旋することから、広背筋上部線維はL5からTh12に上方回旋位となった肩甲骨を、肩関節伸展・内転運動に伴う肩甲骨下方回旋運動を誘導する目的でTh12以降に活動したと考える。 【理学療法研究としての意義】 本研究結果より結帯動作において広背筋上部線維はTh12からTh7に至る過程で筋活動が認められた。この筋活動は肩関節伸展・内転運動に伴い、肩甲骨の下方回旋を誘導していると考えられた。そのため臨床においてTh12以降に肩甲骨の下方回旋が不十分である症例に対しては、僧帽筋の各線維や前鋸筋に加え、広背筋上部線維の筋活動を評価することが有用であると考えられる。
  • 渋川 武志, 大崎 千恵子, 久郷 真人, 岩本 智美, 木下 妙子, 平岩 康之, 前川 昭次, 林 秀樹, 浅井 徹, 今井 晋二
    セッションID: 23
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】当院では2008年より心臓リハビリテーション(以降、心リハ)を実施しており、対象は年間400例を超える。当院心臓血管外科における待機手術では、検査等にかける日数が入院から手術当日まで約1週間ある。術後はFast Tracking Programにより、術後翌日から早期離床・早期歩行を開始している。これまで術後心リハを開始すると、激しい創部痛による拒否や早期離床の説明・理解不足から拒否されるケースを経験することがあった。今回、術前から理学療法士が介入し患者指導することによる効果を検討した。
    【方法】当院心臓血管外科にて手術を受けた患者を対象とした。術式内訳は冠動脈バイパス術、心臓弁置換術、僧帽弁形成術、大動脈人工血管置換術、左室形成術、その他であり、それぞれ複合手術を含む。術前指導非実施群(以降、非実施群)と術前指導実施群(以降、実施群)の2群に分け、前者は入院日2010年10月の22名(男性12例、女性10例、年齢67.95±11.97歳)、後者は入院日2011年2月の24名(男性17例、女性7例、年齢72.33±7.95歳)である。実施群は術前指導を行っていない緊急手術症例を除外し、待機手術のみとした。術前指導は、当院独自の心リハプログラム進行表を用いて、入院から手術までに1回実施した。次に各群胸部正中切開のみを選別し、以下の評価を実施した。評価内容は手術日を第0病日とし、(1)術後心リハ開始日(2)開始日創部痛評価(VAS)(3)開始日鎮痛薬内服の有無(4)60m歩行達成日(5)200m歩行達成日(6)心リハ室初回日(7)終了日創部痛評価(VAS)(8)終了日鎮痛薬内服の有無(9)術後在院日数である。術後合併症等で難渋したバリアンス症例を除外し、非実施群中全評価可能であった17例(男性9例、女性8例、年齢68.73±12.86歳)をA group(以降、A)、実施群中全て評価可能であった13例(男性9例、女性4例、年齢72.85±7.65歳)をB group(以降、B)とした。統計学的解析にはSPSS 15.0Jを使用した。各指標の差異の検定にはPearsonのχ2検定、Wilcoxon検定、Mann-WhitneyのU検定を用いた。なお統計学的有意差判定基準は5%未満とした。
    【説明と同意】対象には心リハ介入時あるいは心リハ室にて、診療上知り得た内容を研究に使用する可能性があることを口頭で説明し、同意を得ている。
    【結果】心リハ拒否は非実施群において2例、実施群において0例であった。拒否と術前指導の有無についてχ2検定を行ったところ、有意な関連は認めなかった(p=0.223)。各指標の平均値と標準偏差は以下の通りであった。術後心リハ開始日:A=1.53±0.87日,B=1.77±1.24日、開始日創部痛評価(VAS):A=40.33±22.65mm,B=33.00.±15.13mm、開始日鎮痛薬内服の有無:A=有16無1,B=有9無4、60m歩行達成日:A=2.67±1.70日,B=1.85±1.41日、200m歩行達成日:A=4.47±1.50日,B=3.77±1.64日、心リハ室初回日:A=5.80±3.35日,B=5.38±2.29日、終了日創部痛評価(VAS):A=22.40±19.60mm,B=17.30±15.88mm、終了日鎮痛薬内服の有無:A=有6無11,B=有1無12、術後在院日数:A=13.93±5.40日,B=12.92±4.80日。評価(1)~(9)に(10)開始日と終了日のVAS変化(11)鎮痛薬内服の変化を加え、Mann-WhitneyのU検定を用いて群間比較したところ、鎮痛薬内服の変化において有意差を認めた(p=0.026)。また、Wilcoxon検定を用いて(10)(11)の群内比較を行ったところ、術前指導の有無に関わらず有意差を認めた(A(10)p=0.004,(11)p=0.002、B(10)p=0.038,(11)p=0.005)。
    【考察】術前指導により拒否症例が減少する可能性が示唆された。今回有意差を認めなかったのは症例数が少ないためと考えられる。先行研究では信頼関係の構築が重要であると述べられているが、実際に術後開始時の印象に好ましい変化が感じられた。また、先行研究では術前指導により歩行自立獲得日数・在院日数が短縮したと報告されているが、今回それらは認めなかった。これは当院がFast Tracking Programを実践しているためで、予想通りの結果となった。また、術前指導の有無に関わらず創部痛の軽減や鎮痛薬の使用期間短縮が認められた。しかし術前指導を受けると、さらなる鎮痛薬の使用減少が認められた。術前から創部痛に関する説明を受け、対処法を習得することで、術後出現した創部痛に対する不安感を緩和し、動作誘発性疼痛の予防に寄与したと考えられる。
    【理学療法研究としての意義】心リハは循環器疾患に対し有効的治療法かつ予防法の一つとして確立されているが、わが国において術前介入の効果を示す報告は多くない。在院日数短縮傾向にある急性期では、術前介入が術後や退院後に好影響を及ぼす可能性がある。本研究はこの点に関する意義を有する。
  • 単盲検無作為化比較試験による検討
    徳田 光紀, 田平 一行, 増田 崇, 西和田 敬, 庄本 康治
    セッションID: 24
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】 腹部外科手術後は早期離床,肺合併症の予防の観点から効果的な鎮痛や呼吸機能の改善が必要とされる.腹部外科手術後の鎮痛には薬物療法が中心に実施されるが,副作用の問題があり,鎮痛薬は極力少量とされることが望ましい.一方で,経皮的電気刺激治療(Transcutaneous electrical nerve stimulation: TENS)はゲートコントロール理論と内因性オピオイド放出などによる鎮痛効果があり,非侵襲的で副作用がほとんどない理学療法手段として多く使用されている.海外では,腹部外科手術後症例に対してTENSが実施され,鎮痛効果ならびに肺活量(vital capacity: VC)を増加させるなどの呼吸機能改善効果に関する多くの研究結果が示されているが,本邦での報告は散見される程度である. また,術後肺合併症の予防には喀痰排出に関する咳嗽力の影響が大きい.咳嗽力は咳嗽時最大呼気流量(cough peak flow: CPF)として評価され,神経筋疾患を対象とした報告は多くみられるが,外科手術後のCPFを評価した報告はきわめて少なく,TENSによる影響を捉えた報告は皆無である. TENSの実施方法に関して,ゲートコントロール理論を最大限に反映するには,最も疼痛の強い術創部と同一皮膚分節領域上に電極を設置するべきである.またTENSの周波数に依存して選択的に内因性オピオイドが放出されることや,強度の変調によってシナプスの可塑性変化が効果的に作用することが報告されていることを考慮すると,実施周波数や強度は固定せずに機器側で変調させるべきである.しかし,これらを考慮してTENSを実施した研究は散見される程度である. そこで,本研究の目的は,腹部外科手術後症例に対して上記のTENS理論を加味してTENSを実施し,疼痛,VC,CPFへの影響を検討することとした. 【方法】 対象は開腹手術を行った症例14名(男性10名,女性4名,年齢46~85歳)で,placebo群とTENS群に各7名ずつ,ランダムに割り付けた.TENSには電気刺激治療器(Chattanooga社製,Intelect ADVANCE COMBO)を使用した.TENS群は対称性二相性パルス波,パルス持続時間200μs,周波数は1~250 Hzで変調させ,強度は不快でない最大の強度に40%変調し,治療時間60分とした.電極は自着性電極(Axelgaard社製,PALS,5 cm×9 cm)を4枚使用し,電極1は術創部から平行に3 cm離して貼付し,電極2は電極1と反対側に術創部から平行に3 cm離して貼付した.なお,皮膚分節領域はJG Keegan らによるものを参照した.placebo群はTENS群と同条件で最初の1分間のみ電気刺激を加え,その後59分間は電極を貼付したままsham刺激として実施した.各介入は,術直後(術後0日目)から術後3日目まで1回/日ずつ実施した.疼痛は安静時痛と咳嗽時痛を100mmのVisual Analog Scale(VAS)で測定した.VC,CPF測定には電子スパイロメーター(日本光電社製,HI-201)を使用し,測定肢位は座位とした.各評価は手術前と術後3日目のTENS実施前(TENS前),TENS開始30分後(TENS中),TENS終了20分後(TENS後)に実施した.統計解析は各疼痛のVASおよびVC,CPFの回復率(術前値100%としたものを算出)について,2元配置分散分析およびBonferroni法による多重比較を用いた.いずれも有意水準1%未満とした. 【説明と同意】 被験者には,本研究の十分な説明を口頭および文書にて行い,同意および署名を得た.なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得た(承認番号09- 2). 【結果】 安静時痛および咳嗽時痛においてTENS群はplacebo群よりも有意に低値を示し,VC,CPFの回復率においてTENS群はplacebo群よりも有意に増大した(いずれもp < 0.001).また多重比較の結果,TENS群では,TENS前と比較してTENS中およびTENS後で,安静時痛と咳嗽時痛が有意に低値を示し,VC,CPFの回復率が有意に増大した(いずれもp < 0.001).特にTENS群のTENS中は最も変化が大きく,(TENS前平均→TENS中平均)=安静時痛(24.6→14.6 mm),咳嗽時痛(78.4→60.4mm),VC回復率(55.0→71.8%),CPF回復率(57.5→67.8%)となった. 【考察】 TENS中,TENS後には安静時痛および咳嗽時痛が軽減し,VC,CPFの改善も認めた.特にTENS中では,疼痛軽減やVCおよびCPFの改善が顕著であった.腹部外科手術後症例に対するTENSは,鎮痛効果に加え,呼吸機能の改善にも効果的に作用することが示唆された. 【理学療法研究としての意義】 本研究により腹部外科手術後症例に対するTENSは,呼吸理学療法と併用することで,早期離床や肺合併症の予防に有用な一手段になり得ることが示唆できた.また,急性期鎮痛を目的としたTENSは,理学療法分野拡大にも繋がると考えられる.
  • 鈴木 裕二, 守川 恵助, 乾 亮介, 芳野 広和, 田平 一行
    セッションID: 25
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】
     持続的な臥床状態は圧受容器反射の減弱を招き、起立性低血圧(OH)を引き起こす。健常人においてもOHは立ちくらみという形でしばしば経験される。臨床において理学療法士がOHに遭遇する場面は自律神経変性疾患や術後の廃用症候群など多岐に及ぶが、この対策として下肢弾性ストッキングの使用が効果的であると報告されている。しかしどの程度の圧迫力の弾性ストッキングがOHに対して効果的なのかは一致した見解がみられていない。今回はOHに対してより有用な弾性ストッキングの圧迫力について検討した。
    【方法】
     対象は健常男性18名(年齢:24.5±3.1歳)中起立試験において収縮期血圧の低下が平均以上であった9名(年齢:24.7±1.1歳)を研究対象とした。使用弾性ストッキング(Medi Plus,mediven社)は圧迫力が弱・中・強圧の3種類であり、それぞれ足首に対して、18~21mmHg、23~32mmHg、34~46mmHgの圧迫が加わるものを用いた。同一被験者は弱・中・強圧のストッキングをそれぞれ使用した状態(弱・中・強圧群)とストッキングを使用しない状態(コントロール群)の4条件においてそれぞれ起立試験を行った。起立試験は次の1)~4)の手順で行った。1)安静座位6分間。2)安静立位2分間。3)Squat-Stand-Test(SST):膝を完全に屈曲させて座り込んだ姿勢を4分間保ち、その後急激に起立する課題。4)安静立位保持2分間。各起立試験実施中の血行動態の変化は非侵襲的連続血圧測定装置(PORTAPRES,FMS社)において一拍ごとに測定した。測定項目は収縮期血圧(SBP)、平均血圧(MAP)、一回拍出量(SV)、心拍出量(CO)、総末梢血管抵抗(TPR)とし、SSTの起立直前の10秒間と起立直後の10秒間の平均値を求め、変化値(起立直後-直前)を算出した。統計処理は各測定項目における変化値の比較に一元配置分散分析(対応あり)を用い、各群間の比較にはBonferroni検定を行った。有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】
     本研究は、協力していただいた施設の倫理委員会の承認を得ると同時に、ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に本研究内容を説明し、署名によって同意を得た。
    【結果】
     SBPの変化値はコントロール群(-47.0±7.8mmHg)、弱圧群(-36.2±6.9 mmHg)、中圧群(-36.4±6.8 mmHg)、強圧群(-35.9±6.4 mmHg)で立位後にそれぞれ低下がみられた。そして、コントロール群に比べて弱・中・強圧群の3群すべてにおいてSBPの変化値は有意に軽減していた(p<0.05)。MAPの変化値も同様にコントロール群(-44.7±3.3mmHg)に比べて弱圧群(-39.8±3.4mmHg) 、中圧群(-38.6±4.9mmHg)、強圧群(-39.1±3.1mmHg)の3群すべてが有意に軽減していた(p<0.05)。SBP、MAPの変化値はともに弱・中・強圧群の3群間での有意差はみられなかった。SVの変化値はコントロール群(-0.7±10.3ml)、弱圧群(+5.5±11.4 ml)、中圧群(+6.7±6.5 ml)、強圧群(+10.8±9.5 ml)であり、弱・中・強圧群すべてがコントロール群と比べて高値であった。しかし有意差はコントロール群と弱圧群間のみでみられた(p<0.05)。HR(心拍数)、CO(心拍出量)、TPR(総末梢血管抵抗)については各群間に有意差はみられなかった。
    【考察】
     急激な起立負荷に対して下肢の末梢循環系には一時的に血液が溜まり、静脈還流量が低下するため血圧の低下が起こる。この刺激に対して交感神経は心臓でSV、HRを上昇させ、末梢細動脈でTPRを上昇させることによって血圧を維持するとされている。今回の実験においても各群において同様の反応がみられた。その中で、弱・中・強圧群が起立時のSBP、MAPの低下を抑制できたのは、ストッキングの使用が下肢への血液貯留を防ぎ、静脈還流量を増加させ、SVを上昇させたことが原因の一つと考えられる。弱・中・強圧群間においてSBP、MAP の変化値に有意差がみられなかったことから、OH対策としての下肢弾性ストッキングの使用は本実験における弱圧(18~21mmHg)レベルで十分効果的であると考えられる。
