日本蚕糸学雑誌
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産繭量の繭価格に対する時差の一考察 (予報)
岩渕 早雄
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1961 年 30 巻 6 号 p. 442-444

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抄録

考察の対象とした期間は少なからぬ変動のなかにも, 長期的にみて繭と米麦等の競争作物とは生産における均衡をほぼ保っていたと思われる。すなわち1930年を中心として繭価と米価の比価 (繭1貫対米1石) をみると前半は平均して0.229, 後半は若干低くなったが平均して0.171の水準にほぼ保たれ, またこの期間に農家における生産技術やその他経営条件を考慮して特に均衡を著しく失するような事情は見当らないように思う。また養蚕にとって前半は拡張期, 後半は縮少期にさしかかっており, したがって繭の価格一厳密には相対価格-の高低は他作物との競合関係をより強めたであろうと推察される。
農家は生産計画をたてる場合, 必ずしも価格条件のみを考慮するわけではないが, しかしこれが基本的なものであることは大方の認めるところであろう。農業生産においては自然に依存するところ大であり, このためしばしば生産計画の達成を阻害し, 生産要素の計画的投入量の変化の効果を減少させる。この点養蚕は栽桑過程の外に建物等の保護設備の下での育蚕過程があるので, 一般の作物栽培に比較すれぼ自然の変化による影響をある程度緩和しうる。
一般に農家は工企業とは異なり価格の高低に即応して, 直ちに生産量を増減することは経済的にも技術的にも困難である。養蚕もまた例外ではない。このことについては農業が競争的構造をもっていること, 生産要素の雇用量が大体一定していること, 生産が季節的で相当な期間を要する等, その他多くの要因をあげることができるが, ここでは一般的なことは省く。養蚕の場合価格の変化に対しごく短期的には掃立量の増減, 桑園肥培管理の集約性の調節等が考えられるが, その効果は極めて期待し難く, 根本的には桑園面積の増減に依存するのであって, これには永年作物の性質上ある程度相当の期間を要するわけである。しかして養蚕農家がある年次にある価格に対応した場合, 当年のみならず1~2年の考慮期間をおき, 価格やその他の諸事情を勘案して養蚕計画の方針を決め, それが規模の拡大あるいは縮少であるときは, それに基づいて遂次桑園の増加, あるいは整理に着手し始めその結果が2~3年後にあらわれるものと思われる。
繭の価格の高低に対しその生産量への影響は少なくとも短期にはあらわれ難く, 数年の遅れを伴うこと以上の如くである。なおこの問題については更に統計的吟味と一層立入った研究が心要と思われる。

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