抄録
分裂病の認知障害の原因として注目されている左半球機能低下説および半球間連絡機能障害説について, 各種の感覚モダリティの認知課題を用いて検討した.その結果, 身体感覚性の課題に関しては, いずれの仮説をも支持する結果は得られなかった.また分割視野課題に関しては, 結果は実験条件によって著しく異なり, 両仮説と一致する結果と矛盾する結果とが相半ばした.さらに分割視野実験の結果は, 両仮説よりも半球機能均質説によってむしろよりよく説明されることが明らかとなった.これらの仮説を支持する先行研究者の結果に関しても, 実験条件や被験者側の要因統制が不十分であって確実な実験的根拠ではないこと, 結果を解釈する際の基準が不十分であったことなどが指摘された.以上の点からわれわれは半球機能低下説および半球問連絡機能障害説について主張するのはいまのところ慎重であるべきであると考える.今後は, 刺激提示の視角条件などの実験条件設定や利き目などの被験者側の要因について, より慎重な方法論的検討が必要であると同時に, 半球機能均質説に同等の注意を払うべきであると考える.