近畿理学療法学術大会
第47回近畿理学療法学術大会
セッションID: 70
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両側T字杖使用によるすくみ足の改善について
慢性閉塞性肺疾患を合併したパーキンソン症候群の1症例
*内海 新山下 和樹岩井 信彦青柳 陽一郎
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抄録
【はじめに】パーキンソン様歩行のすくみ足に対して線跨ぎやメトロノームなどの感覚刺激が有効な場合があるが、日常生活でこれらを常時利用することは困難である。今回、このような感覚刺激を用いることが難しい屋外環境で、両側にT字杖を利用することですくみ足が減少するかどうかを検討するために、パーキンソン症候群患者1例において通常のT字杖(1本杖)歩行と両側T字杖(2本杖)歩行の歩行距離などを比較し、すくみ足改善の可能性について検討した。
【症例紹介】70代男性。慢性閉塞性肺疾患、多発性脳梗塞の既往あり。誤嚥性肺炎にて入院。10病日後歩行練習開始。1本杖歩行は可能であるが姿勢反射障害があり、後方転倒傾向、小刻み歩行やすくみ足が著明で実用性に欠けていた。2cmの補高インソールを利用することで、後方転倒傾向やすくみ足はやや軽減するが、路面の変化などにより容易にすくみ足が出現した。
【結果】方法1:本症例がすくみ足をよく経験する場所(白線やグレーチング)が複数ある駐車場(約70m/周)で1本杖と2本杖とで6分間歩行テストを日を変えて3回ずつ行い、距離・休憩の有無・経皮的動脈血酸素飽和度(SPO2)・心拍数・呼吸数を測定した。SPO2・心拍数・呼吸数は休憩をした場合は休憩開始時に、それ以外は歩行終了直後に測定した。方法2:すくみ足が高頻度で出現するエレベーターへの乗り込みを1本杖と2本杖で5回ずつ行い、エレベーターの手前0.8mから乗り込むまでにかかった歩数と時間を測定した。方法3: 1本杖と2本杖で10m歩行を5回ずつ行い歩数と時間を測定した。
【結果】方法1:歩行距離は、1本杖で75.3±4.5m、2本杖で116.3±9.0mと2本杖で有意に延長した(p<0.01)。SPO2は、1本杖で91.3±0.9%、2本杖で94.0±0.8%と2本杖で有意に高かった(p<0.05)。休憩の有無、心拍数、呼吸数に有意差は認められなかった。方法2:歩数は、1本杖は14.3±2.0歩、2本杖は8.0±1.5歩と2本杖で有意に改善を認めた(p<0.05)。時間は、1本杖は11.2±0.5秒、2本杖は7.4±0.7秒と2本杖で有意に改善を認めた(p<0.01)。方法3:歩数、時間とも有意差は認められなかった。
【考察】10m歩行テストでは差がなく、2本杖でエレベーターの乗り込みテストと駐車場での6分間歩行テストで改善を認めたことから、すくみ足に対して効果があった可能性がある。2本杖歩行では支持基底面が前方に拡大し、歩行開始や方向転換時に下肢の振り出しが容易になり、すくみ足が軽減したと考えられた。さらに2本杖で歩行耐久性が向上した可能性として、すくみ足による転倒への恐怖心が緩和されたことによる呼吸の安定や酸素消費量の軽減、あるいは歩行運動自体の消費エネルギーの軽減が考えられた。屋外などを含む様々な環境下で利用しやすい両側T字杖歩行がすくみ足に対して有効である可能性が示唆された。今後、症例を増やして検討したい。
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© 2007 社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
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