国際経済
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第74回全国大会 共通論題 新興国と世界経済の行方―貿易・金融・開発の視点―
先進国金融政策の新興国への影響
~国際資本移動に伴うリスクと規制の課題
大田 英明
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2016 年 67 巻 p. 29-65

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抄録

本研究では, 国際資本移動の拡大に伴い各国経済・市場に与える影響が拡大した結果, 金融市場や為替相場のボラティリティが増し, 経済の安定化が困難となっていることを踏まえ, 国際的な資本規制と監視・監督が一層重要となっていることを示す。
世界経済と市場の一体化が進展する中, 世界金融危機後, 日米を中心とする金融緩和措置によって, 歴史的低金利とあいまって大量のマネーが先進国・新興国市場間で大幅に拡大してきた。しかも最近では世界的に株価変動のボラティリティは非常に高くなっており, 先進国・新興国とも実体経済との乖離はますます大きくなっている。また, 新興国から先進国, 特に米国への資金回帰の流れが強まり, 新興国市場や国際商品市場では株価低迷や為替下落が進んでいる。こうした背景には世界金融危機後日米を中心に先進国の大幅な量的緩和政策に伴う過剰流動性が, 一時新興国市場や国際商品市場に流入したが, 米国経済の緩やかな回復に伴い, 投資された資金が米国に回帰する一方, 全体的に新興国から資本が「逆流」していることがある。さらに香港・上海市場でのリンクにみられる金融・資本市場の規制撤廃と自由化が, 中国経済・市場のみならず世界的に大きな影響を及ぼす結果をもたらすことを示した。
日米金融緩和政策の影響について日米及び香港・中国市場における主要な変数を基にグレンジャー因果性及びVARモデルに基づくインパルス応答関数を用いて2001年から2015年まで期間ごとに検証した。その結果, 2014年11月の上海市場と香港市場との株式市場の一体化は日米香港中国の各市場間において各指標(マネタリーベース, M2, 金利, 株価等)の有意な因果性の高まりと影響が確認された。この分析結果は, 最近の先進国・新興国市場の混乱及び低迷や中国市場のバブルの発生と崩壊の経験は, 国際資本移動の変化が各国経済・市場に深刻な影響をもたらすことを裏付けている。したがって, 今後先進国, 新興国を問わず, 資本・金融取引に関し従来に比べ一層精緻な管理・監督や規制措置を導入することが求められている。

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© 2016 日本国際経済学会
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