昆蟲.ニューシリーズ
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農耕地におけるタマゴクロバチ科(ハチ目)の属構成
山岸 健三
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2004 年 7 巻 2 号 p. 39-54

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抄録

タマゴクロバチ科(Scelionidae)は昆虫綱,ハチ目に属する卵寄生蜂で,すべて昆虫の卵ないしはクモの卵に寄生し,それらの一部は農業害虫の天敵として知られている.本科は分類学的研究が遅れているため日本から33属70種が知られているにすぎないが,著者は数百種類が存在するものと予想している.農業生態系における寄生蜂類の属構成や種多様性を調べることは,農耕地における害虫の管理と,「里山」における生物多様性の評価のために重要である.本報告は,東海地方の農業生態系におけるタマゴクロバチ科の属構成についての最初の報告である.本研究ではマレーズトラップ(MT),イエローパントラップ(YPT),エマージェンストラップ(EmT)の3種類のトラップを農耕地や森林に設置し,年間を通して昆虫を捕獲した.調査地点として,東海地方の畑,水田,ならびに類似環境を選んだが,主要な調査地点は愛知県春日井市鷹来の名城大学農学部附属農場である.また,農耕地と対比するため,愛知県内の落葉性二次林で採集されたタマゴクロバチ類も分析した.[photograph]これまでに約1万個体の標本を調査した結果,次のようなことが明らかになった.寄生蜂の科レベルでの分析では,寄生蜂の個体数の中に占めるタマゴクロバチ科の割合が,落葉性二次林に比べ農耕地のような草原的環境の方がはるかに高かった.タマゴクロバチ科の属構成を分析したところ,今回34属を確認することができたが,このうち5属は日本新記録であった.異なるトラップによって捕獲されたタマゴクロバチ科の比較では,属数では大差がなかったが,属の構成に違いがあり,EmTやYPTのように地表に設置するトラップでは地中に産下された卵を寄主とする属が多く捕獲されることがわかった.農耕地(草原環境)と落葉性二次林での属構成の比較では,農耕地で得られた属数は森林で得られた属数よりもむしろ多く,各属の個体数も安定していた.また,農耕地(草原環境)に特有の属もいくつか確認できた.これらのことから,農耕地におけるタマゴクロバチ科の多様性は森林に比べて勝るとも劣らないものと結論づけられた.草原環境では寄主となるバッタ目昆虫が多く棲んでいるため,それらの卵に寄生するタマゴクロバチ科の属構成も複雑になり,多様性も高くなっているものと考えられる.

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© 2004 日本昆虫学会
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