北日本病害虫研究会年報
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保温折衷苗代育苗と病害虫発生との關係について
中川 九一角間 文雄熊田 総一遠藤 昭二太田 六郎遠藤 正川島 嘉内菅野 登徳永 友三白坂 信己
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1955 年 1955 巻 Special2 号 p. 1-8

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抄録

本縣の保温折衷苗代についてみるに, 葉イモチ病では通常の場合發病が少くなる傾向が見られるが, 同じ保温折衷苗であつても昭和27年の如く, 氣温上昇してからの苗代日数短く促成された苗では日数短縮程次第に發病を増し, 却つて普通水苗代より發病が増加することが見られる。保温折衷育苗上のこの様な條件は, 苗の素質への或種の影響があつたことが考えられるのであつて, 出穗期にも相當の遅延が見られたことであつた。葉イモチ病に對する強弱については可なり種々の意見が間かれる様であつて, 本縣では過肥の保折苗, 除紙時期の遅れた保折苗等に發病が多いことが實際に認められているが, 同じ保折苗でも更に細かく検討すると, 育苗技術の相異が体内素質へ様々な影響を齎らし, 前記試験にも見られる様な結果を招くのではあるまいか。
同じ様にして穗頸イモチ病について調べたところでは, その強弱につきはつきりしたことは認め難かつたが, 昭和28年の冷害氣象下での多くの觀察では, 大体に於て穂頸イモチ病は保折苗に少なかつた。
小粒菌核病は早播による保折苗の生育の進んだ試験區では發病率が増加しているのは苗の老化が早かつた爲であろう。
次に害虫の關係についてみるに, 苗代期では殆んど何れの害虫も保温折衷苗代に發生が多いが, 殊にニカメイチユウ並にイネヒメハモグリバエでは發生が多い様であつて, 昭和27年の成績では保温折衷苗の早播になる程發生が多い。イネヒメハモグリバエの發生が著しく多いのは成虫の飛來が早いこと, 産卵に適する曝露期間が長いこと等が考えられ, 岩手, 秋田地方でイネハモグリバエについて認められていることゝ一致するのは興味深い。
イネドロオイムシは苗代では明瞭でない様である。
本田での害虫相の相異はやはり顯著に認められ, 本場, 白河等の平坦地方では保温折衷苗には, ニカメイチユウ1化期では可なり明かに多發するのが見られ, 更に栽植様式では一般に正方形植に被害が多いことが認められた。即ち早播正方形植が最も被害率が高い。2化期では, 元來その發生が少い事情もあつて, 之等の關係はこの時期では不明瞭なものとなつてしまう。
イネドロオイムシは發生の少い平坦部では明かでないが, 會津山間の常習發生地方では常に保温折衷苗に多かつた。イネヒメハモグリバエは昭和27年試験では遅播保温折衷苗 (5月10日播) は發生多く, 水苗代 (4月20日播) は保折早播區 (4月20日播) と遅播區の中間程度であつたが, 昭和28年の冷害下では, 縣下各地に於て水苗代は少く保温折衷苗に發生が多いことが認められた。
其他の害虫ではフタオビコヤガ, ツマグロヨコバイ等が概して保折苗に多い様である。
以上の如く保温折衷苗は, 苗の初期生育が旺盛の爲め諸害虫の目標となり, その蝟集を受け易く, 苗代期より害虫の發生が多い。又本田移植後にあつても同様のことがある爲め, ニカメイチユウ, イネヒメハモグリバエ, イネドロオイムシ等による虫害を蒙り易い。葉イモチ病では前記の如く, 管理の條件がよければ抵抗力が強いが, 之を誤ると逆に水苗代よりも弱い場合を生ずる様であつて, 此点については本縣の如く葉イモチ病の相當多發生する地方ではもう一歩研究を必要とする様であるが, この様な病害虫の發生が保温折衷苗代に伴い易いことは當業者がよく認識し, 藥剤防除等による對策について常に用意がなければならない。恰も蔬菜類の温床育苗に病害虫の發生が多く, 常にその防除について努力すると同様, 保温折衷苗代も只慢然と行うのでなく, 病害虫多發生の傾向に鑑み, 常にその防除を實行してこそ愈々その眞価が發揮されるものと考えられる。

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