    【理学療法研究としての意義】
     本研究より、圧迫力の強度に関係なく弱圧・中圧・強圧すべてのストッキングが起立負荷時の血圧低下を有意に防げることが示唆された。ストッキングの圧迫力は強くなるに連れて装着は困難となり、使用者の不快感も大きい。OH予防として弱圧のストッキングが十分に効果的であることは使用者の負担を軽減できる意味で大きな意義がある。
  • -術前呼吸器教室参加者を対象としたロジスティック回帰分析-
    原田 昌宜, 奥村 高弘, 深谷 直基, 若林 成享
    セッションID: 26
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】胸・腹部外科術後では手術による痛みや呼吸能力の低下に伴い、無気肺・肺炎などの術後肺合併症が生じ易い。そのため当院では、胸・腹部外科手術予定の患者に対して術前呼吸器教室を実施している。今回、術前呼吸器教室参加者の術後肺合併症の併発率を明らかにし、また多重ロジスティック回帰分析を用いて、術後肺合併症関連因子について明らかにすることを目的に検討した。
    【方法】対象者は2008年4月から2010年3月に当院で術前呼吸器教室を受講後に外科手術を施行した全305例(年齢64.4±13.9)とした。術前に対象者の年齢、身長、体重、Body Mass Index(以下BMI)、肺機能(%VC・FEV1.0%)を測定し、診療録より後方視的に手術部位および術後肺合併症の有無を調査した。
    術後肺合併症発生に影響を及ぼす要因を検討するため、目的変数を術後肺合併症の有無とし、説明変数として年齢、BMI、%VC、FEV1.0%、手術部位(上腹部、下腹部、胸部、その他)としてステップワイズ法での多重ロジスティック回帰分析を行い、採択された要因はその影響の大きさを確認するため、オッズ比を算出した。なお有意水準は5%とし、オッズ比は95%信頼限界をもって有意と判断した。
    【説明と同意】対象者には研究参加前に十分な説明を行い、自由意志により研究参加の同意を得た。
    【結果】術後肺合併症の併発率は2.6%(305例中8例)であった。その内訳は1例に肺炎・無気肺が認められ、他は無気肺のみを認めた。合併症併発日は術後2.3±1.3日であった。また術後肺合併症関連因子として採択されたのはBMIと手術部位のみであり、オッズ比(95%信頼区間)はBMIが1.20(1.07-1.34)、手術部位として上腹部が8.61(1.91-38.75)であった。
    【考察】先行研究にて術後肺合併症への影響因子として、術前呼吸器機能、年齢、手術部位、肥満が挙げられることが多い。今回の結果からBMIが1%増加することで術後肺合併症の併発率が1.2倍、上腹部手術であることで8.61倍となることが明らかとなり、年齢や術前呼吸器機能(%VC、FEV1.0%)は術後肺合併症関連因子として有意ではなかった。
    【理学療法研究としての意義】術後肺合併症併発のハイリスクとして、肥満および上腹部手術が考えられ、これらの患者に対して、術前より積極的な教育および訓練の実施が必要である。さらに術前に止まらず、術後も十分な管理を行うことが必要であり、術後早期より積極的な呼吸リハビリテーションの介入が必要と考える。
  • 山崎 真帆, 守 義明, 山原 純, 上村 洋充, 望月 佐記子(MD), 朴 智(MD)
    セッションID: 27
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】近年、胸・腹部の患者が増加の一途にあり、手術数は年々増加しつつある。理学療法領域でも術後合併症からの回避、早期離床・早期退院を目的に、周術期における呼吸理学療法および運動療法の実施が強く求められている。当院においても、外科術後の患者の早期離床・早期退院を目的に、周術期理学療法を積極的に施行している。しかし、周術期理学療法に対する研究は少なく、歩行自立後に理学療法を終了している施設も多い。今回、開腹術前後の運動療法の計画を見直し、退院前日まで介入し、体重、6分間歩行テスト(6MD)、下肢筋力、10m歩行速度の変化などを観察するとともに、歩行自立後の理学療法介入の意義について検討する。
    【方法】対象は、2010年11月から2011年5月に当院にて開腹術を施行され周術期リハビリテーションを実施した腹部癌患者59名(男性37名、女性22名)、平均年齢は、70.1±8.7歳であった。評価項目は、体重、呼吸機能(%VC及びFEV1.0%)、6MD、下肢筋力、10m歩行速度で、呼吸機能は術前のみ計測し、それ以外の項目についてはそれぞれ術前と退院前に測定した。下肢筋力は両膝伸展筋力をアニマ社製徒手筋力測定器μTasF-01と固定用ベルトを用いて、約3~5秒間の最大努力による膝伸展運動を行わせ、測定は左右の足に対して30秒以上の間隔をあけて2回ずつ行い、最大値(kg)を採用した。10m歩行速度は、速歩で2回測定し、最速値(秒)を採用。術前は患者教育にて理学療法の必要性を説明し、呼吸訓練、痛みの少ない動作方法、自主トレーニングの指導等を行い、術後は翌日より可能な範囲で全身状態に合わせて離床し、段階的に負荷を漸増した。また、状態が安定すれば出室し、自転車エルゴメーター・階段昇降訓練・床上動作訓練を実施し、退院前日まで積極的に理学療法介入を行った。
    【説明と同意】対象者には事前に口頭および文書で十分に説明し、同意を得た。また、本研究は大阪鉄道病院倫理審査会により承認された研究の一環として行っている。<BR> 【結果】在院日数は20.3±8.2日、リハビリ室への出室日は5.6±2.4日で、術後肺合併症は認められなかった。術前後での各項の比較により、6MDは470.0±102.9mから438.1±105.2m、10m歩行速度は6.1±1.5秒から6.8±2.2秒と有意な低下を呈し(p<0.0001)、下肢筋力(体重比)は0.6±0.2kgから0.6±0.2kgであり、低下を認めなかった。また、術前後の6MD変化量と10m歩行速度変化量の間で強い相関を認めるが(p<0.0001)、それ以外の項目では相関を認めなかった。
    【考察】先行研究では、開腹術患者の術後身体機能の低下において6MD、下肢筋力の有意な低下が報告されている。今回の結果では6MDは先行研究と同様に有意な低下を認め、10m歩行速度についても有意な低下を認めたが、下肢筋力は低下を認めなかった。これは、術前より患者教育にて理学療法介入の必要性を説明し術後翌日から可能な範囲で歩行訓練や筋力増強訓練を行い、自主トレーニングを積極的に行ってもらえた結果、ADLを可能な限り低下させないことが今回の結果に繋がったのではないかと考える。また、術後翌日から退院まで継続的に介入できたことが、下肢筋力維持の一要因と考える。しかし、理学療法の介入を行っていても、6MD、10m歩行速度については低下の傾向が認められた。他の報告では上腹部術後第14病日での6MD低下率が83.6%であったのに対し、当院では90.9%であったことから、今回の取り組みによりある程度の効果が得られていると考える。そして、6MD変化量と10m歩行速度の変化量に相関を認めたことから、10m歩行速度の変化量は6MDを計測できなかった症例に対する耐久性を含めた能力低下予測の一指標となり得るのではないかと考える。一方で、6MDや10m歩行速度の低下に影響を及ぼす因子が年齢や体重減少量、術前肺機能などとの比較からは見いだせなかった。臥床による筋力低下をコントロールできても耐久性低下を防げていないため、今後、耐久性やスピードに対する評価をしっかりと行うとともに治療プログラムを見直し、それぞれの関係性を追って傾向を見ていくことが今後の課題となる。
    【理学療法研究としての意義】腹部癌患者に対する術前と退院時の身体機能の評価について、今後は術式・部位別の違いによる術後患者の状態を明らかにし、また、評価内容についてのそれぞれの関係性を調べ、術後理学療法プログラム内容の発展や社会復帰予測にも繋げる。
  • ―腰痛患者では外腹斜筋の筋活動量が増加する―
    谷口 匡史, 建内 宏重, 森 奈津子, 市橋 則明
    セッションID: 28
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】 腰痛発生要因の約60%が体幹回旋と関連すると報告されているが、体幹回旋動作に関する検討は少なく、体幹回旋動作と腰痛の関連については不明な点が多い。これまで腰痛患者を対象とした体幹回旋動作に関する筋電図学的研究の多くは、等尺性収縮時の筋活動を検討したものであり、日常生活で生じるような体幹動作時の筋活動は明らかではない。本研究の目的は、体幹回旋動作における腰痛患者の筋活動特性について明らかにすることである。 【方法】  対象は、健常者15名(男性9名、女性6名、年齢:25.2±5.5歳;健常群)および腰痛患者15名(男性9名、女性6名、年齢:22.5±2.4歳;腰痛群)とした。腰痛群は、Visual Analogue Scale(以下VAS)で30mm以上の腰痛が過去に3カ月以上続いた者とし、測定課題の遂行には支障のない者とした。神経症状を伴う腰痛や内部疾患および精神疾患による腰痛は、質問紙にて除外した。腰痛群における最近1カ月間の疼痛は、VAS:平均35.6±23.3mm、腰痛群の健康関連QOL(Oswestry Disability Index)は平均15.1±10.5%であった。測定課題は、立位での体幹回旋動作とした。開始肢位は、両踵骨間距離を被験者の足長および足角10度とし、上肢は腹部の前で組んだ姿勢とした。対象者には、約2m前方で目線の高さに置かれたLEDランプを注視させ、LED点灯の合図にできるだけ速く回旋を開始し、1秒間で最大回旋に到達するよう指示した。数回の練習後、左右ランダムにそれぞれ5回ずつ実施した。 測定筋は、両側の脊柱起立筋腰部、多裂筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹直筋、広背筋上部・下部線維、大殿筋上部線維の計16筋とした。解析には非利き手側への回旋動作を用い、動作時より得られた筋電図波形を整流平滑化し、3秒間の最大筋力発揮(MVC)時の筋活動量で正規化した%MVCを求めた。解析対象区間は、体幹回旋開始相(回旋動作開始の前100msecから開始後100msecまでの200msec)および体幹回旋全体相(回旋動作開始から終了まで)とし、それぞれの%MVCを算出した。統計は、SPSSを使用し、Mann-Whitney検定を用いて健常群・腰痛群の2群間の比較を行った。有意水準は5%とした。 【説明と同意】 本研究は、京都大学医学部医の倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には予め実験の目的および内容を口頭ならびに書面にて説明し、実験参加への同意を得た。 【結果】  回旋開始相では、非回旋側外腹斜筋の筋活動量が腰痛群5.30±1.72%、健常群3.67±2.34%であり、腰痛群の筋活動量が有意に増加(p=0.04、効果量: 0.79)した。また、腰痛群では、非回旋側多裂筋の筋活動量が減少する傾向(p=0.08、効果量: 0.68)にあったが、その他の筋では両群間に有意な差は認められなかった。同様に回旋動作全体においても、腰痛群で非回旋側外腹斜筋の筋活動量が増加、非回旋側多裂筋の筋活動量が減少する傾向(p=0.09、効果量: 0.64)にあった。 【考察】 腰痛群では、非回旋側外腹斜筋の筋活動が有意に増加、非回旋側多裂筋の筋活動が減少する傾向にあった。Ngらは、多裂筋機能低下は脊柱不安定性と関連し、回旋ストレスが増大すると報告している。脊柱不安定性が増大した状態での回旋動作が軟部組織に対して荷負荷となり、腰痛を引き起こしている可能性がある。非回旋側外腹斜筋は、回旋主動作筋であることに加え、体幹を固定する作用を有している。腰痛群では、多裂筋の筋活動低下に伴う脊柱不安定性を外腹斜筋が脊柱安定化筋として代償した結果、筋活動量が増加したと考えられる。以上より、腰痛患者では非回旋側外腹斜筋の筋活動増加が腰痛と関連していることが示唆された。 【理学療法学研究としての意義】  本研究における体幹回旋課題は、これまでの先行研究よりも実際的な回旋動作での筋電図解析が実施でき、日常生活動作レベルの活動においても腰痛患者特有の筋活動特性が生じていることが明らかとなった。また、本研究は、腰痛患者の体幹回旋動作では、外腹斜筋や多裂筋に着目する必要性を示し、臨床における評価・治療の一助になると考えられた。
  • ー高校生の硬式男子テニス選手の1症例ー
    岡 徹, 奥平 修三, 中川 拓也, 古川 泰三, 柿木 良介
    セッションID: 29
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【はじめに】キーンベック病は比較的珍しく、特に若年者スポーツ選手では稀である。今回、我々は硬式高校男子テニス選手に生じたキーンベック病に対し、血管柄骨移植を施行した1例を経験したので報告する。 【説明と同意】本研究の目的、結果の取り扱いなど十分な説明を行い、データの使用および発表の同意を確認後に署名を得た。 【症例紹介】16歳男性、高校硬式テニス部所属(県内ベスト4レベル)。試合中に片手フォアハンドでボールを強打したところ急に痛みが出現する。その後、腫脹と疼痛のためにテニス困難となり、Lichtman分類Stage_III_b(X線像で月状骨に圧潰像、舟状骨が掌側に回旋)のキーンベック病と診断される。発症から2ヵ月後に手術となる。 【理学・画像所見】手背側に腫脹、リスター結節部周囲の圧痛と運動時痛を認めた。X線上では月状骨の硬化像と圧潰を認め、MRI(T1)上では月状骨の低信号を確認した。 【手術所見】橈骨遠位背面から血管柄付きの骨を骨膜、軟骨組織とともに採取した。次に、病巣部位である月状骨の壊死部を背側よりドリリングと掻爬を加え、その間隙に移植骨を挿入した。移植後は有頭骨と舟状骨を鋼線で固定した。 【評価項目】疼痛(NRS)、握力、手関節可動域および手関節機能評価表(Mayo Modified Wrist Score以下:MMWS)の各評価を術前、術後4ヵ月、5、6および8ヵ月で評価した。 【理学療法】術後4ヵ月間の手関節ギプス固定後に抜釘した。その直後より、手関節ROM練習、筋力強化練習を開始した。筋力強化練習(股・体幹・肩甲帯強化)、ストレッチ指導、およびスポーツ動作指導を実施した。 【結果】疼痛は、術前NRSが7/10で術後4ヵ月より軽減し術後6ヵ月で0/10と消失した。握力は術前18_kg_が術後5ヵ月で30_kg_(健側比75%)まで改善した。手関節ROMは術前で掌屈10°、背屈30°、橈屈15°、尺屈40°が、術後8ヵ月では掌屈35°、背屈70°、橈屈20°、尺屈45°と拡大した。MMWSは術前10点が、術後6ヵ月で90点まで回復した。術後5ヵ月からテニス競技復帰をした。掌屈のROM制限は残存するが、右手関節の不安定感、疼痛なくスポーツ活動(テニス)を行っている。 【考察】。本疾患の発生要因については、いまだ解明されていない。しかし、テニス競技による手関節への外力で月状骨に局所的な応力が集中していることは推察できる。術後は長期間の固定による手機能(特にROM低下、筋力低下)の回復を積極的に行った。その後は、手関節の局所機能の回復とともに、上肢に限局したストレスがかからないような身体機能の再構築(肩甲骨や体幹・股関節の機能向上)やフォーム指導およびラケットの再検討などをおこなった。本症例は、術後6ヵ月から公式試合に復帰をした。掌屈のROM制限は残存するがテニス動作では橈尺屈が特に重要で現在のROMでテニスが可能であった。右手関節の不安定感、疼痛なくスポーツ活動(テニス)を行っており、今後も再発しないよう身体面のチェックや現場のコーチと密な連絡をとっていくことが重要である。 【理学療法の意義】キーンベック病に対する理学療法の報告はほとんどないため、症例報告として症例の治療経過や理学療法プログラムおよび評価項目など検討していく必要があると考える。
