抄録
【目的】健生会奈良大腸肛門病センターでは、肛門疾患のみならず、大腸疾患を含めた診療を行い、下部消化管疾患の早期発見・早期治療に努めている。
本邦において、下腹部開腹術後の肺合併症の報告は皆無に等しい中、当院では、大腸疾患の症例数が多いことから、新たな知見が得られた。
そこで、2006年に直腸癌手術に対して行った、術前・術後の包括的呼吸理学療法の取り組みとその結果を報告する。
【対象】2006年1月から12月に当センターで行われた直腸癌開腹手術62例。(腹腔鏡手術及び緊急手術除く)平均年齢65.8歳(42歳~85歳)男女比44対18
【方法】周術期において外科医師・看護師・理学療法士による包括的アプローチを行う。理学療法士は、術前から呼吸理学療法のインフォームド・コンセントに努め、術後1日目から排痰や離床訓練などを1日2回以上実施する。腹部手術に伴う術後肺合併症については、術後1.3.7日目の胸部レントゲン所見から、無気肺や肺炎などの有無を外科医師が判断する。
【結果】胸部レントゲン所見上の術後肺合併症は22.5%で62例中14例であった。14例中13例が無気肺で、そのうち1例が無気肺から肺炎を続発した。なお、胸水は1例あった。肺合併症は1~3日に発症したが、7日目には改善傾向にあった。また、術後1日目から可能な限り歩行訓練を行い、3日目以降、病院内生活が自立できるように促していく。
Brooks-Brunnの腹部手術に伴う術後肺合併症の予測因子は14項目ある。1:年齢60歳以上2:BMI27以上3:癌の既往歴4:認知機能障害5:過去8週間以内の喫煙6:上腹部もしくは上腹部~下腹部にかけての切開7:400本/年を超える喫煙歴8:術前から自力移動が不能9:急性の上気道もしくは下気道感染の既往10:ASA分類で3~5のいずれか11:4時間を超える麻酔12:切開線の方向13:30cmを超える切開線14:経鼻胃管の存在
なお、6:上腹部もしくは上腹部~下腹部にかけての切開に関しては、本発表では「剣状突起から臍部までを上腹部、臍部から恥骨結合上までを下腹部」と定義する。
当院における、肺合併症と予測因子の割合は1:年齢60歳以上27%6:上腹部もしくは上腹部~下腹部にかけての切開28.9%8:術前からの自力移動困難25%11:4時間を超える麻酔23.7%であった。
【考察】直腸癌開腹手術は、上腹部から下腹部へ切開することもある。また麻酔時間は長時間に及ぶこともある。これらから、上腹部の手術のみならず下腹部の手術でも術後肺合併症はおこる事が示唆された。また理学療法士は高齢者やADLの低い患者への術前からの介入を強化する必要がある。包括的な呼吸理学療法は術後の肺合併症を重症化させない1つの手段である事も示唆された。
【まとめ】当院の、周術期における包括的呼吸理学療法の取り組みと、下腹部開腹術後肺合併症の発生率とその予測因子の割合を報告した。