日本蚕糸学雑誌
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蚕における人為単為発生および倍数性の実験的作成
B. L. ASTAUROV
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1967 年 36 巻 4 号 p. 277-285

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抄録

人為単為発生は, ロシアのA. A. TICHOMIROVが, 70余年前に, Bombyx moriの未受精卵について初めて報告した。著者は, 佐藤, KOLTZOFFらの結果に刺激されて研究に着手し, 1936年秋までに約50万頭の単為発生蚕を得た。成積のよい場合の孵化歩合は平均55~60%に達する。方法は, 雌の体内から取出した未受精卵を熱処理によって賦活するもので, 有効な温度は40℃ 以上であるが, 46℃ の湯に18分間浸漬するのが最もよい。処理温度 (T) と至適浸漬時間 (E) との間には密接な関係があり, 化学反応におけるARRHENIUSの式
E1=E0eμ/RT0-T1/T1T0
(E1およびE0は絶対温度T1およびT0の時の浸漬時間, eは自然対数の底, Rは気体恒数でその近似値は2である。そしてμは温度係数で100, 000~150 , 000Cal/Mの値をとる) に従うが, 温度係数
(Q10) が非常に大きく, 温度1℃ の上昇で反応度は2倍以上になる。このことからみて, 熱処理による賦活は蛋白の可逆的な初期変性に関係があるのかも知れない。
川口の自然単為発生蚕および佐藤の塩酸による人為単為発生蚕は大部分雄であったのに対し, 著者らの得たものは総べて雌ばかりである。これは, 佐藤らの場合には第1, 第2成熟分裂が共に行なわれているのに対し, 著者らの場合には第1成熟分裂 (還元分裂) が抑止され, 第2分裂 (等分裂) だけが行なわれ, 2倍数染色体を有する非還元型分裂核ができるためである。
単為発生は染色体倍加を伴うことが非常に多い。これは, 発生の初期に2倍性分裂核同志が融合したり, 細胞分裂を伴わない染色体分裂が行なわれたりして4倍性卵母細胞ができ, これが単為発生をするためである (Fig. 1).
4倍性雌と正常雄との交雑によって3倍体が産まれるが, これは雌雄とも生殖不能である。しかし, それからとった未受精卵に熱処理を施すと3倍性単為発生蚕 (雌ばかり) が得られ, この3倍体は親の代の3倍体とは異なり, 僅かながら子供を生む。これは単為発生の過程で6倍性卵母細胞ができ, 成熟分裂を経て3倍性雌性前核になり, 半数性精子核と結合して4倍性の子供ができるのである (Fig. 2)。4倍性蚕の雌雄を最も簡単に作るには, このことを利用して, 単為発生3倍性雌に正常雄を交雑し, その子供をとればよい。
同質4倍体の蚕は雄が生殖不能のため, 両性生殖で繁殖する系統ができないが, 植物で成功しているように複2倍体を作れば生殖能力が改善されるのではないかと考えられる。B.moriとB. mandarinaとの間には生殖的隔離がないから, 真の複2倍体とはいえないが, Fig. 3の方法によって“複2倍体”を作った。この雄103頭を調べたところ, 51頭が部分的生殖可能であったが, その生殖力は極めて低かった。これは複2倍性に部分的に異質4倍性が混じっているためと思われる。しかし, 現在までに, このような両性異質4倍体の系統を8世代飼育し, 第9代目は目下 (1966年秋) 休眠中である。
植物における複2倍性利用の原理を動物に応用して雑種生殖不能および生殖的隔離を克服できる望みのあることは興味がある。

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