  • 体重計を使用した従来法との比較
    松浦 康孝, 今井 睦美, 飯田 剛太, 高島 昌宏, 小林 徹, 坂井田 稔, 若吉 浩二
    セッションID: 30
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】下腿骨骨折等の下肢の傷害において、一般的に手術後の歩行練習は、部分荷重歩行より開始し徐々に負荷を増量してゆく。現在、主に臨床で行われている部分荷重歩行は、体重計を用いて足底と下肢全体の感覚で過重を学習する方法(以下、従来法と略す)である。しかし、従来法では部分荷重歩行が適切に行われているかどうかが不確実と思われる。  今回我々は、(株)イマック社と現在共同開発中の靴型荷重測定装置ステップエイド(以下、ステップエイドと略す)を用い、歩行時の患肢への荷重量を測定し、部分荷重歩行が適正に行われているのかどうかを、従来法とで比較し、その安全性について検討した。 【方法】ステップエイドは、足底に内蔵された圧センサーがあり、靴よりコードが出ていてその先に計測器が付き、荷重量の測定と記録ができる装置である。さらにあらかじめ適正荷重域を設定することができ、適正荷重域と超過荷重域にて異なる音信号を発し、荷重状態を使用者に知らせることができる。コンパクトな靴型の装置であるため、容易に着脱でき、歩行の大きな妨げにならず、平地のみならず階段昇降時にも使用でき、どこでも使えるのが特徴である。 対象は、本院で手術施行された踵骨骨折1例、下腿骨骨折1例、足関節両果骨折4例、足関節脱臼骨折1例、アキレス腱断裂1例の入院患者で、手術後に部分荷重歩行の指示が出された50歳~73歳の8名(平均63.5±7.5歳)である。  測定方法は1/3、1/2、2/3の部分荷重歩行時期に実施し、ステップエイドを装着し、まず消音状態にした従来法にて約20m歩行後、次に音信号を発する状態で同様に適正荷重域と超過荷重域とを音で認識させ歩行し患肢への荷重量を連続測定・記録した。歩行適正荷重域の上限は、指示された荷重値を超えないように設定した。分析は患肢への荷重回数に対する荷重量のピーク値を適正荷重域内のものと、過荷重域との率として算出し、比較・検討した。 【説明と同意】本研究においては本院が設置する治験審査委員会において、倫理性や科学性が十分であるとの審査を受け、実施することが承認された。また対象者には、事前に装置使用の説明を文書と口頭にて行い、本研究における同意と承諾を得ている。 【結果】患肢への適正荷重率の比較では、ステップエイドを使用した部分荷重歩行では61~81%得られ、従来法の30~46%に比べ有意に高く適正な部分荷重歩行ができたことを示した。 _丸1_ 1/3部分荷重:67.8±27.0/45.9±34.1 %  P≤0.05 _丸2_ 1/2部分荷重:61.4±28.3/29.9±28.1 %  P≤0.03(ステップエイド/従来法) _丸3_ 2/3部分荷重:80.6±35.9/41.4±32.9 %  P≤0.03 患肢への超過荷重率は、ステップエイドを使用した方が1/3,1/2部分荷重歩行時において、有意に低くより安全に歩行できることが示唆された。 _丸4_ 1/3部分荷重:29.2±29.5/47.8±38.6 %  P≤0.05【ステップエイド/従来法) _丸5_ 1/2部分荷重:36.4±31.7/69.6±34.2 %  P≤0.05 _丸6_ 2/3部分荷重:16.7±37.2/21.6±44.0 %  有意差認めず 【考察】手術後の適切な部分荷重歩行は、骨癒合の促進や患肢の循環の改善に役立ち、歩行能力の回復やADL能力の回復には重要である。しかし、その半面超過荷重歩行を続けると患部の再骨折や、再断裂の危険性を伴う。従来法による感覚的な部分荷重歩行は、不確実性があるため再骨折等の危険が危惧され、慎重になりすぎるとリハビリ進行が遅れることがあった。 今回、平均年齢63.5歳と、比較的年齢の高い対象者に対しても、ステップエイドを使用した部分荷重歩行が従来法に比べ適正荷重率と超過荷重率とも優れていた。特に歩行練習開始時期の1/3,1/2部分荷重歩行時の超過荷重率が有意に低かったことは、再骨折や再断裂防止に対してより安全性が高いと考えられ、また荷重増量が円滑に行えることが示唆された。若吉らは、健常人23名に対して部分荷重歩行を、ステップエイドを使用した群と従来法の群とで比較し、ステップエイド使用群が適正な荷重を繰り返し行うほど学習効果の為より有意に高くなることを報告をしている。今後、高齢者の骨折の増加が予想される中、ステップエイドの使用で、より簡便に安全性の高い部分荷重歩行が行えると考える。またさらにステップエイドに改良を加え、早期の部分荷重歩行や学習効果による確実な部分荷重歩行にすることができると考えられる。 【理学療法研究としての意義】一般に、部分荷重歩行練習は高齢者や知覚障害を合併した症例には難しいとされているが、本研究結果よりステップエイドを用いることで、より安全で容易に部分荷重歩行練習ができ、歩行能力の回復が見込まれることと思われる。
  • 和田 直子, 岡山 裕美, 熊崎 大輔, 大工谷 新一
    セッションID: 31
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】腰椎周辺疾患の術後患者において、体幹屈曲動作の際に、術創部のつっぱり感を訴える人が多い。この原因の一つとして術創部の皮膚の伸張性低下が考えられるため、手術後早期から皮膚の伸張性を評価することは重要と考えられる。そこで今回、健常者における体幹屈曲に伴う胸腰背部周囲の皮膚の伸張性について検討した。
    【方法】胸腰背部に術創部のない健常男性10名を対象とし、まず、スパイナルマウス(index社製)を用いて、端座位での体幹中間位と体幹屈曲50°位での胸椎弯曲角、腰椎弯曲角を測定した。スパイナルマウスの腰椎弯曲角の平均値(index社)よりも腰椎弯曲角が大きかった被験者4名を腰椎優位群、スパイナルマウスの胸椎弯曲角の平均値よりも胸椎弯曲角が大きかった被験者4名を胸椎優位群とした。
    つぎに、被験者にプラットホーム上で端座位をとらせ、ボールペンで胸腰椎棘突起下縁に×印をつけた。その際、上肢は体幹屈曲運動に支障がないように自然下垂させ、骨盤中間位、膝関節屈曲90°、足関節底背屈0°とし、足底は床へ接地していることを条件とした。第1から5胸椎棘突起間を_I_区画、第5から9胸椎棘突起間を_II_区画、第9胸椎極突起から第1腰椎棘突起間を_III_区画、第1から5腰椎棘突起間を_IV_区画とし、計4区画に分けた。各区画の距離をメジャーにて計測し、その距離を基準距離とした。体幹中間位から自動運動にて10°、20°、30°、40°、50°と体幹屈曲運動を行い、各角度において各区画の距離をメジャーにて測定した。体幹屈曲角度は、ゴニオメーターを使用し測定した。
    伸張差は、求める屈曲角度の区画距離から前屈曲角度の区画距離を引いたものとし、各屈曲角度の伸張差を基準距離で除し、100を乗じたものを伸張率とした。
    統計学的処理では、各群での各体幹屈曲角度の区画間における伸張率の比較を一元配置分散分析で統計処理した後に、Tukeyの多重比較の検定を実施した。また、胸椎優位群と腰椎優位群の角度間における伸張率の比較には対応のないt検定を実施した。なお、有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】被験者には本研究の目的を十分に説明し、同意を得た。
    【結果】スパイナルマウスによる胸椎弯曲角の平均値は、胸椎優位群、腰椎優位群の順に43.5±3.51°、24.7±12.52°であった。同様に、腰椎弯曲角は22.8±16.92°、40.8±1.89°であった。また、腰椎優位群では、屈曲初期における可動性が大きかった。
    各屈曲角度の区画間における伸張率については、胸椎優位群での0°から10°間において区画_I_が区画_II_よりも有意に高値を示したが(p<0.05)、他の区間では有意な差は認められなかった。一方、腰椎優位群ではすべての角度間において有意差はなかった。また、腰椎優位群と胸椎優位群の角度間における各区画の伸張率において、30°から40°間の区画_II_では、腰椎優位群が有意に高値を示した(p<0.05)。
    【考察】胸椎優位群では、0°から10°間において区画_I_の伸張率が区画_II_と比較し高くなった。胸椎の椎間関節面は後外側方を向き、かつ前額面よりになっているため、胸椎は屈伸、側屈、回旋運動が可能となっている。しかし、胸椎の関節面は急激に傾斜し、垂直化しているため、頚椎と比較し、屈伸運動は制限される。またRolfによると、皮膚が伸張されにくい部分では、その部分を補うように他の部分が動くとの報告がある。これらのことから、体幹屈曲動作おいて頸椎の屈曲が生じることに伴って、上位胸椎部の動きが増加したために区画_I_の伸張率が高くなったと考えられる。一方、腰椎優位群は、スパイナルマウスの測定結果から胸椎よりも腰椎の可動性が大きく腰椎部の皮膚が伸張されやすいと考えられたが有意な結果は得られなかった。これは、腰椎部の皮膚が伸張されることに対して、胸椎部の皮膚が腰椎部の方向に動くことで対応している可能性が考えられた。
    また、30°から40°間において、区画_II_の伸張率が腰椎優位群の方が胸椎優位群よりも高くなった要因として、胸椎の可動性が関係していると考えられる。腰椎優位群では、体幹屈曲初期では腰椎の可動性が大きく、その後の腰椎の可動性変化は少なかったため下位胸椎の可動性が増大したのではないかと考えられた。胸椎の可動性が増大したことで、下位胸椎部の皮膚が伸張され、それを補うように中位胸椎部の皮膚が移動したため、腰椎優位群の区画_II_の伸張率が高くなったものと考えられた。
    【理学療法研究としての意義】体幹屈曲動作の際に、皮膚のつっぱり感を訴える腰部周辺疾患の術後患者に理学療法評価を行う場合には、皮膚の滑走性に併せて椎骨の可動特性を考慮する必要がある。
  • 通所リハビリテーション利用者に体幹機能評価を加えて
    曽根 典法, 藤平 保茂, 高橋 奈津子, 白田 祐司, 小谷 弥
    セッションID: 32
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】動作における体幹機能の重要性が指摘されている.体幹機能の評価方法については,観察や触診での評価がよく行われている.定量的な評価方法の中でよく知られているものには,脳卒中機能障害評価SIAS(Stroke Impairment Assessment Scale)の体幹項目がある.他にも幾つかの報告があるが,本研究では臨床的体幹機能検査FACT(Functional Assessment for Control of Trunk)を用いた.本テストは簡便で10種類の小項目より構成されている.体幹機能の評価,分析に向いていると考えたからである.体幹機能に関する先行研究では,体幹機能は移動動作との相関があることが報告されている.しかしその報告は,脳血管障害などの症例を対象にしたものが多く,通所リハビリテーション利用者(以下,通所利用者)を対象にしたものは少ない.そこで本研究の目的は,通所利用者におけるADL能力が,どのような運動機能と関係しているのかを明確にし,一定の指針を得ることである. 【方法】本研究は,2006年5月から2007年5月末までの期間,通所利用者をカルテより後方視的に検討した観察研究である.対象者は、当院の関連施設である介護老人保健施設の通所利用者99名,男性36名,女性63名で,平均年齢は83.0歳(59~100歳)であった.内訳は,要支援1および2は27名,要介護1~5は75名,平均介護度は1.8,3名が経過中に要介護から要支援へ変更となった為,重複して数えている.全利用者中,認知症高齢者の日常生活自立度2~Mが32名,内訳は2が27名,3が5名であった.ADL能力と運動機能との関係をみるための検討項目として,FACT合計,FIM運動項目合計(以下,運動),FIM移動項目(以下,歩行),大腿四頭筋筋力の徒手筋力検査で左右を比較し強い方の下肢の値(以下,大腿四頭筋筋力),の4項目とした.なお,MMTは0~2,3,4,5レベルの4段階に分類した.また,すべての項目への計測は,同一検者にて行った.さらに,上記期間に同一利用者が複数回の検査を行っている場合は,その平均値を用いた.4項目間の関係をみるために,統計処理には,スピアマンの順位相関係数の検定を用いた.有意水準を5%未満とした. 【説明と同意】本研究は既存資料を後方視的に検討した観察研究である.対象者に新たな侵襲性はなく,説明と同意は省略した.データは個人情報とは無関係な番号付与による匿名化により研究者が責任を持って管理することとした. 【結果】4項目間での関係をみると,FACTと FIM運動,FIM歩行との間には,中等度の相関(それぞれ,r=0.62,r=0.58,すべてp<0.00) が認められた.大腿四頭筋筋力とFIM運動,FIM歩行との間には,軽度の相関(それぞれ,r=0.34,r=0.38, すべてp<0.00) が認められた.また,FACTを構成する要素別では,動的端座位保持能力や前方への重心移動,立ち上がりなどをみる構成要素(FACT4)において,FIM歩行,大腿四頭筋筋力との間に中等度の相関(それぞれ,r=0.49,r=0.43,すべてp<0.00)が認められた.動的端坐位保持能力や左右への重心移動をみる構成要素(FACT5) ,動的端座位保持能力や後方への重心移動をみる構成要素(FACT7)では,FIM歩行との間に中等度の相関(それぞれ,r=0.42, r=0.44,すべてp<0.00)が認められた.また,体幹伸展位での回旋をみる項目(FACT9)と、脊柱の最大伸展をみる項目(FACT10)では全員が不能であった.他の項目については相関係数r=0.4未満であった. 【考察】今回の結果から,動作や歩行自立度の関係は,大腿四頭筋筋力よりもFACTの方が高いといえる.このことから,通所利用者におけるADL能力は,体幹機能との関係があることが示唆された.大腿四頭筋筋力と歩行の関係についても多くの報告がある.今回の結果で軽度の相関にとどまったのは,左右を比較し強い下肢の結果としたために片麻痺のように左右差の大きい症例で相関が出にくかったことが考えられる.FACT各項目においては,FACT4は立ち上がりの要素を含むために歩行や大腿四頭筋筋力との相関を認めたと考える.FACT5およびFACT7は体幹の立ち直りや股関節周囲の支持性を反映している.安定した歩行のために必要な体幹機能と考える.そして,FACT9およびFACT10は全利用者が何らかの脊柱伸展障害を来していることを示している.脊柱の伸展が困難であると言うことは立ち直りにも影響を与える.つまり,円背を抱えながら立ち直り動作を行う難しさを示していると考える.理学療法士は,体幹機能についての評価を十分行い,必要な指導や取り組みを進めていく必要がある. 【理学療法研究としての意義】介護保険分野での理学療法士の活動が進む中,簡便に体幹機能や歩行能力の関連を評価できることは重要と考える.今回の調査結果は,歩行能力を評価する際の一定の指標と基盤になるものと考える.
