主催: (社)日本理学療法士協会近畿ブロック
【はじめに】 臨床では運動負荷を与える手段として動的運動を用いる事が多く、動的運動時の循環動態に関する報告は多い。しかし、動的運動時の総頚動脈血流量の動向は不明な点が多く、姿勢による影響についても分かっていない。 そこで今回、下肢動的運動時における姿勢の違いが総頚動脈血流量に与える影響を検討する目的で、Preliminary studyとして、起立時と同様に静脈還流量低下をもたらす、下半身陰圧(lower body negative pressure :以下LBNP)負荷装置を用いて、LBNP負荷時と臥位姿勢での動的運動時における総頸動脈血流量の変化を検討した。 【方法】 対象は健常若年男性4名。LBNP負荷は臥位群で0mmHg、陰圧負荷群では-40mmHgとした。運動負荷はエルゴメーターを使用し、60%HRmax負荷で下肢動的運動を行った。プロトコールは安静3分、運動負荷10分とした。測定は頸動脈エコーで総頚動脈血流量を、心拍出量計で一回心拍出量、心拍数、心拍出量の測定を行った。また自動血圧計で血圧を測定し、平均血圧を算出した。測定データは、1分毎に安静時と比較した。また、両群間での比較を行った。 【結果】 総頚動脈血流量は両群とも安静時と比較して運動時に上昇したが、有意差はなかった。また両群間の比較では臥位群の方が安静時と運動5分目で有意に高値を示した。 一回心拍出量は臥位群では安静時と比較して運動時に有意に低下、陰圧負荷群では有意に上昇を認めた。両群間の比較では安静時のみで臥位群の方が有意に高値を示した。 心拍数は両群とも安静時と比較して運動時に有意な上昇を認めた。両群間の比較では陰圧負荷群において安静時、運動時とも有意に高値を示した。 心拍出量は両群とも安静時と比較して運動時に有意な上昇を認めた。両群間の比較では安静時のみで臥位群の方が有意に高値を示した。 平均血圧は両群とも安静時と運動時で差はなかった。両群間の比較でも差を認めなかった。 【考察】 本研究で、両群とも運動時に心拍出量が有意に上昇したが、総頚動脈血流量は安静時と運動時で変化がないことから、心拍出量の影響に関係なく一定に保たれる可能性が示唆された。また、両群を比較して安静時、運動5分目に有意差を認めたことから、姿勢の違いが総頚動脈血流量に影響する可能性が考えられる。つまり臨床において、起立耐性が低下して失神等のリスクを有しやすい症例で動的運動を行う際は、姿勢を考慮する事が重要となる可能性がある。 本研究の結果からは、下肢動的運動時に総頸動脈血流量が一定に維持される機序には、心臓から血液が駆出された後に何らかの調節系が存在する可能性が考えられた。