2021 年 24 巻 3 号 p. 55-63
近年,本州以南に自生する様々なラン科植物種から,ハモグリバエ科ランミモグリバエの寄生が報告されている.本種は幼虫が果実や花茎を摂食して種子生産を阻害することから,本種の寄生がラン科植物の増殖に及ぼす影響を明らかにすることは,ラン科の絶滅危惧種を保全する上での課題となっている.しかし,その分布域や寄主植物の詳細は未だ明らかでない.そこで本研究では,北海道から沖縄県まで国内の1道9県に自生する21属42種のラン科植物でランミモグリバエの寄生状況を調査した.その結果,13属25種において寄生を確認し,そのうち新たに寄生を確認した3属を含む11種については初めて寄主植物であることを明らかにした.また,北海道と西表島に自生するラン科植物でランミモグリバエの寄生を確認し,本種が北海道から沖縄県までのより広範囲に分布することを明らかにした.さらに,ラン科の種によって複数地域で高い寄生率を示す種が存在することを確認し,ラン科の種によって寄生率に差があることを明らかにした.また,分布域の北限に近いと考えられる北海道ではランミモグリバエの発生密度が低い可能性が示唆された.