  • 飛田 良, 岩井 宏治, 平岩 康之, 前川 昭次, 菊地 克久, 久保 充彦, 今井 晋二, 松末 吉隆
    セッションID: 33
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【はじめに】
     骨軟骨柱移植術(以下、Mosaicplasty)とは、複数の自家骨軟骨柱を、膝関節に対する荷重があまりかからない大腿骨顆部辺縁部から採取し、荷重部位の軟骨欠損部位にプレスフィットで移植する方法である。近年、限局性の関節軟骨欠損に対し、硝子軟骨で修復する目的で Mosaicplastyが行われている。当院においても、松末らが1993年に世界で初めて鏡視下での自家骨軟骨移植法を報告して以来、積極的に手術が行われている。
     本法の適応は、加齢による軟骨細胞の増殖能や基質産生能が低下するため、Mosaicplasty単独では50歳以下であると考えられている。先行文献では、TKA適応レベルにある中年女性や、若年のスポーツ障害例などが見受けられる中、難病治療の既往歴のある、20歳に満たない若年女性に対する理学療法介入の報告は、我々の渉猟する範囲では見当たらない。そこで今回、若年女性2症例を紹介し、術後におけるリハ介入の有効性について検討する。
    【説明と同意】
     尚、本研究では、世界医師会におけるヘルシンキ宣言に則り、事前に患者に対し十分に説明を行った上、同意を得た。
    【症例紹介】
     症例1:16歳、女性、高校生。13歳で急性リンパ性白血病を発症。2か月間ステロイド療法を施行した既往がある。現在は、寛解状態にある。2年程前から左膝関節痛を自覚し、骨壊死と診断。Mosaicplastyを施行〔同側の腸骨より採取した自家骨を移植し、膝蓋大腿(以下、PF)関節面の辺縁内側部より、直径10mmの骨軟骨柱を採取し、大腿脛骨関節の大腿骨外顆欠損部(幅15×15mm程度)に対し、プレスフィットさせた〕。術後3日目、免荷・自動運動より、リハ開始。1週でCPMを開始し、2週から他動運動および1/4部分荷重を開始。7週で膝装具下での全荷重が許可。通学を想定した屋外歩行などの応用動作も遂行可能となり、術後8週で独歩での退院・復学となる。退院時、ROM:0~140°MMT:4レベルまで改善をみとめた。
     症例2:17歳、女性、高校生。13歳で全身性エリテマトーデスを発症。15歳でネフローゼ症候 群でステロイド大量療法施行歴あり。現在も、プレドニン10mg (2010年12月時点)内服中。1年前から両膝痛(左>右)があり、(左側)Mosaicplastyを施行〔PF関節の大腿骨内側辺縁部近位より一か所(直径11mm)の骨軟骨柱を採取し、同関節面の大腿骨外顆(幅15×30mm程度)に対し、プレスフィットさせた〕。術後9日目からリハ開始。15日目より、CPM開始となり、4週で1/3荷重での松葉杖歩行を開始。6週で膝装具下での全荷重が許可され、独歩にて退院・復学となる。退院時ROM:0~120°MMT:3-であった。
    【考察】
     本2症例は、学童期に罹患した原疾患のステロイド治療に起因した膝骨壊死病変に対し、Mosaicplastyを施行された。Mosaicplastyは、自家骨軟骨柱による軟骨の修復であるため、骨癒合が良好で信頼性があること、特にリハビリ経過が比較的早く進むことが言われている。その中で、本2症例に関しても、術後リハの介入により良好な経過を示し、日常生活における動作能力を再獲得し、術後6~8週で独歩での退院・学業復帰を成し遂げた。
     岡らは、Mosaicplasty術後における関節面間での適度な運動刺激は重要で理学療法の役割は大きいと述べた上で、膝関節の接触面の位置・圧迫力を推察しながら軟骨移植部位に過負荷とならないよう注意すべきだと述べている。今回の症例でも、特に症例2に関しては、軟骨損傷範囲が大きく(幅15×30mm)、関節間での機械的ストレスを懸念し、なるべく疼痛をきたさない様、関節運動を実施した。筋力強化練習に関しても、免荷期ではOKC、部分荷重開始よりCKCを開始している。対照的に、比較的損傷範囲の小さい症例1では、部分荷重開始時期より自転車エルゴメーターを無負荷から開始している。KaufmanらやEricsonは、自転車エルゴメーターが膝関節にかかる圧迫力が非常に少なかったと報告しており、このことがROM改善・筋力の向上につながったと考える。
    【理学療法研究としての意義】
     今回の検討により、20歳未満の症例に対しても、Mosaicplastyとそれに伴うリハビリ介入の有効性が示唆された。また、軟骨損傷の原因疾患、部位、年齢、合併手術の有無など、患者間で背景因子に差があり、一定のクリニカルパスに沿った理学療法の展開は難しく、各々に合った理学療法プログラムを工夫し、立案していく必要がある。また、退院時の機能としては日常生活レベルでは問題とならないが、セルフトレーニングや継続した通院リハなどの継続した理学療法の介入が重要となるだろう。
  • 治療用ベッド上と便座上での比較
    旅 なつき, 高木 綾一, 鈴木 俊明
    セッションID: 34
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     我々はこれまでの研究より、便座上での下衣脱衣動作ではベッド上に比べ体幹の前傾運動を大きく要すことを報告した。このことから、便座上にて脱衣側の坐骨と便座を離床し下衣を降ろすための空間を作るためには、非脱衣側前方への立ち上がり動作のような体重移動が必要であることが示唆された。そこで本研究では、立ち上がり動作に必要な下肢筋群の筋活動様式と関節運動に着目し、ベッドと便座という座面の違いが下衣脱衣動作に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
    【方法】
     健常成人9名(平均年齢26.4±2.0歳)を対象とした。課題動作はベッド上とポータブルトイレ上の端座位において右上肢で右下衣を坐骨より遠位に一回で脱衣し端座位に戻るまでとした。測定機器には筋電計(MQ‐8キッセイコムテック社)と3次元動作解析装置(ユニメック社UM-CAT)を用い、同期計測を行なった。筋電図の記録筋は、非脱衣側前方への立ち上がりに筋活動が必要と考えられる両側の大殿筋、中殿筋、大腿直筋、前脛骨筋とし、サンプリング周波数を1000Hzで測定した。さらに、3次元動作解析ではマーカーを両側の上後腸骨棘、大腿骨遠位1/3、大腿骨内外側上顆、腓骨頭、腓骨外果、第5中足骨頭に配置し、股関節の屈曲、内外転、回旋、下腿前傾の関節角度における時間変化を記録した。上記より得られた筋活動様式と関節運動を分析するために課題動作の相分けを行った。各相は先行研究(旅 2009)より、動作開始前の座位を先行相とし体幹左側屈開始から骨盤右挙上開始までを第1相、骨盤右下制開始までを第2相、骨盤右下制終了までを第3相とした。次にベッド上と便座上での各相における筋活動様式と関節運動について比較検討した。
    【説明と同意】
     対象者には本研究の目的および方法を説明し同意を得た。
    【結果】
     便座上の7例において、骨盤右挙上運動が開始して下衣を坐骨より遠位に脱衣し骨盤が座位の状態に戻るまでの第2相から第3相にかけて持続した両前脛骨筋と大腿直筋の筋活動の増大を認め、左足関節は背屈、左股関節は屈曲、右股関節は伸展運動が生じた。また、便座上の2例においては、両前脛骨筋の筋活動が第2相で増大し、軽減した後に第3相で再び筋活動の増大が生じた。それに伴い左足関節は第2相で背屈運動が生じた後、第3相で再び背屈運動が生じた。また、右足関節においては1例を除き第2相から3相にかけて背屈運動が生じた後、底屈運動が生じた。一方、ベッド上の5例においては、便座上と同様に第2相から第3相にかけて両前脛骨筋と大腿直筋の筋活動の増大を認めた。しかし、便座上のように第3相まで持続した活動は生じず、便座上に比べ筋活動は少なかった。また、4例においては上記の筋群のいずれかに筋活動増大を認めなかった。さらに、ベッド上の全対象者において両股関節、左足関節の関節運動は便座上と同様の運動がみられたが、右足関節においてはベッド上では第2相から第3相にかけて底屈運動が生じた。要するに便座上ではベッド上に比べ、第2相から3相にかけて両前脛骨筋と両大腿直筋の筋活動の増大とベッド上では生じなかった両足関節の背屈運動が生じるという特徴が確認できた。
    【考察】
     ベッドと比較して便座上において、第2相から3相にかけて両前脛骨筋と両大腿直筋の筋活動の増大とベッド上では生じなかった両足関節の背屈運動が生じるという特徴が認められた。この要因を以下のように考察した。 端座位での下衣脱衣動作時の第2相から第3相では、脱衣側の骨盤を挙上させ殿部を座面から浮かすことで下衣を下ろすための空間を作る必要がある。端座位での下衣脱衣動作時において、便座上ではベッド上に比べ非脱衣側への骨盤の側方移動距離が制限される(旅 2009)。また、大腿直筋が体幹前傾に前脛骨筋が下腿の前傾に働くことで、重心を前下方に移動させる原動力となり、立ち上がり動作の殿部離床が生じる(後藤 2002)。このことから、便座での脱衣側の骨盤の挙上には、立ち上がり動作のような重心の前方移動を用いる必要があることが示唆される。さらに、殿部を座面から浮かし下衣を下ろす空間を作るために、脱衣側の股関節の伸展運動が生じたと考えた。 以上のことから、便座上にて脱衣側の骨盤を挙上するためには、非脱衣側への立ち上がり時の体重移動のように左大腿直筋、左前脛骨筋の活動により左股関節屈曲、左足関節背屈運動を生じさせる必要があると考えた。このことにより、体を左前方へ移動させることで左大腿部から左足底に支持面を作り右殿部の荷重量を軽減させたと考えた。
    【理学療法研究としての意義】
     ベッド上にて下衣脱衣動作練習を行う際には、便座を想定し非脱衣側前方への立ち上がり動作の体重移動のように身体を前方へ移動させながらの骨盤の挙上運動が行なえることが重要となると考えられた。
  • 岩間 一志, 田中 智章
    セッションID: 35
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】自動車運転を希望する脳卒中患者の支援 【方法】自動車運転を希望する脳卒中患者が、警察署にて自己責任で運転してよいと判断されたが、医師から自己責任では安全面に不安があるとの理由から運転が許可されなかったため、運転可否の客観的判定を得る目的で自動車教習所における福祉車輌でのペーパードライバー教習を利用した。理学療法士・作業療法士が教習車に同乗し運転指導員に患者の疾患に関する特性などを説明した。今回の経験から若干の知見を得たので報告する。 【説明と同意】患者に口頭にて発表の趣旨を説明し同意を得た。 【結果】医師より一旦は自動車運転が禁止されたが、ペーパードライバー講習で運転可能と判定された結果、運転が許可された。ペーパードライバー講習に理学療法士・作業療法士が同行し、運転指導員に患者の疾患に関する説明をしたことで運転指導員が疾患の内容を考慮した判定の一助となった。自費で片手運転用のハンドルノブを装着し退院直後から運転が可能となった。 【考察】自動車運転免許を保有する中途障害者が運転を希望する場合は警察署で臨時適正検査を受ける必要があるが、本症例は運転免許更新までの期間が短いという理由から、警察署で臨時適正検査は次回の免許更新時に行うこととされ、それまでの期間は「自己責任」で運転が認められた。しかし医師から自己責任では安全面に不安があるとの理由から運転が許可されず、患者本人も運転に不安があったため、運転の可否に関する客観的判定を得る目的でペーパードライバー講習の利用を提案した。先行研究では、脳卒中患者の3分の1は発症後の自動車運転が困難となり、3分の1は特にトレーニングを必要とせず運転に復帰し、残り3分の1は運転復帰のためにトレーニングが必要であると報告しているが、脳卒中患者が路上運転を再開するにあたって、その評価をどのように行うか標準的な方法は確立されていない。路上で実地運転を評価するのが最良の方法と指摘されているが、実地場所、安全の確保、自動車の改造や評価者の特別な訓練等、費用負担や責任の問題に直面し実施困難なことが多い。近年、身体障害者に対する自動車教習に積極的な自動車教習所が増える傾向にあり、福祉車輌を利用できることからも脳卒中患者の実地運転を安全に評価できる方法として積極的な利用が期待されるが、疾患に関する専門的な知識を有する運転指導員は少なく、教習そのものは疾患の特性に対応したものではなく、一般の運転技術の判定に準じているのが現状である。本症例の担当となった運転指導員も、疾患に関する特別な知識はなく、運転技術の判定は可能であるが疾患のことは分からないので専門家からその内容を説明されると疾患を考慮した判定がしやすいとの意見があった。今回、理学療法士・作業療法士が自動車教習所まで同行し、実際に教習車の後部座席に同乗して、運転場面を観察しながら運転指導員に患者の疾患に関する説明を行ったことで、運転指導員に医学的情報を提供したうえでの客観的判定を得ることができた。脳卒中患者の63%が入院中に運転に関するアドバイスを受ける機会が何もなかったとの報告もあり、このように少しの介入で運転が可能となりそうなケースでは医療関係者が患者と自動車教習所等の橋渡しとなることは有意義であると考える。現在、臨時適正検査は強制ではなく最終的には運転申請者の自己申告で行われるため、何らかの理由で検査を受けずに運転を行っていることも多く、現状ではそれらを拾い上げることは困難となっている。警察署や運転免許センターからは、医療関係者側で臨時適正検査が必要と思われる場合には患者に検査を勧めるよう望まれているが、その必要性を客観的に判断する指標はなく医師の判断に委ねられている。患者の自動車運転に対する希望の実現と、事故を起こさない安全な運転のために、自動車運転適正検査の標準化が必要であることを感じた。 【理学療法研究としての意義】実際の場面を通じた評価の重要性を考えると、退院前訪問指導として自宅を評価するのと同様に、職場、公共施設、交通機関の使用時、通学・通勤時などにも同行して評価できる枠組みが広がれば、より患者のニーズにきめ細かく対応でき社会復帰を促進する一助になるものと考える。
  • 桑山 浩明, 長崎 友紀子(Ns), 副田 喜代美(Ns・CM), 大江 与喜子(Dr)
    セッションID: 36
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】
     近年の医療情勢において、在宅でのがん医療推進が求められている。しかしながら、患者本人や家族は在宅生活に身体的、精神的な不安を感じている。その中で、理学療法士(以下PT)が介入する役割は身体的な不安を軽減させることである。しかしながら、終末期リハビリテーション(以下、終末期リハ)という限りある時間の中で、身体的な変化をもたらす必要がある。つまり、訪問PTが介入早期の段階での深い信頼関係の構築、身体的評価の正確さを向上させることが重要である。そこで、訪問PTの介入前過程また介入後の関与方法を検討することで、在宅がん医療でのPT介入方法への着眼点を検証することが本研究の目的である。
    【方法】
     がん患者における終末期リハに関して、訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)を行なっている3例について報告を行う。
    【説明と同意】  紹介する3例に関して、ヘルシンキ宣言に基づき、ご本人ならびに家族に対して研究に関する説明を行い同意を得た。
    【結果】
     ケース1:80歳代、男性、悪性リンパ腫、腹腔内多発腫瘍。退院時には、膝関節拘縮著明、易疲労性のため車椅子生活であった。入院担当PT継続関与により、本人の希望である歩行を目的に、主治医との連絡体制確立し負荷量設定、歩行補助具検討、自主練習指導を行い、杖歩行での外出が可能となった。その後、在宅生活1年半経過し、状態悪化に伴い再入院、継続してPT施行することで、看取り2日前まで座位保持可能。本人・家族に寄り添うPTが施行できた。
     ケース2:70歳代、女性、肺がん、全身多発転移。退院後3ヵ月医療的な処置のみで寝たきり状態であった。「誕生日に花見がしたい」との希望でPT介入。担当訪問Nsより居住環境などの情報収集を行い、介護支援専門員(以下CM)と共にサービス前調整自宅訪問、骨転移等情報収集、座位評価、在宅医とノートによる連携を取りながら、リクライニング車椅子導入。介入1ヶ月後、PT、Ns、家族と花見を行い、その後、家族と福祉輸送職員で主治医外来受診。本人から「死ぬ気がしなくなった。」「やりたいことが増えた。」などの発言が増えた。
     ケース3:30歳代、女性、肺がん、HOT、歩行時呼吸苦著明、月単位余命宣告あり。本人の「自宅で生活したい」との希望により、退院前会議に訪問看護ステーション管理者と参加、医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)に入院担当PT、主治医からの情報提供を依頼、本人・家族と面談。その後、退院前に担当PTと書面、電話にて情報収集行った。退院翌日にサービス前調整自宅訪問にて、訪問看護師(以下Ns)と共に住環境確認し、サービス内容を同日に午前にNsによる入浴動作の実施、午後にPTによる動作確認、指導を行うこととした。くわえて、午前終了後の報告・午後終了後に情報交換を行うことで、福祉用具導入等即日対応することが可能であったことが、本人・家族への安心感につながり、看取り4日前までの訪問リハ施行し、約2ヶ月間の在宅生活を可能とした。
    【考察】
     がんの終末期に直面している本人や家族は、病院から在宅への新たな環境へ向かう際、身体的・精神的不安を抱えている。PTは主に身体的側面に介入することが主眼となるが、本人や家族はPTが介入することに期待と不安があると思われる。したがって、介入前後から信頼関係を築き、それを継続させることが最も重要であると思われる。そこで今回の3例のように、入院時から継続的関与、関係職種(主治医、在宅医、CM、MSW、Ns、ヘルパーなど)との連携・連絡体制構築、同職種間での情報共有などにより、介入直後から信頼関係が容易に築くことが可能であった。また、入院中から連携・連絡体制を継続することにより、即時対応が可能であり最後の時まで「人間らしく生活する。」という目標に寄り添うことが可能であったと言える。つまり、終末期リハの訪問PTが直接介入による身体的変化に着目するだけでなく、その事前準備、周辺業務を行うことが必要である。特に、終末期リハではその連携を目に見える形で行うことが、本人・家族への精神的不安の減少につながり、訪問PTとして必要な介入方法であると考える。
    【理学療法研究としての意義】
     がんの在宅医療推進が求められている中、我々、理学療法士が在宅でがん患者への支援方針や介入方法の研究を行うことで、国民ががん治療を受ける際に、在宅で過ごすという選択肢が増えることが期待される。
