近畿理学療法学術大会
第48回近畿理学療法学術大会
セッションID: 66
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高齢者大腿骨頸部骨折を伴った亀背患者の急性期アプローチ
-系統発生学的先祖帰りを視点とした一検討-
*中谷 真己西原 隆志加納 豊子明比 大千葉 一雄
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抄録
【はじめに】
 高齢者や急性疼痛を呈する患者の姿勢や歩行は,類人猿様の系統発生学的先祖帰りをするといわれている.有川は,超急性期では,筋・関節に負担のない系統発生学的中間位が機能回復に重要であると述べている.
 今回,著明な亀背を有する高齢者の大腿骨転子間骨折術後に系統発生学的中間位の動作練習(以下四足練習)を行い,術後2週目の歩行獲得につながった症例を経験したので報告する.
【症例紹介】
 77歳,女性.診断名,左大腿骨転子間骨折.術式,観血的骨接合術(γ-nail).切開部位,中殿筋中部線維,大腿筋膜張筋(以下TFL),外側広筋.受傷前の屋内移動,伝い歩きと四つ這い移動を併用し自立.姿勢と動作の特徴,亀背にて腰部骨盤後傾位,側臥位と端座位が安静姿勢で寝返り不可.
【理学療法評価】
 術後4日目・1週目・2週目の順に以下の評価を実施した.1)歩行能力,2)疼痛(VAS・疼痛内容・股関節運動方向),3)股関節内転・外転の関節可動域,4)股関節内転・外転の徒手筋力テスト
1)手押し車歩行不可・手押し車歩行不可・手押し車歩行監視.
2)(8/10・運動時痛・全方向)・(5/10・運動時と荷重時・内外転)・(3/10・荷重時)
3)内転:10°・15°・20°外転:-5°・0°・10°4)内転:2・2・3外転:2・2・3
【問題点と理学療法】
 術後4日目に炎症症状による股関節運動時痛が出現し,1週目ではTFLの伸縮による運動動痛へと変化した.患肢自動運動と下肢支持困難によりトイレ動作と歩行獲得を阻害していた.治療は,患肢自動運動と下肢支持向上を目的に,四足練習で荷重練習を行った.術後3日目よりトイレ時,四足練習ができるよう環境設定を行い,術後10日目より手押し車歩行練習を開始した.
【考察】
 今回,四足練習を行った結果,疼痛軽減,股関節内転・外転の関節可動域と筋力が改善し,歩行獲得に繋がったと考える.系統発生学的中間位は,30~45°の斜面を四つ這いで這い上がっていく山登り様の姿勢で,この肢位は,関節包・靭帯の緊張差が少なく瞬発的に強力な運動が出やすい.また手押し車歩行は,腰部骨盤後傾位であっても頚部体幹は伸展が必要であり,山登り姿勢と類似している.
 本症例は受傷前より四足動物様の動作で,骨盤腰部後傾から歩行時の左右重心制御をTFLと腸脛靭帯で行っていたと考える.骨折と手術によるTFL機能不全が重心制御困難を招き,受傷前と類似した四足練習で関節に負担なく荷重練習を行った結果,重心制御が改善し,歩行獲得に至ったと考える.
 本症例を通し,受傷前の動作方法や手術の影響を考え,個別的な治療を行うことが重要と考える.
【おわりに】
 今回,亀背を呈した術後患者に対し,系統発生学的中間位様からの頚部体幹伸展した類人猿様の歩行を行い,手押し車歩行を早期に獲得できた.
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© 2008 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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