日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K3-05
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Ca2Al3-pMn3+pSi3O12(OH)-紅簾石の結晶化学:Mn3+の席選択性と結晶構造変化
永嶌 真理子*赤坂 正秀
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抄録

紅簾石の6配位席におけるMn3+の分布と結晶構造変化を検討するため、Ca2Al3-pMn3+pSi3O12(OH)-紅簾石 (p = 0.5, 0.75, 1.0, 1.1, 1.5, 1.75)の熱水合成を行い、粉末X線リートヴェルト法により結晶構造解析を行った.合成条件は200ー350 MPa,500-550 ℃で,MnO2-Mn2O3バッファで酸素分圧を制御した.
 p=0.5から1.1の出発物質からはほぼ紅簾石1相が晶出したが,p=1.5および1.75の出発物質からの生成物は紅簾石と少量のビクスビ鉱,珪灰石である.EPMA分析結果によると,本研究で合成された紅簾石中のMn3+の最大含有量は1.3±0.1 a.p.f.u.であった.
 リートヴェルト解析によって得られた紅簾石の6配位席中における席選択性の優位順はM3>M1>>M2で,これは天然の紅簾石による結果と一致している.M3,M1席における席占有率(g)とp値の関係は,それぞれgM3 = - 0.24p2 + 0.98pおよびgM1 = 0.06p3 + 0.15p2 - 0.02pである.Mn3+はM3席を完全に満たさなくても,M1席のAlを置換し,p >1.0の紅簾石ではM1席中のMn3+が急激に増加し,0.34 a.p.f.u.に達する.また,M2席にも占有率にして約10%以下のMn3+が認められた. 本研究で得られた紅簾石中のM1,M3サイトにおけるMn3+の分配係数KD [= (Mn3+/Al) in M1 / (Mn3+/ Al) in M3]は,0.024-0.120である.これはCz-Ps系緑簾石におけるFe3+のKD (0.01-0.025)よりも大きく,Jahn-Teller効果では説明できない.Mn3+とFe3+の両方が6配位席中に存在するCz-Ps-Pm系の場合,Mn3+のKDはFe3+よりも小さい可能性がある.a-, c-軸と格子体積Vは特にM1,M3サイト中のMn3+占有率の影響を受ける.a-軸はp = 1付近まで減少し,p>1で増加する傾向を示す.c-軸は,0 < p < 0.75ではほとんど変化せず,p>0.75で増加傾向を示す.a-,c-軸pとの関係はそれぞれa (Å) = 0.037p2 - 0.062p + 8.879,c (Å) = 0.021p3 - 0.008p2 - 0.022p + 10.155と表される.またb- 軸は,p値の増加とともに増加し,b (Å) = 0.005p2 + 0.085p + 5.585と表される.Vは,0<p<0.75で緩やかに増加し,p>0.75 で急激に増加し,V (Å3) = 3.707p2 + 3.297p + 454.00と表される.紅簾石中のMn3+含有量の増加に伴い,平均M3-O,M1-O原子間距離が増加するが,M1-O1原子間距離と∠O5-Si3-O6結合角の変化は直線的ではない.p値の増加に伴うa-,c-軸の非直線的な変化はそれぞれM1-O1 (M1-O1(Å) = 0.115p2 - 0.081p + 1.930)と∠O5-Si3-O6 (∠ O5-Si3-O6 (°) = 111.322p2 - 10.165p + 100.200),の変化によるものである.Alに対するMn3+の置換に伴うM3サイトの歪みは,M3-O1, M3-O2の変化によって,M1サイトのひずみはM1-O1の変化によって引き起こされる.

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© 2003 日本鉱物科学会
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