  • 吉川 昌利, 岡田 直之, 新井 良之, 吉岡 豊城
    セッションID: 37
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】本邦で柴田ら(1997)は65歳以上の在宅生活者が1年間に転倒する割合は総じて約20%であったと報告しており、そこから生じる器質的変化の寄与する影響は非常に大きい。平成19年度の国民生活調査によると、介護が必要となる原因として、脳血管障害、認知証、高齢による衰弱、関節疾患に次いで転倒・骨折が第5位に挙げられた。問診の際、転倒の受傷機転を聴取すると自己の身体機能を過大評価した結果、転倒・再転倒に至ったといった経緯を聞くことは少なくなく、加齢変化による運動・高次脳機能などの能力低下に加えて、体性感覚および固有感覚の情報処理が正常に機能していないことが推察される。高齢者の身体知覚に関する研究で正高(2000)は高齢者になるにつれて、身体の加齢変化を認識できておらず、身体の働きと知覚システムの間に相違が生じていると報告している。また、鈴木(2006)は転倒時の状況あるいは原因について報告しており、転倒の原因は男女ともに「つまずいた」が圧倒的に多く、次いで「滑った」あるいは「段差に気付かなかった」が続いている、としている。しかし、外的環境に対する知覚を調査したこれまでの研究では健常者(高齢者を含む)を対象にしたものが多く、また対象物に対する距離が知覚に与える影響を調査したものは少ない。今回我々は何らかの障害を有するものを対象に、対象物との距離の違いが自己身体認知に影響するのかを検討し、自己の身体認知が、現実の動作とどれだけ適合しているのかを明らかにすることとした。【方法】当院回復期病棟入院患者で機能的自立度評価法(Functional Independence Measure以下FIM)の移動(歩行に限る)項目が5点以上の患者14名(男性7名、女性7名 平均年齢72.43±11.15歳)を1.下肢疾患群、2.中枢神経疾患群(下肢疾患群以外の整形外科疾患を含む)と大別し、バーの跨ぎ課題を実施した。実施手順は次の通りである。まず被験者が立位の状態で7m先にあるバーの高さを、自分が跨ぐことができると思われる最大の高さに設定する。設定はバーの高さを験者が操作し、被験者はそれを見て目的の高さになったら申告するという方法で行った。その後申告したバーの高さを変えずに、バーを被験者の50_cm_前方に移動した。7m前方で申告した高さを修正する場合は、7m前方での高さ設定と同様の方法でバーの高さを変更した。バーの高さが決定された後、実際に跨ぎ動作を実施し、その高さを跨ぐことができた場合はさらにバーを上げ、失敗した場合はバーを下げるという手順を2回繰り返し、実際の跨ぎ動作能力の最大値を測定した。【説明と同意】臨床研究に関する倫理指針(厚生労働省)、個人情報保護法、ヘルシンキ宣言を遵守し、対象者には本研究趣旨を十分に説明、書面にて研究参加の同意を得た。【結果】跨ぎ動作1回目での成功率は、下肢疾患群において失敗する傾向がみられた(p<0.10)。跨ぐことができた最大値(以下、最大値)と距離別予測値との相関を比較した結果、7m予測値は両群ともに最大値と強い相関がみられたが、50_cm_予測値は下肢疾患群において最大値と相関がみられなかった。また、距離別予測値と最大値との誤差は、7m予測値で両群ともに誤差は少なく、50_cm_予測値では下肢疾患群で有意に誤差が大きかった(p<0.05)。【考察】下肢疾患群では、跨ぎ動作1回目において失敗する傾向がみられ、それにより日常生活の中で、新規の環境に遭遇した際につまずきによる転倒の危険性が高まることが推察される。中枢神経疾患群では、7mと50cmのそれぞれの予測値が近似しているが、下肢疾患群ではそれぞれの予測値が比較的乖離しており、かつ50cmでの予測値が実測値と離れていた。このことは、日常生活において、転倒の一要因となることが考えられる。【理学療法研究としての意義】本研究により、下肢疾患群が有意に自己身体認知に誤差が生じる可能性が示唆された。危険性を低くするためには、新たな自己身体認知を確立する必要性があり、最大能力を発揮できる動作方法を獲得する必要がある。そのためには、生活環境に限局した動作練習だけでなく、最大能力を知るための評価、練習を行う必要があると考える。また、動作方法の選択の一助として身体の一部を指標とし、判断を促すことも有効である。そして個々人に適した動作方法を決定し、習慣化させ、転倒予防に寄与していく。
  • 森川 明, 山腰 裕太
    セッションID: 38
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】 介護保険法が改正され、介護予防を重視したシステムの導入が図られている。現在、様々な形で介護予防運動器機能向上サービスが提供されており、運動器機能向上の効果判定を行い、介護予防に繋げている。今回、地域在住高齢者へのウエイトマシンを用いた筋力増強トレーニングおよび運動指導を行い、運動器機能の評価(以下評価)を3回行ったものと、2回行ったものでのトレーニング効果について検討したため報告する。 【方法】 対象は、今後要介護となるおそれのある地域在住の自己にて通所可能な65歳以上の高齢者で、自治体の募集に自主的に応募した者。平成21年度は男性10名、女性19名の計29名、平成22年度は男性6名、女性21名の計27名。実施内容は、運動指導員により、3ヶ月間を1期間として、1グループ最大8名を1日2時間のコンディショニングを含めたウエイトマシントレーニングと自宅運動指導を週2回、計20回を地域公共施設にて行った。平成21年度は1回目、10回目、20回目と計3回、平成22年度は1回目、20回目と計2回の評価を行った、評価は握力、Timed up&Go 時間(以下TUG)、開眼片足立ち時間(以下片足立ち)、長坐位体前屈、5m歩行時間の5項目を行った。3回の評価を行った場合と2回の評価を行った場合の評価結果を有意水準0.05以下として対応のあるT検定を行い解析した。 【説明と同意】 本研究は対象者と関係自治体に対して説明と同意を得た上で、ヘルシンキ宣言に基づき実施した。 【結果】 3回の評価および2回の評価での1回目から20回目の評価結果はそれぞれ、握力は3回の評価で25.2±7.8kgから26.8±7.6kg、2回の評価で23.0±7.6kgから24.5±8.4kg。TUGは3回の評価で6.2±1.1秒から5.1±0.9秒、2回の評価で6.6±1.9秒から6.3±1.7秒。片脚立ちは3回の評価で36.7±23.3秒から51.2±15.8秒、2回の評価で32.0±22.0秒から39.3±23.0秒。長座位体前屈は3回の評価で35.6±9.7cmから38.1±6.9cm、2回の評価で32.0±9.6cmから34.8±8.2cm。5m歩行時間は3回の評価で3.5±0.6秒から2.8±0.4秒、2回の評価で3.5±0.8秒から3.2±0.4秒であった。3回と2回の評価ともにすべての項目において有意な向上を認め(p<0.05)、特に握力、5m歩行時間に関しては特に有意差があった(p<0.01)。また、3回の評価では、TUG、片足立ち、5m歩行時間が特に有意差を認めた(p<0.001)。 【考察】 今回の結果では、評価回数に関係なくすべての項目で向上を認めた。握力や5m歩行時間が特に有意差を認めて向上しており、高齢者のウエイトマシントレーニング、自宅運動指導による筋力向上が認められた。3回と2回の評価を行った場合のどちらも、すべての項目で有意な運動器機能の向上が図れ、評価回数による筋力増強効果に差はないものと思われる。しかし、3回の評価を行った場合の方が、TUGと片足立ち、5m歩行時間で特に有意差を認めて向上した。これは、中間での評価を加えることにより、トレーニング効果の確認を踏まえた自宅運動指導が行われたためではないかと考えられる。要介護状態を予防するのにバランス機能の重要性が確認されている。歩行速度の向上には筋力のみならずバランス機能が重要であり、ウエイトマシントレーニングでは筋力向上は図れても、TUGや、片足立ちのようなバランス機能に大きく影響を受けると考えられる項目の向上には途中での効果確認のもと、運動指導を行うことが必要であることが考えられる。 【理学療法研究としての意義】 介護予防は、様々な職種が関わって行われている。理学療法士の介入も様々で、専門性を活かした働きが求められる。また限られた時間で行われる中、効果判定にばかり時間を割いていられない場合もあり、より効率的で効果的な事業運営を行って行くべきであると考える。今回の研究で、運動器機能向上のために筋力向上を図るだけではなく、理学療法士のような専門家による客観的な機能評価を適宜行い、指導していくことが介護予防に有効であることが示唆された。
  • 紙谷 司, 山田 実, 上村 一貴, 永井 宏達, 森 周平, 青山 朋樹(MD)
    セッションID: 39
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】
    転倒リスク評価に二重課題法を用いた方法論は多くの報告によりその妥当性が示されている。一般的には単一課題(Single task;以下ST)に対する二重課題(Dual task;以下DT)での運動課題の変化量が大きい程転倒リスクが高いとされるのがその方法論である。二重課題のように多様な反応を示す場合、その特性を個別の指標ではなく課題全体の変化として捉えることが重要である。二重課題遂行時には主課題、副課題の間に互いの両立を妨げる相互作用が生じる。そのためそこには戦略としての課題優先性Priorityが発生する。例えば高齢者の特性として知られているPostural first strategyに代表される様な運動課題を優先させる場合、運動課題に対し認知課題のパフォーマンスがより低下する結果が予想される。このようにPriorityの偏移は各課題のパフォーマンスを大きく左右するため、二重課題による課題全体の変化を捉えるための有効な着眼点と考えられる。しかし、これまで転倒経験者の二重課題遂行における反応は運動課題、認知課題いずれかの個別の指標を見ているものが多くPriorityの点から課題全体の変化を捉えた報告はない。本研究の目的は転倒経験者の二重課題遂行時における課題優先性Priorityを検証し、その特徴を明らかにすることである。
    【方法】
    近年では運動機能の高い高齢者の方が転倒と二重課題遂行能力の関係性がより強いことが報告されている。したがって、当研究では測定対象者(地域在住高齢者)全員にTimed Up & Go testを行い、全対象者の中央値である10.35秒以下の運動機能を有する者277名(平均77.0±7.2歳)を解析対象とした。対象者は過去1年の転倒経験の有無から転倒群、非転倒群に群分けした。単一課題(ST)では、運動課題として15mの歩行路を通常歩行速度で歩行し、中央10mの歩行速度を測定した。また、認知課題として10秒間に50から順に1ずつ引いていく減算を座位にて行い、単位時間あたりの計算数を測定した。二重課題(DT)では15mを歩行中に100から順に1ずつ減算を行い、中央10mの歩行速度と単位時間当たりの計算数を測定した。また、各測定値についてDTによる変化割合を示すDual task lag(以下DTL)を計算式(ST-DT)/STにて算出し、それぞれ運動DTL、認知DTLとした。さらに運動DTL-認知DTLの値を課題優先性の偏移PS(Priority-shift)値とした。この値が0から離れているほどいずれかの課題にPriorityが偏っていることを意味している。統計解析では運動、認知DTL、PS値についてMann-whitneyのU検定を用いて転倒群、非転倒群の二群間比較を行った(有意水準5%未満)。
    【説明と同意】
    参加者には紙面および口頭にて研究の目的および方法などに関して十分な説明を行い同意を得た。
    【結果】
    転倒群は81名(平均77.4±7.6歳)、非転倒群は196名(平均76.8±7.1歳)であり、年齢及びST条件での歩行速度、計算数に有意差は認めなかった。転倒群の運動DTLは0.18±0.26、認知DTLは0.43±0.33、PS値は‐0.25±0.37であり、非転倒群の運動DTLは0.17±0.27、認知DTLは0.31±0.40、PS値は‐0.14±0.43であった。転倒群と非転倒群で運動DTLには有意差を認めなかったが(p=0.89)、認知DTLは転倒群で有意に高値を示し、PS値は転倒群で有意に負の方向に大きかった(p<0.05)。
    【考察】
    転倒群、非転倒群でDTによる運動課題の変化量には有意差がなく同程度の変化を示した。これに対して認知課題は転倒群で有意に大きな変化を呈し、PS値においても運動課題へのPriorityの偏移を有意に認めた。これらの結果から転倒群は運動課題のパフォーマンスを維持するために運動課題へPriorityがより偏移しており、認知課題のパフォーマンスを同時に維持することが困難となっていると考えられる。同時にこれは転倒群の運動パフォーマンスを維持するための戦略とも捉えられる。日常生活上で注意を奪われる場面はいわば不可避的な状況であり、Priorityを運動課題に維持させることは困難である。転倒群ではそのような場面で運動パフォーマンスを維持できず転倒に至る可能性が考えられる。
    【理学療法研究としての意義】
    転倒予防に向けたより効果的な介入を検討する際に、転倒経験者の特徴を捉えることは非常に重要である。今回の結果は転倒経験者の二重課題遂行における特徴の一つを捉えた有用な結果と考える。Priorityを意識した課題の設定や誘導を行うことで、課題全体の反応に影響を与えることができ、二重課題法をより効果的に転倒予防への介入に応用できる可能性が示唆された。
  • 吉川 義之, 鈴木 昌幸, 松田 一浩, 高尾 篤, 福林 秀幸, 竹内 真, 加納 和佳, 梶田 博之, 杉元 雅晴
    セッションID: 40
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】 これまで立ち上がり動作とADLについての報告はなされているが,多くが一定の時間内の立ち上がり回数との関連であり,高さについての検討は散見される程度である.在宅生活を行う高齢者の立ち上がり動作は,高さが一定ではなくさまざまな高さからの立ち上がりが必要である.しかし,基本動作における立ち上がり項目に高さの設定はなく,多くはプラットホーム型ベッドや椅子からの立ち上がり動作が自立しているかのみの記載である.また,立ち上がり動作は立位になるための動作である.そのため,精一杯の力で立ち上がり動作を行っても日常生活を遂行することはできないため,予備能力が必要であると考えられる.そこで本研究では,高齢者の立ち上がり可能な高さと日常生活活動(以下,ADL)の関連性を検討することを目的とした. 【方法】 対象は当院併設の通所リハビリテーション利用者のうち支持物なしでの立位保持が可能な者とした.除外基準としては,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)が20点以下の者,股・膝関節に重度の可動域制限を有する者,重度の運動失調,高次脳機能障害を有する者とした.その結果,最終的な対象者は50名(平均年齢78.6±6.4歳,男性18名,女性32名)となった. 測定項目は,立ち上がり可能な高さの測定,Timed “Up & Go” Test(TUG),Modified - Functional Reach Test(FR),片脚立位時間,膝伸展筋力,Barthel Index(BI)の6項目とした.立ち上がり可能な高さの測定は,1cm毎に測定した.方法は,30cm台からはじめ,可能であれば高さを減らす,不可能であれば高さを増やす方法で1回立ち上がれる高さを測定した.立ち上がり動作に関しては,1回成功した高さの1cm低い高さから測定の次の利用日にも立ち上がりを行ってもらい2日間続けて可能であった高さを測定値とした. 立ち上がり動作の測定姿勢は,胸の前で上肢を組み,下肢は両足部を肩幅程度に開いた状態とした. 統計学的検討については,それぞれの検査との相関をspearmanの順位相関係数を用いて検討した.また,BIのうち排尿,排便コントロールの2項目を除いた合計80点で,満点の利用者を自立群と減点項目がある利用者を非自立群として2群に分けた.その後,検定変数に立ち上がり可能な高さおよびその他の測定項目,状態変数に自立群と非自立群を投入したReceiver Operating Characteristic(以下,ROC)曲線を用いてカットオフ値を求めた. 【説明と同意】 本研究を実施するにあたり,研究目的および方法を書面と口頭により説明し,書面による同意を得て実施した. 【結果】 BIとの相関について有意であった項目は,立ち上がり可能な高さ(ρ= -0.66),TUG(ρ= -0.55),片脚立位時間(ρ= -0.53),FR(ρ= 0.36),膝伸展筋力(ρ= 0.35)であった.ROC曲線の曲線下面積の有意な項目は,立ち上がり可能な高さ(0.87),TUG(0.80),片脚立位時間(0.82)であった.カットオフ値は,立ち上がり可能な高さが30.5cm(感度78% ,特異度81%),TUGが13.8秒(感度83% ,特異度78%),片脚立位時間が2.6秒(感度78% ,特異度83%)であった. 【考察】 高齢者の在宅生活において立ち上がりの高さは一定ではなく,トイレの高さが38~43cm,シャワーチェアーは20~40cmなどさまざまである.しかし,リハビリテーション室にあるプラットホーム型ベッドの多くは約40cm,使用している椅子は約40~45cmであり,立ち上がり動作練習もプラットホーム型ベッドや椅子を使用して行っていることが多い.在宅生活とリハビリテーション室での高さの相違は課題であると考えられる.そこで,本研究では高齢者のADLと立ち上がり可能な高さの関連性を検討した.すると,立ち上がり可能な高さとBIには有意な相関がみられ(ρ= -0.66),カットオフ値は30.5cm(感度78% ,特異度81%)であった.この結果から,30cmからの立ち上がりが可能な高齢者の多くは日常生活に必要なバランス能力や筋力を有していると考えられ,介助を必要としない高齢者が多かった.今回は横断的な研究であるため,強く言及することはできないが,理学療法を実施するにあたり30cmからの立ち上がりをひとつの基準にすることが可能であると考えられる.今後は地域在住高齢者以外の急性期や回復期の退院時ADLとの検討が必要であると考えられる. 【理学療法研究としての意義】 ADLの自立度と立ち上がり可能な高さには相関があり,本研究における自立群と非自立群を分けるカットオフ値は30.5cmであった.このことより,30cmからの立ち上がりが可能な高齢者は,日常生活を介助なしに生活できるだけの身体機能を有していると考えられ,この動作の可否がADLを自立して行えるかどうかの一つの基準となり得る可能性が示唆された.
