近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 108
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能動的な動きを含めた関節可動域訓練が側方リーチ動作に及ぼす影響
*中根 征也大西 智也杉本 圭佐竹 勇人木村 保
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抄録

【目的】我々、理学療法士にとって関節可動域訓練を実施する場面は非常に多い。鶴見ら(1991)によると理学療法士を対象とした調査において日常業務の中で最も多く実施している理学療法内容であるとしている。また、具体的な関節可動域訓練の実態も調査しており、徒手による他動的関節可動域訓練が最も多いとされ、次いでモビライゼーションの順で行われていると報告している。長澤ら(1999)は、自動介助運動と他動運動での関節可動域の差異を調査しており、自動介助運動の方が他動運動に比べて関節可動域の拡大を認めるとしている。このように関節可動域訓練は、理学療法士にとって重要な治療項目であると考えられる。しかし、関節可動域訓練方法と治療効果と実際の動作との関連についての報告は少ないように思える。そこで今回我々は、関節可動域訓練方法の違いと治療効果、側方リーチとの関連に着目した。その結果、関節可動域訓練方法と側方リーチの関連性について若干の知見を得たのでここに報告する。 【方法】健常で身体に異常がなく、日頃は特別な運動を行っていない者で男性7名、女性1名(平均年齢:24.8±2.8歳、平均身長:168.8±7.4cm)を対象とした。方法は、股関節における関節可動域に着目し、対象者8名を徒手による他動的関節可動域訓練とモビライゼーションにて関節可動域訓練を実施する群(以下、ROM-ex群)と関節可動域訓練実施前の可動域測定において動かしにくさを感じた運動を被験者自らで足底が支持面に接した状態で能動的に動かしてもらいながらモビライゼーショも合わせて行う関節可動域訓練を実施する群(以下、能動群)の2群に4名ずつ分けた。股関節屈曲・伸展・内旋・外旋の関節可動域と側方リーチ距離を関節可動域訓練実施前後で測定した。関節可動域と側方リーチの平均値・標準偏差を求め、比較検討した。 【説明と同意】すべての対象者に本研究の内容を十分に説明し、同意を得た上で研究を行った。 【結果】関節可動域訓練前後の角度は、ROM-ex群において屈曲115.0±7.1°から117.5±5.0°、伸展15.0±0.0°から16.3±2.5°、内旋25.0±9.1°から30.0±4.1°、外旋40.0±4.1°から50.0±10.0°に変化し、能動群においては、屈曲112.5±2.9°から116.3±2.5°、伸展15.0±4.1°から17.5±2.9°、内旋30.0±9.1°から41.3±12.5°、外旋は41.3±4.8°から52.5±2.9°に変化した。また、側方リーチは、ROM-ex群において40.8±4.0cmから41.2±3.9cmに能動群では33.6±5.9cmから38.5±6.1cmに変化した。関節可動域訓練方法の違いによって、関節可動域における治療効果に大きな差は無いと捉えることができる。しかし、側方リーチについての治療効果の差は存在すると捉えることができる。 【考察】今回の結果をまとめると、(1)ROM-ex群と能動群における関節可動域への影響の違いはなかった。(2)ROM-ex群と能動群における側方リーチへの影響には違いがあり、能動群の方がその影響は大きかった。冨田ら(2008)は“動かない身体部分は決して知覚できないし、知覚できない身体部分は決して動かない。”と述べている。他動的な関節可動域訓練を行い、可動域の拡大が得られたとしても動きにくい身体部分を知覚できるようになったとは言えず、リーチ動作を遂行するために粗雑で偏った知覚循環で行い、意識して使うことのできる表在の大きな筋で動くことになる。結果、リーチ距離の増大の変化は乏しいものとなったと考えている。一方、能動群では自らの動きにくさを感じ、支持面からの情報を探索しながらの関節可動域訓練であった。そのため、関節のモビリティーが増大したことと今まで動かしにくかった部分を知覚したことによって関節可動域の拡大が得られたと考えている。動かしにくい身体部分を知覚できるようになった結果、現在の身体に見合った知覚循環が可能になり、深層にある小さな安定筋を利用しながら無理なくリーチ動作の遂行ができるようになったと考える。つまり、能動的な動きを含めた関節可動域訓練は、側方リーチ距離の増大影響を及ぼすと捉えることができた。 【理学療法研究としての意義】鶴見らの調査からも他動的な関節可動域訓練が多く実施されているのが現状である。本研究では、自らが動かしにくさを感じ、能動的な動きを含めた関節可動域訓練を行うことによって動作に何らかの影響を及ぼすことが確認された。関節可動域訓練方法を再考する一つの指標となると考える。

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© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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