科学基礎論研究
Online ISSN : 1884-1236
Print ISSN : 0022-7668
ISSN-L : 0022-7668
データ解析の考え方
林 知己夫
著者情報
ジャーナル フリー

1989 年 19 巻 2 号 p. 81-87

詳細
抄録
いわゆる数理統計学と異なった立場のものとして, 「データ解析」というものが生まれてきた。しかし, その内容はさまざま各人各様で, 何となく「それらしいあたり」を議論しているのである。いま得られているデータからどう情報をとり出すか, ということを主な狙いとすることは共通の点であるが, その得られているデータの背景をどこまで考慮するかという点になると差が大きくなる。この点は後で触れよう。たしかに「データ解析」という名前はそう古いものではないが, J.W.TukeyがThe Future of Data Analysis (Annals of Mathematical Statistics Vol.33, 1962) が発表されてから数理統計学の世界で有名になってきた。しかし, 日本においては「統計数理」の名において, 1947年ごろから「データによる現象解析」を志向した動きがあった。どうデータをとり, どう解析して情報を取り出すかという立場が表明された。しかし, 「データ解析」という言葉は使われていなかった。いわゆる推定論, 検定論を中心とする数理統計学に反旗をひるがえし, サンプリング調査によりデータを獲得することを土台にして, データを分析することを考えていたのである。
それはさておき, データ解析というとき, 英米流 (英語を話す地域という意味である) の数理統計学的発想のデータ解析とTukey流データ解析 (数理統計学を主体とする前記英米流ではない)・日本流 (といっても日本はEnglish speaking peopleに属すると見做されており, 日本で数理統計学を研究する人とは前述の英米流に属している, 日本において, 数量化・分類-クラスター化-行動計量学を中心にする人々がここでいう日本流である)・フランス流 (フランス・イタリア・スペイン・東欧・アフリカ・中南米など) のそれとは内容が異なっている。英米流では推論的統計学 (推定論・検定論・統計的決定理論, あわせてinferential statisticsという) からやはり離れられないのである。フランス流は, 表現の問題が中心であってdescriptive statisticsと胸を張って言い, 単純なinferential statisticsを見下しているのである。Tukeyによるデータ解析は英米流から抜け出ており, その内容はexploratory data analysis (探索的データ解析) と言い, 統計量統計学からの脱皮, 素直にデータを眺め情報をさぐり出すという立場をとっており, 日本流, フランス流に近い形になっている。
データ解析という言葉が英米圏から出たにもかかわらず, inferential statisticsをぬけ切らぬ形でデータ解析が発展してきているのは注目に値する。
以下に日本流, Tukey流, フランス流について説明しよう。
著者関連情報
© 科学基礎論学会
前の記事 次の記事
feedback
Top