  • 南河 大輔, 金谷 敦士, 南田 史子
    セッションID: 41
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】 脳卒中片麻痺患者において、前歩きは安定しているにも関わらず、屋内歩行に監視や介助を要することがある。屋内歩行では方向転換や横歩き、床の物拾いなど前歩きよりも難しく、転倒リスクの高い動作がある。本研究ではこれらの動作が脳卒中片麻痺患者における屋内歩行の自立を妨げていると仮定し、屋内歩行の自立に必要な動作と身体機能を検討した。 【方法】 対象は、T-字杖・下肢装具の有無に関わらず、前歩きが10m自力で可能な脳卒中片麻痺患者30名(平均年齢64.13±12.35歳、男性24名、女性6名、右片麻痺13名、左片麻痺17名)とした。なお、失調や重度の高次脳機能障害を伴う場合は除外した。歩行能力はFunctional Indepence Mesure(以下FIM)を基準に、5点以下である15名を監視群(平均年齢68.47±14.62歳、男性12名、女性3名、右片麻痺6名、左片麻痺9名)、6点と7点である15名を自立群(平均年齢59.80±7.87歳、男性12名、女性3名 右片麻痺7名、左片麻痺8名)と分類した。監視群と自立群における年齢、性別、麻痺側の左右差による有意差はなかった。評価する動作は床の物拾い、後方への振り向き、方向転換、跨ぎ、横歩き、後ろ歩きとした。また、後ろ歩き以外の動作は、運動方向別(非麻痺側と麻痺側)の項目とした。点数配分は、支持物なし自立を3点、T字杖あり自立を2点、監視を1点、不可を0点とした。身体機能評価は、下肢のBrunnstrom Recovery Stage や深部感覚検査、下肢荷重率(自然、最大)、頸・体幹・骨盤運動機能検査(以下NTP) stage_IV_-aを測定した。下肢荷重率は平衡機能計(グラビコーダGS-31P Type_II_)を用いて自然立位に加え、非麻痺側と麻痺側への最大荷重時に10秒間測定し、平均値を算出した。統計分析は、監視群と自立群の比較に関して、動作項目をMann-Whitney U-test、下肢BRS・深部感覚検査をFisher's test、NTP stage 4-aをFisher exact probability、下肢荷重率をUnpaired Student's t-testで算出した。動作項目と身体機能評価の相関は全てSpearman's correlationで算出した。 【説明と同意】 ヘルシンキ宣言を鑑み、本研究の目的や方法について説明し、同意を得た。 【結果】 非麻痺側の床の物拾い以外の動作項目において、監視群が自立群より有意に低かった(p<0.05)。特に、麻痺側の床の物拾い・後方への振り向き・方向転換、両側の跨ぎ・横歩き、後ろ歩きは有意確立1%以下だった。動作項目の平均値を低い順に並べると後ろ歩き、麻痺側の横歩き、麻痺側の跨ぎ、非麻痺側の横歩きと非麻痺側の跨ぎであった。下肢BRS、深部感覚検査は監視群と自立群で有意差はなく、動作項目との相関もなかった。NT.P stage 4-aは監視群が自立群より有意に低く(p<0.05)、麻痺側の床の物拾い、両側の跨ぎ・横歩き、後ろ歩きとの相関があった(p<0.01)。下肢荷重率は、自然では麻痺側において監視群が自立群より有意に低く(p<0.01)、非麻痺側の床の物拾い以外の項目と相関があった(p<0.05)。最大では非麻痺側において監視群と自立群で有意差はなく、動作項目との相関もなかったが、麻痺側において監視群が自立群より有意に低く(p<0.05)、麻痺側の床の物拾い・横歩き、両側の後方への振り向き・方向転換・跨ぎと相関があった(p<0.05)。 【考察】 監視群、自立群ともに前歩きは安定しているにも関わらず、非麻痺側の床の物拾い以外の項目で監視群が自立群より有意に低かった。そのため、監視群が屋内歩行を自立するには、麻痺側の床の物拾い、両側の後方への振り向き・方向転換・跨ぎ・横歩き、後ろ歩きの安定性向上が必要と考える。特に、後ろ歩き、両側の横歩き・跨ぎは監視群にとって難易度や転倒リスクの高い動作であり、また、屋内歩行の自立度を判別するスクリーニングテストとして有用と考える。下肢BRS・深部感覚検査・非麻痺側下肢への最大荷重率は監視群と自立群で有意差がなく、動作項目との相関もないことから、運動・感覚麻痺の程度や非麻痺側下肢への最大荷重量は屋内歩行自立への影響が低いと考えられる。しかし、NTP stage 4-aや麻痺側への自然・最大荷重率は監視群が有意に低く、動作項目との相関が多かったことから、体幹機能や麻痺側下肢への自然・最大荷重量が屋内歩行の自立に必要な身体機能であることが示唆された。 【理学療法研究としての意義】 脳卒中片麻痺患者の屋内歩行自立に必要な動作は、麻痺側の床の物拾い、両側の後方への振り向き・方向転換・跨ぎ・横歩き、後ろ歩きであり、身体機能は体幹機能や麻痺側下肢への自然・最大荷重量であることが示唆された。
  • ー FIMと在宅介護スコアの比較 ー
    岡村 太嗣, 池田 耕二, 梅木 速水
    セッションID: 42
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【緒言】
     高齢患者の在宅復帰には,移動能力やトイレ動作の自立,早期介入,家族を含めたチームアプローチ等が重要といわれている。そのなかでもとくにトイレ動作の自立は在宅復帰に重要とされている。しかし,臨床ではトイレ動作が自立できていなくても,時代背景をふまえた環境や地域の特性などの要因(構造)が反映し、患者の在宅復帰を可能にするときがある。そのため各現場の理学療法士は在宅復帰を促す要因(構造)を絶えず検討しなければならないといえる。そこで,今回,あえて当院でトイレ動作が自立できていない患者を対象に在宅復帰を促す要因(構造)を検討することにした。
     本研究の目的は,トイレ動作が自立できていない「在宅復帰困難患者」と「在宅患者」の機能的自立度評価表(Functional Independence Measure:以下,FIMとする)と在宅介護スコアを比較し,そこから在宅復帰を促す要因(構造)を検討することである。

    【対象と方法】
     対象者は,FIMのトイレ動作が5点以下(トイレ動作が自立できていない)の回復期病棟の在宅復帰困難患者(以下,施設群とする)22名と,訪問リハビリを利用し在宅で生活をしている在宅患者(以下,在宅群とする)26名とした。
     これら対象者の属性やFIM、在宅介護スコアを調査・評価し,それぞれの項目を比較検討した。在宅介護スコアは,介護負担9項目と介護力7項目からなり、0~21点の合計点で評価される。そして通常11点以上であれば在宅介護の可能性が高いと判定される。
     統計学的検定には必要に応じてt検定,マン・ホイットニーのU検定,X²乗検定を用い,有意水準は5%未満とした。

    【説明と同意】
     本研究では,研究の主旨を患者に口頭にて説明し同意を得た。

    【結果】
     本研究の結果,対象者の属性は,施設群は男性6名,女性16名,平均年齢84.6±9.9歳,在宅群は男性11名,女性15名,平均年齢75.1±11.6歳であった。施設群と在宅群の平均年齢では,在宅群が有意に低くかった(P<0.01)。
     FIMでは,運動項目合計の平均値は施設群35.1±17.0,在宅群36.0±18.7と有意差は認められなかったものの,認知項目合計の平均値では施設群18.7±7.6,在宅群25.7±8.6と在宅群が有意に高かった(P<0.01)。 在宅介護スコアの平均値では,施設群8.9±1.8,在宅群13.3±2.8と在宅群が有意に高く(P<0.01),介護力の合計平均値も施設群4.5±2.1,在宅群7.8±2.0,と在宅群が高かった(P<0.01)。さらに介護力の各項目をみてみると,「介護者の専任」,「公的年金以外の収入」,「介護者の介護意欲」の3つの項目で在宅復帰との間に関連性が認められ,在宅群の方が有意に多かった(P<0.01)。

    【考察】
     本研究の結果からは,在宅群は施設群に比べ年齢が低く,認知機能,在宅介護能力が高いことが示唆された。つまり,これはトイレ動作が自立できていなくても,あるいは運動能力が低くても,認知機能や介護力が高ければ在宅復帰が可能になるということを意味していると考えられた。さらに在宅群の年齢が低いこと,認知機能が高いこと,介護力が高いことの間には,相関関係があると推察できることから,これら3つの要因は、お互いに関係し合いながら在宅復帰を促す構造を形成しているものと考えられる。そして,その構造が運動能力よりも認知機能や介護力に依存しているのは,3世帯の同居率が比較的高く、高齢者の独居率が低い滋賀県の現状や地域性を反映しているためと思われよう。
     以上のことから,滋賀県においてトイレ動作が自立できていない高齢患者に対して在宅復帰を促すには,運動能力を高めるというアプローチだけではなく,認知機能を高める理学療法や工夫,介護力を高める家族教育や介護制度の活用など,認知機能や介護力を視野にいれたアプローチが重要になってくると考えられた。今後は,症例ごとにアプローチを具体化し,その効果を検証していくことが課題になってくると考えられる。

    【理学療法研究としての意義】
     本研究では、滋賀県におけるトイレ動作が自立できていない高齢患者の在宅復帰を促す要因(構造)の一端を明らかにした。本研究は在宅復帰が困難とされる高齢患者が多くなる現状で、在宅復帰を促す要因(構造)の一端を明らかにしたという意味で意義あるものと考えられる。
  • 今井 陽一, 池添 冬芽, 島 浩人
    セッションID: 43
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】  トイレ内での方向転換など家屋中で方向転換を行う場合、狭い限られた空間で回転動作を行うことが求められ、施設入所高齢者においては、このような方向転換動作で転倒することが多くみられる。施設入所高齢者の転倒と移動動作との関連については直線歩行やTimed Up & Go test(以下:TUG)を調べた報告はよくみられるが、立位での方向転換動作との関連について調べた研究は少ない。そこで本研究では、立位回転動作を含めて移動動作能力を評価し、施設入所高齢者の転倒と移動動作能力との関連について明らかにすることを目的とした。 【方法】  対象は養護老人ホームに入所している高齢者25名(男性3名、女性22名、平均年齢84.0±6.9歳)とした。測定に大きな影響を及ぼすほど重度の神経学的・筋骨格系障害や認知障害を有する者は対象から除外した。 移動動作能力の評価として、5m歩行、TUG、立ち座り時間、円周上歩行、立位回転を評価した。5m歩行は5mの歩行路をできるだけ速く歩いたときの所要時間および歩数を測定した。TUG は椅子から立ち上がって3m歩いて方向転換して戻り、再び椅子に座るまでの動作をできるだけ速く行わせたときの所要時間を計測した。立ち座り時間は椅子からの立ち座り動作を5回できるだけ速く行わせたときの所要時間を測定した。円周上歩行は直径1mの円周の周囲を1周できるだけ速く歩いたときの所要時間および歩数を計測した。立位回転は開脚立位を開始肢位とし、できるだけ速くその場で360度回転動作を行わせたときの所要時間、歩数、変位距離および変位角度を測定した。なお、変位距離として両脚足部内側中央を結んだ線の中点の開始位置と終了位置の距離、変位角度として開始姿勢と終了姿勢における両脚足部内側中央を結んだ線がなす角度を測定した。また、円周上歩行および立位回転は右周りと左周りそれぞれ1回ずつ施行し、その左右平均値をデータとして用いた。  対象者を過去1年間の転倒経験の有無によって転倒群および非転倒群に分類し、2群における5m歩行時間および歩数、TUG、立ち座り時間、円周上歩行時間および歩数、立位回転の時間、歩数、変位距離、変位角度を対応のないt検定により比較した。 【説明と同意】  すべての対象者に本研究の目的を説明し、同意を得た。 【結果】  非転倒群は13名、転倒群は12名であり、2群間の年齢、身長、体重に有意差は認められなかった。  各項目の平均は非転倒群、転倒群でそれぞれ5m歩行時間が5.2±2.2秒、5.7±2.5秒、5m歩行歩数が11.2±4.1歩、11.4±2.8歩、TUGが10.8±4.5秒、11.0±3.7秒、立ち座り時間が10.4±2.8秒、11.0±4.9秒、円周上歩行時間が6.9±3.4秒、7.6±3.5秒、円周上歩行歩数が14.5±6.3歩、15.7±5.6歩、立位回転時間が4.3±2.2秒、3.2±1.1秒、立位回転歩数が10.2±3.7歩、8.3±3.6歩、立位回転変位距離が8.2±6.3cm、16.9±13.5cm、立位回転変位角度が8.8±5.1°、14.4±13.5°であった。 非転倒群および転倒群における各項目を比較すると、立位回転の変位距離においてのみ有意差を認め、非転倒群と比較して転倒群においては有意に変位距離が大きかった(p<0.05)。5m歩行時間および歩数、TUG、立ち座り時間、円周上歩行時間および歩数、立位回転の時間、歩数、変位角度では2群間に有意差を認めなかった。  【考察】  本研究の結果、転倒群では立位回転動作前後での位置のずれが大きいことが示された。このことから転倒群においては立位姿勢制御能力の低下により限られたスペースで回転動作を行うことが困難であることや、立位回転動作を行う際に徐々にバランスを崩し、大きく開始位置から離れてしまうことが推測された。一方、5m歩行やTUGあるいは円周上歩行には非転倒群と転倒群との間に有意差が認められなかったことから、直線歩行や比較的広いスペースでの方向転換動作よりも、その場での回転動作能力が転倒と関連していることが示唆された。さらに、立位回転動作における所要時間には有意差がみられなかったことから、回転動作を速く行えるかどうかよりも、回転時の中心変位距離すなわち、より限られたスペースで回転できるかどうかが転倒と関連していることが示唆された。 【理学療法学研究としての意義】  立位回転動作における変位距離の評価は、施設入所高齢者の転倒予測のためのスクリーニングとして有効であることが示唆された。また施設入所高齢者の転倒を予防するためにも、このような立位回転動作に着目してアプローチすることが重要であると考えられた。
  • 田中 直樹, 岡山 裕美, 熊崎 大輔, 大工谷 新一, 前田 智香子
    セッションID: 44
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】  筋疲労の回復手段においては,軽運動が効果的だという報告は多くある.しかし,軽運動による筋疲労回復効果の違いについて比較されている報告は少ない.臨床上,運動療法後の疲労を最小限にするために筋疲労の回復に対して最も効果的な軽運動の運動強度を知ることは,その後の治療を円滑に進めていく上で役立つと考える.そこで本研究では軽運動の運動強度を変えることで筋疲労の回復効果にどのような違いが出るか比較検討した. 【方法】  対象は健常成人男性28名(年齢21.25±0.59歳)とし,軽運動の運動強度による筋疲労の回復効果を比較するため,対象者を安静群(7名)と運動群(21名)に分類した.筋疲労後の回復手段として,安静群はベッド上臥位にて安静にさせ,一方,運動群は3群に分け,自転車エルゴメーター(OG技研社製EC-1600)を用いて、各群に30W,60W,90Wで6分間の運動負荷(以下、軽運動)を与えた.
