抄録
私は1986年の春, 「心の因果説」を主張するアームストロング (D.M.Armstrong) とそれに反対するマルカム (N.Malcolm) の論争によって成り立っている『意識と因果性-心の本性をめぐる論争-』という本Consciousness and Causality-A Debate on the Nature of Mind-, Basil Blackwell1984) を翻訳し(産業図書から) 出版しました。ところが, この翻訳で私の頭に渦巻いた両者の論争が未だ私の頭から去らないうちに, 1986年の科学基礎論学会の年会のシンポジウムで, 「たましひ」の問題について発表することになりました。そこで私は, この機会に, アームストロングとマルカムの論争を念頭におきながら, 「心」あるいは「たましひ」の問題を, 私なりに突っ込んで考えてみようと思いました。その結果出来上がったのが以下の論考です。私もマルカムに近い立場からアームストロングを批判したわけですが, 私としては, マルカムよりは批判の論点をはっきり出せたと思っています。なお, 彼らの論争に出てきた例や用語, および学説のまとめ方をそのまま使ったところもあります。