近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 82
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非荷重に伴う廃用性筋萎縮に対する治療的電気刺激の筋萎縮予防効果
*吉本 愛子藤田 直人藤野 英己
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キーワード: 筋萎縮, 予防, 電気刺激
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抄録

【目的】 不活動に伴う筋萎縮の予防的手段として,治療的電気刺激(TES)を用いた筋収縮の誘発法があるが,その効果には一定した見解が得られておらず,臨床的に広く用いられているとは言い難い.TESの筋萎縮予防効果が一定しない要因として,その治療対象や刺激条件が先行研究間で異なるという点があげられる.一方,不活動に伴って骨格筋には筋萎縮が生じるが,そのメカニズムは,非荷重,ギプス固定等の不動,除神経,栄養障害,加齢など,筋萎縮を惹起しうる原因によってそれぞれ異なるとされている.これらのことから,筋萎縮が生じるメカニズムに違いがあるのであれば,その予防的手段も個々で異なり,最適な電気刺激の刺激条件にも差が生じると思われる.したがって,TESを筋萎縮の予防的手段として臨床応用していくには,筋萎縮を生じる要因やその萎縮期間など,個別の要因に分けて治療体系を確立していく必要があると考えられる.そこで本研究では非荷重に伴う筋萎縮に対してある条件下でTESを行い,筋萎縮の予防に効果的な結果が得られたため,その詳細を報告する.
【方法】 12週齢のWistar系雄ラットを,1週間の後肢非荷重群(HU群),後肢非荷重期間中にTESを毎日実施した群(ES群),および対照群の3群に区分した。TESは前脛骨筋のモーターポイント上で経皮的に行い,後肢非荷重開始翌日から実験終了まで毎日実施した.刺激条件は刺激強度4mA,パルス幅100us,周波数100Hzで,1秒間の収縮と2秒間の休憩を20回1セットとし,午前と午後に6セットずつ,1日合計240秒間の電気刺激を実施した.1週間の実験期間終了後に前脛骨筋を未固定で摘出し,筋腹の中央部を急速凍結した.摘出した筋試料は12um厚に薄切し,ATPase染色(pH4.25)後に光学顕微鏡で観察し,ImageJを用いて筋線維タイプ別の筋線維横断面積を測定した.なお,個々の筋線維タイプの横断面積の測定は,前脛骨筋の浅層と深層においてそれぞれ実施した.得られた測定値は,一元配置分散分析および多重比較検定としてFisherの最小有意差法を用い,有意水準を5%未満として統計処理を行った.
【説明と同意】 全ての実験は,神戸大学における動物実験に関する指針に従って実施した.
【結果】 前脛骨筋の浅層と深層の両方において,タイプIIB線維の横断面積は,HU群とES群は対照群に比べて有意に減少した.一方,TESを行ったES群はHU群に比べて有意に高値を示した.タイプI線維とIIA線維の横断面積に関しては,HU群とES群は対照群に比べて低値を示すものの,ES群はHU群に比べてわずかに高値を示した.
【考察】 タイプIIB線維における横断面積の結果より,TESは廃用性筋萎縮の予防にある一定の効果を及ぼすことが検証された.また,その廃用性筋萎縮の予防効果は,前脛骨筋の浅層だけではなく深層でも認められたため,臨床において治療対象にできうる骨格筋は多岐にわたると思われる.一方で,タイプI線維とIIA線維においては,TESによる筋萎縮の予防効果はわずかなものであった.TESによる筋収縮の誘発は相対的にタイプIIB線維に優位であるという報告もあるが,今回の結果では,わずかではあるがタイプI線維やタイプIIA線維においてもTESによる筋萎縮の予防効果を認めていることから,電気刺激の刺激条件に改良を加えれば,タイプI線維やタイプIIA線維においても筋萎縮の予防効果が得られる可能性はあると思われる.今後,タイプIIB線維だけではなく全ての筋線維タイプにおいて筋萎縮の予防効果が得られるようなTESの至適条件や,TESと併用できる他の介入もあわせて検討し,治療体系の確立につなげていく必要があると考える.
【理学療法研究としての意義】 今回行ったTESは,廃用性筋萎縮の予防に対してある一定の効果を与えることが検証されたため,TESは長期間の非荷重が予想される患者の筋萎縮予防に対する介入手段として臨床応用できる可能性が示唆されたこと.

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© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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