近畿理学療法学術大会
第48回近畿理学療法学術大会
セッションID: 63
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右片麻痺を発症した左手関節離断者の歩行時における杖の検討
*小林 良広坂本 久木下 利喜生中村 健幸田 剣永江 敬坂野 元彦東山 理加太田 晴基田島 文博
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抄録
【はじめに】
 下肢切断者に脳卒中片麻痺を合併した重複障害者に関する報告は散見されるが、上肢切断者に脳卒中片麻痺が合併した際の報告はほとんどない。
 今回、左手関節離断に脳出血右片麻痺を合併した症例を経験し、この症例に対して切断肢に装着可能な杖の作製を行った。これにより杖の使用が可能となり、効果的に歩行訓練を行う事が出来たので、この杖の作製の経過や利点などについて報告する。
【症例紹介】
 1月初旬に左被殻出血を発症、同日当院へ入院となり、4日後に開頭血腫除去術を施行された。5日目からベッドサイドでの理学療法を開始し、11日目にリハビリテーション(以下リハ)室での立位・歩行訓練を開始した。合併症としては高血圧、糖尿病があり、約30年前に労働中の事故で左手関節離断を受傷、その後は義手や自助具等の使用なく、ADLは自立していた。
 リハ室出棟時の現症は、意識傾眠、自発的な発声・発話は認められず、運動指示にも充分に従命できないレベルであった。MMTは非麻痺側上下肢で3+レベル、麻痺側上下肢は筋トーヌスが低く、随意性は認められなかった。ADLは全介助レベルであった。
【手関節離断対応の杖作製の試み】
 右片麻痺と左手関節離断の重複障害では、手すりや杖による支持ができないため、効果的な歩行訓練が困難となる。そこで、手関節離断でも使用可能な杖の検討・作製を試みた。
 本症例は、手部でのグリップが不能であるため、前腕で支持可能なプラットフォーム型の杖を作製した。しかし、この杖は重量が重く、また前腕部で支持するために杖が長くなり、杖の振り出しのコントロールが難しく使用困難であった。
 そこで、本症例では断端部での体重支持が可能と考え、断端支持が可能な杖の検討を行なった。検討の結果、杖に取り付け可能な断端支持ソケットの作製を行なった。このソケットを取り付けたロフストランド杖では、重量も軽く断端で体重支持が出来るため、杖のコントロールがし易くなり、効果的な歩行訓練が可能となった。
【経過】
 この断端支持ソケット付きロフストランド杖及び、右長下肢装具を使用し歩行訓練を継続した。その後、歩行能力の改善を認め、介助歩行レベルで転院となった。
【今回作製した杖のポイントと利点】
 今回の杖のポイントは、体重支持は断端部で行い、杖の懸垂には手関節の内外側顆部を利用した。支持部及び懸垂部は、杖に取り付けるソケットタイプとし、差込型とした。利点としては差込型ソケットを使用する事により装着が容易であり、支持部を手関節断端部とする事で、通常の杖の使用が可能となる。よって、通常の杖と同様の感覚で、使用が可能となる事である。
【まとめ】
 今回、左手関節離断と右片麻痺の重複障害の症例を経験した。その中で杖の検討を行い、既存の杖に取り付け可能なソケットの作製を行った。その結果、杖の使用が可能となり、効果的な歩行訓練が行え、介助歩行の獲得に至る事ができた。
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© 2008 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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