抄録
【はじめに】
足部機能は、下肢から体幹を介して全身の身体運動に影響する。臨床では、立位でCOP(足底圧中心,Center of Pressure)を様々な位置に変化できる能力が重要と考え、その際の足部周囲筋群の活動を把握する必要がある。我々は閉鎖性運動連鎖での足部周囲筋群のエクササイズとして、片脚立位での一側下肢の側方への運動を用いている。そこで今回は、一側下肢の運動課題中に起こる支持側COPの変化と足部周囲筋群の筋電図評価を実施した。
【対象と方法】
対象は整形外科的、神経学的に問題のない健常者男女7名(男4名、女3名)の利き足側下肢(7肢)とした。
方法は、まず被験者に重心動揺計のプレート上で利き足側下肢の片脚立位をとらせた。足部位置の規定は足長および足の横幅の中央をプレート中央に合わせて接地させた。筋電図は支持側の腓骨筋群、後脛骨筋、前脛骨筋、足趾伸筋の4筋から記録した。運動課題は、立位姿勢の状態から非利き足側(以下、運動側)下肢の足底が接地しないよう前方で空間保持した状態を開始肢位とした。この肢位から運動側股関節を内転する課題を内側運動、外転する運動を外側運動とした。運動課題は、体幹・骨盤の回旋運動を最小限にし、両肩峰を水平に保持させた。運動距離は、上記の規定内で各被検者が最大に移動できる距離とした。なお下肢の運動と筋電図波形、COP記録を同期させるために、自作のフットスイッチを運動側の母趾と小趾に配置した。運動課題は、開始肢位より内側運動から行い、外側・内側の3回の接触で1施行とし3施行測定した。
分析方法は、運動課題中のCOP軌跡の時間的変化とそれに伴う導出筋の筋活動のパターンを分析した。
【結果】
運動課題中のCOPは、7名全てにおいて内側運動時は足部外側方向へ移動し、外側運動時は足部内側へ移動した。COPの切換え点(小趾側から母趾側)は、運動課題の切換え点と一致するものと、運動課題の切換え点より前に行うものがみられた。このとき、後脛骨筋が活動する中で、COPの切り換え点直前から腓骨筋群が活動するものと、COPの切り換え点とほぼ同時期に活動するものがみられた。また、COPの外側移動中では腓骨筋群の活動が減少し、後脛骨筋の活動が増加傾向を示した。一方、COPの内側移動中では腓骨筋群と足趾伸筋群が活動する傾向にあった。
【考察とまとめ】
COPの外側移動中には後脛骨筋の活動により小趾側荷重を誘導し、内側移動中には腓骨筋群の活動により母趾側荷重の誘導が行われると考えられる。またCOPの切換え点の直前では、後脛骨筋と腓骨筋群が同時活動し、後足部が安定することで制動効果と運動の切換えを可能にしていると思われた。
本研究課題である片脚立位での支持側と対側の下肢を側方へ運動させることは、安定した姿勢で実施されることを前提に、足部周囲筋群のエクササイズとして有用であることがわかった。