科学基礎論研究
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視覚の因果説
前田 高弘
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2002 年 29 巻 2 号 p. 103-109

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抄録

知覚の因果説は知覚に関心を持つ哲学者や心理学者によって広く受け容れられているように見えるが, 反対する者もいる。哲学的テーゼに反対者は付き物であるから, そのことは不思議ではないとも言えようが, 私にはやや奇妙に思えるところがある。知覚の因果説は基本的に知覚の概念に関するものであるが, 事実として知覚が生起するための因果的機構が科学的にある程度説明され, かつ反因果論者たちもその種の因果的機構の存在を否定するわけではなく, さらに一般常識も知覚の因果説的な捉え方を抵抗なく受け容れることができる (あるいは現に受け容れている) ように見えるのに, なぜ反因果論者たちは, 知覚の概念そのものは因果説的ではない (あるいは因果説的に捉えるべきではない) と敢えて主張する必要があるのか。実際, 私にはその理由が見当たらない。むしろ, 知覚の概念は因果説的であると考える方が理に適っているように思われる。そのことを論ずるのが本稿の目的であるが, 以下の議論は専ら視覚を問題にしている。反因果論者たちはすべての感覚様相について因果説を批判しているわけではなく (cf. [9] p.295), 批判の対象になるのは基本的に視覚か聴覚であり, 私が視覚の因果説を擁護するために持ち出す論点が視覚以外にも当てはまるわけではないからである。いずれにせよ, 私がここで論じたいことは, 敢えて控えめに言えぼ, 少なくとも視覚に関して因果説を拒否すべき理由は見当たらないということである.

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