北日本病害虫研究会年報
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イネハモグリバエの発生に及ぼす保温折衷苗代の影響
菅原 寛夫大森 秀雄大矢 剛毅
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1955 年 1955 巻 Special2 号 p. 16-26

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抄録

(1) 第1化期羽化成虫のhostへの飛來はマコモ, 保温折衷苗代, 普通水苗代の順に遲くなるが, これはhostの開葉時期 (稻苗の場合は少くも本葉2.5葉以上) の大きさに左右せられる。即ち羽化初期は未だ稻苗が開葉せぬのでマコモのみに集まり, 次いで順次苗令が平均2.5葉以上になつた苗代へ集つてくる。保温折衷苗代は一般に生育が進むので成虫飛來も早い。
(2) 一般に保温折衷苗代のように早く飛來をみた苗代においては, その最盛期が早く來る傾向がある。これは後期におい出保温折衷苗代の方が輻射熱が高くなり不適環境を作るので成虫は普通水苗代の方に多く, 集るようになる。即ち, 保温折衷苗代では後期減退期が早く來るためにその最盛期のpeakが早まる結果となる。
(3) 第1化期における分布先端地の實態調査の結果は明らかに保温折衷苗代の方が寄生量が多かつた。即ち舐食痕数, 産卵数, 幼虫数, 蛹数及び成虫掬取数共にこの傾向が顯著であり, たとえ播種期が普通水苗代よりも晩くとも保温折衷苗代の方に寄生が多い場合が多かつた。しかし播種期が晩くとも苗の生育が水苗代より進んでいる場合が多く, 結局苗の進んでいる方に多く寄生するという現象がみられた。
(4) 播種期を同じにした兩苗代の苗につき, 各葉位別に寄生量を比較した處, 下位葉位 (3~4位) において却つて普通水苗代の方が多い場合もあるが, この現象は一般にこの虫が新葉に多く産卵する習性があり, 産卵最盛期に普通水苗代の新葉が保温折衷苗代のそれよりも下位にあつたためかと考えられる (苗令に1葉の差がある)。
(5) 曝露期間を同じにした兩苗代苗を夫々接近せしめその寄生相を比較したが, やはり保温折衷苗代萬の方が, 一定面積當でも, host 1個体當でも, 1葉當でも, 常に多く寄生していることが明らかである。これを苗の形状と比較するに, 葉数の多い程, 草丈の高い程多い傾向がみられるが, これは寄生の場の面積 (葉の面積) と比例する。この様な現象は産卵粒数が1化期初期は1葉1卵に規定され, その後hostの生長と共に1葉数卵まで増加してゆく傾向と同じように考えられる。
(6) 第2化期においては挿秧期及び施肥量を變えてその寄生量を比較したが, 兩苗代苗の差は特に顯著ではなく, 單に葉数の多い株程寄生量が多くなる傾向は認められた。兩苗代の差が1化期の様に認められぬのは虫に對する曝露期間が同一であり, 且つ挿秧直後で株間の室間も大きく特に微細氣象的な差は少ないためと考えられる。
(7) 從來岩手縣の北部地帯に於いては本虫の發生は殆んど認められなかつたか, 或はマコモにのみ局限せられていた。これは苗代播種期が一般に極めて晩いために羽化期に未だ苗が適當の大いさにならなかつたためと想像せられる。最近保温折衷苗代が普及され縣北地帯の播種期が一般的に早くなつてきたが, これと平行的に本虫の發生も漸次認められ, その密度を増してきている。今後各地帯の環境要素の檢討と相俟つて本虫の分布の予察を確立する必要がある。

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