抄録
はじめに
斜長石は地殻を構成する主要鉱物のひとつである。その融液やガラスの高圧での構造についての情報は、地殻下部やマントル上部でのマグマなどのメルトの挙動をしる重要な手がかりになる。本研究では、斜長石組成ガラスを圧縮し、高密度化したガラスを回収し、ラマン分光法ならびにX線回折法によりその構造を調べた。
実験
斜長石{albite, Labradorite(Ab50An50), Anorthite}組成のガラスを得るように試薬(NaCO3, CaCO3, SiO2, Al2O3)を調合し、白金るつぼに封入電気炉中(1600~1700℃)で融解し、室温空気中に取り出し急冷して出発ガラス試料を得た。このガラス試料を、キュービック・アンビル型プレス機を用いて4.0GPa/500℃、7.7GPa/500℃及び7.7GPa/室温も条件で30分間圧縮した後、急冷後常圧にもどして回収した。
回収したガラス試料の密度をジヨードメタン/アセトン混合液による重液法で測定した。ラマンスペクトルの測定は愛宕物産(株)(現堀場Jovin Yvon)においてDilor社製の顕微鏡ラマン分光計LABRAMを用いて行なった。X線回折測定は、約0.5mmの粒状試料を持い、4軸型単結晶回折装置によって測定した。結果と考察 測定した密度から、室温での圧縮ではほとんど密度の増加は見られなかった。他方、500℃での圧縮では密度増加(4.0GPaで7~9%、7.7GPaで15~17%)が認められた。室温における圧縮では密度・ラマンスペクトルにほとんど変化が見られないことから、室温では弾性変型が起ったと考えられる。他方、500℃での圧縮ではラマンスペクトルにも次のような変化が見られた。まず、480~530cm-1のバンドの波数は圧力増加に伴い増加している。これは、ネットワーク構造中のT-O-T角の減少に対応する。560~590cm-1のバンドは圧力の増加に伴い相対強度が増加しており、これは四面体の3員環構造の増加を示している。700cm-1バンドは6配位のAlに対応し、Alの増加と圧力の増加に伴いその強度が増加している。また、X線回折測定の結果から、その回折強度の第一ピーク(FSDP:First Sharp Diffraction Peak)の位置が圧力の増加に伴いQの大きい方にシフトしていることが明らかになった。そのシフトの量はAb組成に富む程大きい。この結果は、Ab組成に富む程、3員環のような中距離構造単位の増加率が高いことを示している。
以上のような結果を総合すると、斜長石ガラスは500℃での圧縮では密度が増加するが、これらの密度増加は構造中のT-O-T角の減少と3員環構造の増加ならびに6配位のAlの増加に起因すると考えられる。Anガラスの密度増加が他のガラスにくらべ大きいことは、6配位のAlの増加が密度増加に大きく寄与していることを示していると考えられる。