抄録
【はじめに】近年、癌患者数の増加に伴い、乳癌や子宮癌の手術を行う患者へのリンパ浮腫の予防や治療が課題となっている。高度先端医療を担う当院では、難渋する癌患者への治療に多くのリンパ郭清を伴う手術や放射線治療を行うため、リンパ浮腫の治療とケアを通し、癌患者が抱える全人的苦痛を捉えQOLを向上する質の高いケアを目指している。その流れの中、平成19年5月リンパ浮腫外来を新設し、リハビリテーション部もその一翼を担っている。今回、その活動の一端を紹介する。
【開設までの流れ】平成18年6月リンパ浮腫外来新設プロジェクトが立ち上った。メンバーは乳腺一般外科、看護学科基礎看護学講座、看護部を中心とし、女性診療科、リハビリテーション部、医事課等で構成された。毎月会議が開かれ、詳細を検討・決定していった。また、院内教育・啓蒙活動として講師を招き勉強会を行った。
【受診システム】乳腺一般外科・女性診療科・整形外科(リハビリテーション医)の外来において特定の医師が適応と判断した場合、リンパ浮腫外来へ指示箋を出す。対象は続発性リンパ浮腫の患者とし、癌手術後や悪性腫瘍の増悪など癌に伴うリンパ浮腫がある患者に限る。それからリンパ浮腫外来担当看護師が実際に複合的理学療法を施行する。外来は自由診療である。また、入院患者は上記3科より依頼があれば、理学療法士が対応する。
【理学療法士の活動内容】平成18年5月より女性診療科入院患者へのセルフドレナージ指導をしている。現在までに子宮癌等におけるリンパ郭清を含む手術を施行された年齢37~75歳(平均58.2歳)の17名に実施した。リンパ浮腫の予防を第一とし、患者自身が自己にてリンパドレナージ手技を習得することを目的としている。リンパ浮腫に関する資料配布後、説明・実技指導を行う。資料を見ながらでもセルフドレナージが可能であると判断した時点か、退院時に終了としている。結果は初診から終了までの日数2~18日(平均9日)・実施回数2~10回(平均4.4回)であった。
【今後の展望】現在の理学療法士の役割は、患者に対して直接施行することよりも、その病理学・解剖生理を説明して患者自身で確実に実施でき、かつ継続させるように指導することが主となる。今後、定期的なリンパ浮腫外来では手に負えない難渋する症例が出現した場合、現システム上入院患者を受け持つ理学療法士の負担は大きくなると予想され、マンパワーや複合的理学療法の技術面で課題が多く存在する。リンパ浮腫外来の設置によって医療の専門技術の英知を蓄積していくことは、研究・教育機関である大学病院の本領を発揮するとともに、入院患者への予防指導との両面からアプローチするリンパ浮腫ケアを患者のQOLを高める新しい専門分野として確立する上で非常に意義があると考えられる。