近畿理学療法学術大会
第48回近畿理学療法学術大会
セッションID: 57
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股関節固定術後長期経過したのちに人工股関節置換術を施行された症例に対する理学療法
-腰痛および歩行能力が顕著に改善した一症例-
*伊藤 太祐南角 学秋山 治彦中村 孝志
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抄録

【はじめに】股関節固定術後の人工股関節置換術(THA)施行後における術後の理学療法プログラムや運動機能の回復過程についての報告は少なく,不明な点が多い.今回,股関節固定術後長期経過したのちにTHAを施行され腰痛および歩行能力が改善した症例を経験したので,考察を加え報告する.
【症例紹介】59歳,女性.専業主婦.21歳時,左形成異常骨関節炎と診断され,左股関節固定術施行された.その後,腰椎すべり症と診断され,58歳時に腰椎固定術(L4-5PLIF固定)施行された.腰椎固定術後に理学療法を施行し1ヶ月で退院となったが,腰痛が継続し長距離歩行や端座位保持が困難であった.このため腰椎固定術施行後8ヶ月後に左THAを施行され,術後3ヶ月で退院となった.
【手術情報】THAは側臥位で前外側アプローチにて中殿筋を切開した.術中の股関節の可動域は屈曲80°,伸展0°であった.
【理学療法経過と考察】腰椎固定術後に左下肢の痺れは改善したが,歩行時の骨盤・腰椎による代償運動や腰痛症状は残存したためTHA施行することとなった.THA術後の理学療法の目的は,1)端座位保持に必要な股関節屈曲可動域の獲得,2)歩行時の腰椎への負担を軽減させるための股関節機能を獲得することとした.THA術後の理学療法については,術後1週目より免荷にて車椅子への移乗動作の開始,術後3週目より部分荷重を開始し,術後10週目より全荷重を開始し,術後3ヶ月でホームエクササイズを指導して,片松葉杖歩行にて退院となった.THA術後の股関節の関節可動域エクササイズは術後2日目から開始した.殿筋群の伸張痛が強く,難治性を示したが,術後9週で股関節屈曲80°,伸展0°を獲得し,長時間の端座位保持が可能となった.股関節周囲筋の筋力トレーニングは,術後2日目より自動介助運動から開始した.THA術後3ヶ月では中殿筋の収縮はわずかに触知できる程度であり,股関節屈曲に関しては側臥位での自動介助で屈曲運動が可能であった.術後4ヶ月では,背臥位での股関節外転20°および股関節屈曲(膝伸展位)30°の自動運動が可能であった.歩行の回復過程については,THA施行前では歩行周期全体を通して,股関節運動はなく遊脚期で骨盤回旋・骨盤後傾・腰椎後弯,立脚後期での骨盤前傾・腰椎前弯が顕著に認められており,片松葉杖にて10m歩行時間は13.9秒,歩幅は45cmであった.術後3ヶ月では片松葉杖にて10m歩行時間は11.7秒,歩幅は53cm,術後4ヶ月ではT字杖にて10m歩行時間は7.9秒,歩幅は63cmとなり,歩行時の骨盤・腰椎による代償運動が軽減するとともに腰痛が消失した.
【まとめ】THA術後9週で端座位保持に必要な股関節屈曲可動域を獲得できた.また,THA術後4ヶ月では股関節の自動運動が認められ,腰痛および歩行能力が顕著に改善した.

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© 2008 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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