近畿理学療法学術大会
第48回近畿理学療法学術大会
セッションID: 52
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急性大動脈解離による人工血管置換術後に早期離床を試み自宅退院できた一例
*小川 和哉藤川 薫田川 広毅木匠 康喜滝上 祐美子高橋 正浩田中 裕貴渕野 康平泉尾 有利高田 寛彬森田 青葉加藤 洋
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抄録

【はじめに】
 急性大動脈解離は予後的に極めて不良であり、発症後48時間以内で50%死亡するとされている。特にA型解離では発症初期の心タンポナーデによる突然死が高率である疾患である。
 今回、急性大動脈解離後に人工血管置換術を施行され、早期離床に着目し呼吸状態の改善を認め、自宅退院に至った症例を経験したので報告する。
【症例紹介】
 89歳男性、入浴中左背部痛自覚し近医受診。急に発汗、息苦しさを訴えるが10分程で消失。その後背部痛増強し当院へ救急搬送されCTにて大動脈解離(Stanford A型)があり同日緊急で上行大動脈人工血管置換術(人工心肺使用)施行。術後7日目で理学療法介入開始となった。
【治療経過】
理学療法開始時、JCS 10、呼吸器離脱1日目でBIPAP装着中(FiO2 70% IPAP 10 mmHg IPAP 4 mmHg)であった。バイタルサインは血圧145/82 mmHg SpO2 96% HR 90回/分で呼吸状態は呼吸数30回前後/分で血液ガスはpH 7.507 PaO2 70.2mmHg PaCO2 30.8mmHg HCO3 23.9mEq/L P/F比88と酸素化が悪い呼吸状態であった。またクレアチニン 1.09mg/dl BUN 61 mg/dlと腎機能の低下も認めていた。治療としては、体位ドレナージ、呼吸介助、離床(端坐位)を行った。離床を進めていく途中何度か呼吸状態悪化をきたし、気管切開を施行されたが、徐々に呼吸状態は改善した。また呼吸訓練としてスーフルを導入し同時に基本動作訓練、歩行訓練を実施しT字杖歩行監視レベルにまで向上し術後72日目で自宅退院した。
【考察】
 理学療法開始時、呼吸状態不良で臥床状態では血腫による肺への圧迫があり、片肺は機能していない状態の上に、臥床することにより、臓器の圧迫を受けることにより横隔膜をさらに低下させることとなっていた。体位ドレナージを施行することにより胸郭運動をしやすくなったことと、自重により機能できていなかった肺胞部分も機能できるようになったことで呼吸状態の改善があったものと考える。坐位では肺の機能改善と血腫の吸収がおこり、さらに坐位姿勢での呼吸介助や排痰を実施したことにより呼吸機能が改善したものと考える。また全身状態では、手術時間、術後鎮静管理されていたことを考えれば全身持久力の低下も著明であり、早期離床をはかったことにより、杖歩行などADLの向上を認め自宅退院できたのではないかと考える。
【まとめ】
 今回急性大動脈解離術後の患者を担当し、早期離床とそれに伴うリスク管理の重要性について再認識できた。早期離床することで呼吸状態だけではなく著明な全身持久力の改善がはかれた。ただし、やみくもに離床するのではなく、評価し適切な時期に離床を促し、最終的ADLの向上につなげる事が必要であり、今後の治療に活かしていきたい。

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© 2008 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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