     まず,自転車エルゴメータを用いて全対象者に5分間のウォーミングアップをさせた.その後に,サイベックスNORM(ヘンリージャパン社)を用いて各対象者の疲労前の膝関節伸展等尺性収縮時のピークトルク値を計測した.この際,膝関節屈曲角度は60度とし,5秒間の最大収縮と3秒間の休憩を1セットとし,これを3セット行い,最大値を各対象者のピークトルク値とした.その後,筋疲労誘発運動を行った.筋疲労誘発運動として,膝関節屈曲60度で5秒間の等尺性最大収縮と5秒間の休息を繰り返す運動を行わせた.この運動は膝関節伸展のピークトルク値の70%以下が3回連続するまで行わせ,これを本研究の筋疲労発生の目安とした.筋疲労誘発運動後,各群に回復手段をとらせ,筋疲労誘発運動前と同様の方法でピークトルク値を計測し,疲労前のピークトルク値を100%として軽運動後のピークトルク値の回復率を算出した.
     統計学的検討として,各群の回復率に対して一元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を行った.なお,有意水準は5%未満とした(Statcel97使用). 【説明と同意】  対象には本研究の目的を十分に説明し同意を得た. 【結果】  安静群の回復率は84.00±6.30%,30W群の回復率は95.00±3.06%,60W群の回復率は91.29±5.44%,90W群の回復率は84.00±10.65%であった.安静群と30W群間では30W群の方が回復率は有意に高値を示した(p<0.05).また,30W群と90W群間では30W群の方が有意に高値を示した(p<0.05). 【考察】  本研究では対象者に筋疲労誘発運動を行わせた.各対象者によって本研究で規定した筋疲労を認めるまでの実施回数に差はあったが,全対象者で筋疲労の発生を確認できた.Sahlinによると,短時間の最大努力での筋収縮維持,特に等尺性収縮の場合,中枢性因子より末梢性因子が筋疲労の主要因となると報告されている.本研究の筋収縮形態は等尺性最大随意収縮であるので,筋疲労の中でも特に末梢性因子が多く関与していると考えられる.
     本研究では安静群,90W群よりも30W群で有意に疲労回復効果が認められた.八田は軽運動を実施することで安静よりも乳酸の除去効果が高く,筋疲労回復に効果的であると報告しており,本研究では30Wは安静群に比べ,回復率は高値を示した.また,山本らは84Wから99Wのような運動強度が高い軽運動では乳酸の回復には有意な効果を示したが,作業能力の改善は望めないと報告しており,本研究でも30W群と比べて90W群の回復率は低値を示した.本研究では等尺性筋力を指標として疲労回復に着目した結果,乳酸や作業能力を指標とした先行研究と同様の結果が得られた.つまり、安静群に比べ30W群では筋疲労回復に効果があり,90W群は軽運動の運動強度としては高すぎるため,疲労回復効果がみられなかったと考える.
     本研究で60W群は30W群や90W群間と有意な差はなかったため,60Wが疲労回復に対して効果的であるか否かを述べることはできない.しかし,30Wが疲労回復に対して効果的であり,90Wでは運動強度が高すぎることは明らかとなったため,今後30Wから60Wの間で疲労回復を目的とする軽運動として最も効果的な負荷量を運動強度の設定を増やし検討していく必要があると考える. 【理学療法研究としての意義】  疲労回復を目的とした軽運動には方法,負荷量など様々なものがあるが,今回の実験結果は適切な負荷量を決めるにあたって有用な指標となる.
  • 肥田 光正, 西村 精展, 吉良 貞昭 (MD), 吉良 貞伸 (MD), 庄本 康治
    セッションID: 45
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】イオントフォレーシス (Iontophoresis:以下, IP) とは, 低電圧の直流電流を用いて経皮吸収型製剤の局所への浸透性を向上させることができる薬剤輸送システムの一つである. イオントフォレーシスは, 種々の有痛性疾患に対して, 主にステロイド剤を用いた鎮痛効果を検証している先行研究が認められる. しかし近年, 経皮吸収性の優れた非ステロイド性抗炎症剤 (Non-steroidal Anti-inflammatory Drugs:以下, NSAIDs) が開発されており, その有用性が多数報告されている. 今回, 右腱板不全断裂にて保存療法中の一症例に対して, 鎮痛を目的としてNSAIDsを用いたイオントフォレーシスを実施したので報告する.
    【方法】症例は76歳の女性である. 転倒時, 右肩を強打し, 整形外科を受診し右腱板不全断裂と診断された. 保存療法が選択され, 三角巾着用による患肢安静, 鎮痛目的とした経口の薬物療法を受けていたが, 夜間・安静時, また運動時の強度の疼痛が持続しており, 患肢の挙上は困難であった. その後, 経口の薬剤服用が原因と思われる副作用が生じたため, 経口の薬物療法は中止され坐剤に変更となり, 運動療法・温熱療法が追加して開始された. 夜間・安静時, また運動時の疼痛はやや改善傾向を認めたが, さらなる改善を目的として, 主治医よりNSAIDsを用いたイオントフォレーシスが指示された. 理学療法士による初期評価では, Visual Analogue Scale (以下, VAS) を用いた右肩関節の疼痛は, 夜間時42mm, 安静時32mm, 運動時68mmで, 肩峰下滑液包部に圧痛を認めた. 自動関節可動域 (Active Range of Motion:以下, AROM) は, 右肩関節外転120度で, 他動関節可動域 (Passive Range of Motion:以下, PROM) は, 右肩関節外転120度, 外旋35度であった. ハンドヘルドダイナモミータ (アニマ社製, μ-tus F1) を用いた等尺性右肩外転筋力測定は2.6kgfであった.
    本症例に対するIPは, 使用機器はIntelect MobilStim (Chattanooga社製) , 電極はOptimA Disposable Electrodes (Chattanooga社製) , 薬剤にNSAIDsに分類されるジクロフェナクナトリウム (ボルタレンローション1%) を使用して実施した. 本薬剤は, IP適用に伴い経皮吸収性が向上する可能性があることが報告されている. IPの実施方法は, 陰極を輸送電極に設定し本薬剤を塗布し肩峰下滑液包に該当する皮膚上に, 分散電極である陽極は, 上腕遠位部の上腕二頭筋筋腹に設置した. 尚, 電極設置前には, 電極設置部位の皮膚を十分に清拭し乾燥した. IPの治療パラメータは, 電流強度は本症例の電気刺激への耐容性を考慮し2.0mAに, 治療時間は25分で総投与量は50mA-min, 治療期間は2週間で合計6回実施した. IP介入期間中の薬剤投与や運動療法, 温熱療法の内容は一定に保ち, ADLは一定の活動量を維持するよう指導した.
    【説明と同意】本研究の説明は医師と理学療法士が行った. IPの方法や予測される効果,副作用などを記載した文書を作成しインフォームドコンセントを行った. 本研究に自由意志で参加することを確認後に治療を開始した.
    【結果】治療終了時の本症例の疼痛は, VASで測定した疼痛が, 夜間時33mmに, 運動時32mmに変化した. 安静時痛に変化は認められなかった. AROMは肩関節外転145度に, PROMは肩関節外転150度, 外旋50度へ増加した. 等尺性肩外転筋力は6.4kgfに増加した. IPに伴う副作用は認められなかった.
    【考察】本症例は, 薬物療法や運動療法, また温熱療法が実施中であったが, これらにIPを付加した期間中に, 疼痛の軽減, ROMや筋力の改善が認められた. これは, IP適用に伴いNSAIDsの経皮吸収性が増加した結果, 腱板不全断裂後に生じた肩関節内の炎症が改善したことが推察された. 今後はIPの効果を客観的に実証できるよう, シングルケースデザインなどの手法を用いた症例研究が必要である.
    【理学療法研究としての意義】IPは物理療法と薬物療法を組み合わせた治療で, 医師との協力の下, 今後ますます発展する分野であろう. 本報告は, 今後のIPの利用可能性を示唆したため, 有用である.
  • -市民フェスティバルにおける理学療法に関するアンケート調査2011-
    熊崎 大輔, 岩見 大輔, 三原 修, 守安 久尚
    セッションID: 46
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】
     我々は第50回近畿理学療法学術大会において、市民フェスティバルで一般市民を対象に実施した理学療法に関するアンケート調査について報告した。今年度も同様にアンケート調査を実施したので、昨年度の調査結果と比較し、その変化について検討することを目的とした。
    【方法】
     調査対象は、大阪府理学療法士会泉州ブロックにあるK市が主催する市民フェスティバルの参加者とした。調査は留置法により、質問紙を市民フェスティバル開催日に、会場内にて参加者に配布し、その場で回収した。有効回答数は631(男性300名、女性331名)で、回答者の平均年齢は39.9±21.9歳であった。
     調査内容は、デモグラフィクス(性別、年齢、住まい、職業)、リハビリテーション、理学療法、理学療法士各々の認知度、本人、家族の理学療法経験の有無とした。認知度はそれぞれの項目に対して、知っているか、知らないか、理学療法の経験の有無では、経験があるか、経験がないかの二者択一での回答とした。また認知度と理学療法の経験の有無に関しては、昨年度と今年度を比較するため数量化を行った。具体的には、二段階評定を採用し、知っているおよび経験がある、知らないおよび経験がない、それぞれに2、1の得点を与え、間隔尺度を構成するものと仮定した。
     データの分析はSPSSVer16を用い、昨年度と今年度の各項目の比較はt検定によって比較した。なお、有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】
     対象には研究の趣旨を説明し、同意を得た。
    【結果】
     2011年度の調査における認知度について、リハビリテーションでは、知っている75.3%、知らない24.6%であった。理学療法では、知っている46.6%、知らない53.4%であった。理学療法士では、知っている46.4%、知らない53.6%であった。理学療法の経験については、本人の経験で、ある18.1%、ない81.9%であり、家族の経験では、ある26.5%、ない73.5%であった。
     昨年度との比較において、認知度では2010年度、2011年度の順に、リハビリテーションが1.77±0.42、1.78±0.84、理学療法は1.52±0.64、1.47±0.49、理学療法士では1.49±0.50、1.47±0.49であり、すべての項目で有意な差は認められなかった。理学療法の経験では、本人の経験が1.18±0.39、1.18±0.39、家族の経験は1.31±0.46、1.26±0.44であり、すべての項目で有意な差は認められなかった。
    【考察】
     今回の調査結果から、認知度に関してリハビリテーションは約8割の方が認知しているが、理学療法や理学療法士については約5割の認知であることが明らかになった。言い換えれば、リハビリテーションという用語は認知しているが、理学療法という具体的な内容や、それを担う職種についてはまだ認知が低いということになる。また昨年度との比較において、すべての項目に有意な差が認められなかったことから、1年間で認知度に変化はなかったことが分かった。
     大阪府理学療法士会泉州ブロックでは理学療法の認知度を向上させるため、様々な活動に取り組んでいる。直接、一般市民の方々と関わりがある活動としては、市民フェスティバルへの参加、介護技術講習会や市民公開講座の開催などが挙げられる。このような活動に関しても、今後それらの活動を通して、より一般市民の方々に理学療法を認知していただける方法や内容を検討し、具体的・継続的に進めていく必要があると考えられた。
     理学療法の経験については、本人が理学療法を受けたことがある方が約2割、家族が受けたことのある方が約3割という結果となり、昨年度との比較においても、有意な差は認められなかった。理学療法の経験については、一般市民の方々が疾患を持ち、理学療法を提供することで向上するものであり、数値が向上すればよいものではない。しかし、医療・介護を問わず、さらに理学療法を提供できる施設が充実し、一般市民が理学療法を必要した際に十分提供できる環境を作っていくことも、我々の地域社会対する役割といえるのではないだろうか。
     今回の調査から、今後も理学療法、理学療法士の認知度を向上させるために、一般市民の認知度や経験を経時的に調査・把握し、具体的な活動を行っていくことが重要であると考えられた。
    【理学療法研究としての意義】
     理学療法士が社会的な身分や職域を確保していくためにも、一般市民の理学療法に対する認知度を調査・把握することには意義がある。一般市民の理学療法に対する認知度を向上させるために、どんな活動を、どんな対象に実施していくべきなのかを明らかにするためにも、認知度調査は理学療法学研究として価値があると考えられる。
  • 池谷 雅江, 木村 智子, 川崎 浩子, 分木 ひとみ, 砂川 勇
    セッションID: 47
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】  ここ数年の文部科学省白書の中で、読書習慣を身につけることは国語力を向上させるといった文言が見られ、優れた文章を読むことがよい文章の作成につながることが示されている。しかし実習先で、「口頭では説明できるが文章で表現できない」という点を指摘される学生が少なからず見られる。そのため文章作成に関する学内指導に役立てることを目的に、入学直後の学生に幼少期からの読書経験についてアンケートを実施し、その結果と、課題レポートの文章力に着目した評価との関連性を検討した。   【方法】  本校理学療法学科の1年生40名(男性24名、女性16名、平均年齢24.0±7.3歳)を対象に、4月に自記式のアンケート調査を行った。アンケートの内容は、基本情報として年齢、性別、社会人経験の有無を記入してもらい、読書経験(教科書除く)について幼少期と中学・高校生期とに分けて質問した。選択肢は、1.全く読まなかった 2.ほとんど読まなかった 3.少し読んでいた 4.かなり読んでいた、とした。このうち、1、2と回答した者を読書経験が少ない群(幼少期:A群、中学・高校生期:C群)、3、4と回答した者を読書経験が多い群(幼少期:B群、中学・高校生期:D群)とした。また40名のうち社会人経験のある者をE群、ない者をF群、平均年齢以上をG群、平均年齢以下をH群と分類した。  課題レポートは6月に提出されたもので、それまでに学内で文章指導は行われていない。評価については、教員1名が「文章の体裁」、「文章の構成」、「文章表現」、「論旨」の4項目について100点からの減点方式で評価した。分析は、対応のないt検定を用いてA・B群、C・D群、E・F群、G・H群それぞれの間の点数を比較し、危険率5%をもって有意とした。 【説明と同意】  アンケート実施前に研究の趣旨を説明し、同意を得た。 【結果】  アンケートの回収率は100%であった。A・B群間比較では、有意にB群の方が高かった(p<0.05)。中学・高校生期では有意差が認められなかった。なお、E・F群、G・H群の群間比較でも、いずれも有意差が認められなかった。 A・B群におけるレポートの主な減点項目とその人数割合は、次の通りであった。体裁に関しては、口語を使用していた人数はA群71.4%,B群68.4%で共に多かったが、誤字・脱字は全体的に少なく、A群23.8%、B群10.5%であった。文章構成では、適度なボリュームのない者がA群47.6%、B群26.3%、文章表現では、不適切な表現がA群21.0%、B群5.2%、論旨に関しては、一貫性のない者がA群28.5%、B群5.2%と、いずれの項目においてもA群に減点者が多かった。 【考察】  レポートの採点内容で誤字・脱字における減点が少なかったのは、ほとんどの学生がパソコンを使用していたためと考える。しかし、これ以外の項目についてはパソコンに依存することができない。そのため特にA群では、レポートとして適度なボリュームがない、不適切な表現(例:使用する言葉が幼い)、論旨が不明確であるといった点が目立ち、これらの背景には幼少期からの読書経験の少なさがあるのではと推測した。  今回採点した課題レポートは、入学後に文章作成について指導をしていない状態での提出であり、学生の今までの文章能力を表しているものと考えた。中学・高校生期の読書経験による群分けを行うと、全体的に読書量そのものが減っていたが、点数に有意差は認められなかった。また年齢や社会人経験の有無で群間比較を行っても、有意差が認められなかった。これは、本研究は1年生を対象としており、ある程度の年齢で社会人経験があったとしても、形式に則ったレポートを書くことは初めてであったためと考えた。したがって今回の結果は、幼少期の読書経験がレポートの点数に影響を及ぼしたものと考えた。福田によると、3年生を対象とした文章能力に関する調査では、年齢と文章、論旨に相関があり、現役群と比較すると社会人群に文章能力に関する変数が有意に高値を示していた。本校でも今後、レポート提出の経験を踏むにつれ、年齢や経験による差が生じる可能性がある。また文章能力が臨床実習にも反映していると述べられているため、早期から様々な文献を読む経験を積ませると共に、文章作成に関する指導を行い、年齢や経験による差が生じることのないようにする必要がある。具体的な指導方法に関しては検討課題であるが、学内教育によって幼少期の読書経験の差を埋めることが可能であるか、今後、縦断調査をしていきたい。   【理学療法研究としての意義】  この研究を通じて、学生が実習で文章作成に悩むことのないよう、学内での教育方法を検討する一助としたい。また臨床においても、患者様や他の職種へ正確に物事を伝達できるような文章を書くことの重要性を見直す機会になると考える。
  • 芳野 広和, 鈴木 裕二, 守川 恵助, 田平 一行, 大上 隆彦
    セッションID: 48
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】  慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、抗コリン剤が有効なことなどから副交感神経と気道狭窄が密接な関係があると考えられている。COPD患者における心拍変動解析を用いた自律神経の評価では、安静時の副交感神経活動は亢進し、立位などの負荷に対する自律神経系の反応性は低下していると報告している。しかし、報告は少なく検討は十分でない。そこで、本研究はCOPD患者の自律神経機能の特徴を調査する事を目的とした。 【方法】  対象者は呼吸リハビリテーションの適応であると判断されたCOPD患者4名(COPD群:男性3名、女性1名、年齢73.2±4.5歳)と呼吸・循環器の既往のない健常高齢者4名(健常群:男性3名、女性1名、年齢71.8±2.7歳)とした。測定プロトコールは、斜面台(UA-501,オージー技研社)上で安静背臥位(安静時)を10分間とらせた後、斜面台の角度を70度に上昇し、10分間測定した。この間、APGハートレーター(SA-3000P ,東京医研社製)を用いて、左指にPPGプローブ装着し心拍変動を計測し、電子血圧計(H55w,テルモ社製)を用い、右上腕で血圧を測定した。評価項目は、心電図のRR間隔の標準偏差(以下SDNN)とパワースペクトル解析による低周波数成分(LF:0.04-0.15Hz)、高周波数成分(HF:0.15-0.40Hz)、LF/HFおよび血圧(収縮期、拡張期)とした。また、立位負荷時における各測定値は、安静時を基準とした比率を用いた。いずれの各姿勢において最後の5分間を解析に用いた。なお、測定に際し、朝食後、2時間以上の間隔をとる事、及び12時間前より薬物、カフェイン、喫煙を禁止した。室内温度は20~25℃とした。統計解析は、COPD群と健常群の年齢、血圧、心拍変動指標の比較はMann-WhitneyのU検定で分析した。p<0.05の場合を統計学的に有意とした。 【説明と同意】  本研究は市立枚方市民病院研究倫理委員会の承認を得て実施し、対象者には口頭および書面で十分な説明を行い、同意を得た。 【結果】  安静時の2群の比較(COPD群vs健常群)は、心拍変動指標においてSDNN(23.3±6.8ms vs 26.4±4.2ms)、HF(41.4±26.9 ms2 vs 64.3±12.4ms2)、LF/HF(1.50±0.46 vs 1.65±0.55)では有意差はなかったが、LF(62.5±53.4ms2 vs 102.5±29.5ms2)は健常群に比べて有意な低値を示した。血圧は収縮期(134.5±6.52mmHg vs 125.5±6.85mmHg)、拡張期(78.5 ±5.8mmHg vs 74.8±13.1mmHg)でともに有意差は認めなかった。 立位負荷時の比較は、HF(0.95±0.3 vs 0.85±0.3)では有意差は認めなかったが、LF(0.72±0.58 vs 2.15±0.42、p<0.01)、LF/HF(0.85±0.45 vs 2.08±0.43、p<0.01)は健常群に比べて有意に低値を示した。血圧は、収縮期(0.96±0.02 vs 1.00±0.02)、拡張期(1.07±0.05 vs 1.06±0.07)でともに有意差は認めなかった。 【考察】  COPD群の安静時のSDNN、HF、LF/HF、立位負荷時のHFは健常群と有意差はなかったが、安静時のLF、立位負荷時のLF/HFは有意に低値であった。COPD群において立位負荷時のLFが増加しない事についてはCOPD患者において交感神経反応の低下や、立位後の収縮期血圧が低下傾向にあった事から、圧受容器反射機能の感度の低下が考えられる。健常群とともに立位負荷時のHF成分の振幅の減少は静脈還流量の減少に対応した心臓副交感神経活動の抑制効果と考えられる。今回の結果から、COPD患者の自律神経機能において、副交感神経活動の亢進は確認できなかったが、立位負荷時の交感神経反応の低下、圧受容器の感度の低下の可能性が示唆された。 【理学療法研究としての意義】  COPD患者において自律神経反応の低下が示唆され、起立性低血圧などに留意しながら理学療法を行っていく必要があると考えられる。しかし、症例が少ないため今後も検討していく必要がある。また、これらの自律神経機能と呼吸困難感、運動耐容能などとの関連や呼吸リハビリテーション前後の変化についても検討していきたい。
  • 文野 住文, 鈴木 俊明
    セッションID: 49
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】 運動イメージは、随意運動が困難な患者に対して身体的負荷を増加することなく、中枢レベルでの運動を反復できる有効な治療手段の一つとして考えられ、身体活動の制限がある時や運動が禁忌な場合においても、運動イメージにより運動機能の改善を図ることができると考えられている。我々は、健常者を対象にピンチメータを把持しながら母指対立筋の最大努力の50%強度における等尺性収縮を学習させ、次に、センサーを軽く把持しながら50%収縮をイメージすると脊髄神経機能の興奮性が増大すると報告した。 本研究では、イメージする収縮強度の違いによる脊髄神経機能の興奮性変化を検討した。 【方法】 対象は、健常者25名(男性13名、女性12名)、平均年齢24.7歳とした。方法は以下のように行った。まず、被験者を背臥位とし、左側正中神経刺激によるF波を左母指球筋より導出した(安静試行)。この時、上下肢は解剖学的基本肢位で左右対称とし、開眼でピンチメータのピンチ力表示部を注視させた。F波刺激条件は、刺激頻度0.5Hz、刺激持続時間0.2ms、刺激強度はM波最大上刺激、刺激回数は30回とした。次に左側母指と示指による対立運動でピンチメータのセンサーを1分間持続して把持できる最大のピンチ力を測定し、その10%のピンチ力で対立運動を練習させた。その後、ピンチメータのセンサーを軽く把持しながら10%収縮イメージした状態(10%運動イメージ試行)で左母指球筋よりF波を測定した。この時安静試行同様に開眼でピンチ力表示部を注視させ、験者はピンチ力が発揮されていないことを確認した。さらに運動イメージ試行直後、5分後、10分後、15分後においても同様にF波を測定した。またイメージによる疲労を考慮し、50%収縮での運動イメージ課題(50%運動イメージ試行)におけるF波測定を違う日に行った。F波分析項目は、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とした。 本研究における検討は、第1に10%、50%個々の条件においての運動イメージの効果について行った。第2に運動イメージ試行、運動イメージ直後、5分後、10分後、15分後それぞれのF波出現頻度、振幅F/M比について安静試行を1とした相対値を求め、10%と50%条件の運動イメージ試行同士というように10%、50%条件の対応する2つの試行間の比較を行った。 【説明と同意】 被検者に本研究の意義、目的を十分に説明し、同意を得た上で実施した。 【結果】 10%、50%個々の条件においての運動イメージの効果検討では、F波出現頻度は、10%運動イメージ試行、50%運動イメージ試行共に安静試行と比較して有意な増加を認めた(Turkey;p<0.05)。振幅F/M比は、10%運動イメージ試行、50%運動イメージ試行共に安静試行と比較して有意な増加を認めた(10%運動イメージ試行 Turkey;p<0.05、50%運動イメージ試行 Turkey;p<0.01)。また運動イメージ直後、F波出現頻度、振幅F/M比は、10%・50%条件共に安静試行とほぼ同じレベルに戻り、そのレベルは5分後、10分後、15分後においても安静試行と比較して有意差を認めなかった。立ち上がり潜時は各試行での差異は認めなかった。 10%収縮運動イメージと50%収縮運動イメージの効果検討では、安静試行に対する50%運動イメージ試行の振幅F/M比相対値が、10%条件と比較して有意に大きかった(paired t-test;p<0.05)。運動イメージ後の試行間では有意差は認めなかった。 【考察】 F波出現頻度、振幅F/M比は、脊髄神経機能の興奮性を表す指標とされている。10%・50%条件共に運動イメージ試行におけるF波出現頻度と振幅F/M比が、安静試行と比較して有意に増加した。これは母指と示指の対立運動の運動イメージにより、大脳皮質から脊髄への下行性線維の影響で母指球筋に対応する脊髄神経機能の興奮性が増加することを示唆している。10%・50%条件共に運動イメージ直後のF波出現頻度、振幅F/M比は、安静試行とほぼ同じレベルに戻り、5分後、10分後、15分後においても安静試行と比較して大きな差異は認めなかった。これより、運動イメージによる脊髄神経機能の興奮性増大の効果は、運動イメージ中のみであることが示唆された。 10%収縮運動イメージと50%収縮運動イメージの効果検討では、安静試行に対する50%運動イメージ試行の振幅F/M比相対値が、10%条件と比較して有意に大きかった。これよりイメージする収縮強度が強いほど、脊髄神経機能の興奮性が増大することが示唆された。 【理学療法研究としての意義】 本研究より、運動イメージは脊髄神経機能の興奮性を増大させ、更にイメージする収縮強度が強いほどその効果は大きいことが示唆された。臨床上、ただ動作を行うのではなく、目的とする動作をイメージしながら行うことが重要であることがわかった。運動イメージ後は影響がみられないことから、今後より最適な収縮イメージ強度を検討していく必要がある。
  • 山下 梓, 高森 絵斗, 前田 梨奈, 小川 那留美, 上野 亜利沙, 喜田 伶雄人, 掘 大樹, 文野 佳文, 鈴木 俊明
    セッションID: 50
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/12
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    【目的】経穴刺激理学療法は、鍼灸医学における循経取穴の理論を理学療法に応用して、鈴木らが開発した新しい理学療法の手法である。循経取穴は、症状のある部位や罹患筋上を走行する経絡を同定して、その経絡上に存在する経穴を鍼灸治療部位とする理論である。経穴刺激理学療法は、動作分析から筋緊張異常が問題であると判断した場合に用いる。具体的には、治療者の指で経穴に圧刺激を加えることによって、治療目標とする筋の緊張を変化させる。圧刺激を加える際、筋緊張抑制には垂直方向、筋緊張促通には治療目標とする筋に対して斜め方向に経穴を圧迫する。本研究では、手太陰肺経の尺沢穴への筋緊張促通目的での経穴刺激理学療法実施前後の手太陰肺経を通る母指球筋に対する脊髄神経機能の興奮性の変化をF波で検討した。
    【方法】対象は、健常者17名(男性11名、女性6名、平均年齢21.8±4歳)とした。 まず安静背臥位で正中神経刺激(前腕遠位部をM波出現閾値の1.2倍強度、刺激持続時間1ms、刺激頻度0.5Hzで30回刺激)時に母指球筋からF波を記録した(安静試行)。次に、母指球筋を促通する目的で、手太陰肺経の尺沢穴への経穴刺激理学療法を実施した(経穴刺激理学療法試行)。刺激方法としては、尺沢穴に遠位部に向かって斜め方向へ圧刺激を加えた。圧刺激強度は痛みを感じない程度とし、刺激時間は1分間とした。この経穴刺激理学療法試行において、安静試行と同様の条件でF波を測定した。また経穴刺激理学療法終了直後(終了直後試行)、5分後試行、10分後試行、15分後試行においても同様の条件でF波を測定した。F波波形分析としては、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とした。
    【説明と同意】被検者に本研究の意義、目的を十分に説明し、同意を得た上で実施した。
    【結果】振幅F/M比は、安静試行と比較して経穴刺激理学療法試行中に有意に増加(t-test: p<0.05)したが、終了直後試行、5分後試行、10分後試行、15分後試行は安静試行と同様な結果であった。出現頻度および立ち上がり潜時は経穴刺激理学療法試行前後における変化は認めなかった。
    【考察】振幅F/M比は脊髄神経機能の興奮性の指標であるために、本研究結果から経穴刺激理学療法試行における脊髄神経機能の興奮性は安静試行と比較して増加したと考えることができる。この要因としては以下のように考えている。尺沢は短母指外転筋上を通る手太陰肺経の経路上にある経穴である。東洋医学的観点から考えると、循経取穴理論により手太陰肺経に属する尺沢への圧刺激は同じ経絡上の短母指外転筋の筋緊張を変化させることができると考えられる。神経生理学的観点から考えると、尺沢の皮膚におけるデルマトームは第6頸髄レベルである。尺沢穴へ圧刺激をおこなうことにより、触・圧覚刺激が前脊髄視床路を通り大脳皮質の感覚野に投射される。各感覚系は、各感覚受容器からそれぞれ感覚情報を受け、視床を経由して体性感覚野に投射され、運動系出力部へ情報が送られる。体性感覚野の興奮性の増大が運動野の興奮性を高めることが考えられた。今回は尺沢穴への刺激により第6頚髄領域の第一次体性感覚野の興奮性が高まり、第6頸髄領域で支配される短母指外転筋の筋緊張が促通されたと考える。また、経穴刺激理学療法試行後のF波波形変化は認めなかった。このことから、今回の経穴刺激理学療法は、試行中にみられた脊髄神経機能の興奮性を試行後まで持続させることが不可能であったことを意味している。
    【理学療法研究としての意義】本研究より筋緊張促通目的の経穴刺激理学療法では、経穴刺激理学療法中に脊髄神経機能の興奮性が増加することが示唆された。これらのことから、臨床上での経穴刺激理学療法は、循経取穴理論で考えられる罹患筋に対して斜め方向へ圧刺激を加えながら動作練習を行うことで脊髄神経機能の興奮性を増大させる効果が期待できることがわかった。今回の研究では1分間の刺激であったため、今後は刺激時間、さらに効果的な刺激方法に関して検討する必要がある。
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