日本蚕糸学雑誌
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蚕における雄性生殖, 雌性生殖および倍数性の炭酸ガス処理による誘発
田島 弥太郎大沼 昭夫
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1967 年 36 巻 4 号 p. 286-292

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抄録

産下直後の蚕卵に炭酸ガス処理を行なうと極めて簡単に雄性生殖, 雌性生殖および倍数性などを誘発できることを著者らは最近発見した。引続きこれら例外的接合過程の時間的関係を追求したのでここに報告する。
実験に用いた材料は支108号および卵色に関する突然変異Pe, reおよびρe reなどの諸系統で目的に応じ次のような組合せとした。
雄性生殖の検出:+/+♀ ×re/re♂,++/++♀×pe re/pe re♂
雌性生殖の検出:re/re ♀ ×+/+♂
非還元型 (倍数体) の検出:pe+/+re♀ ×pe re/pere♂
産卵を20分間行なわせた後直ちに集卵して, 直後から20分おきに卵を炭酸ガスを流したガラス鐘内に入れ一定時間 (30分, 60分, 120分, 180分および240分) 25℃ でガスに接触させた。
産下後の時間の経過と雄性生殖および雌性生殖の出現率の関係はFig. 1に, 非還元型の出現率との関係はFig. 2に, 卵の生存率 (孵化歩合で示す) との関係はFig. 3に示すとおりであった。これらの結果から次のような結論が得られた。
1) 炭酸ガス処理の場合の生存率曲線の分析, およびこれと, X線照射の場合の生存率曲線との比較から炭酸ガスの効果は迅速かつ可逆的であると推定された。
2) 非還元型の出現が産下直後から50分後にかけ急速に減少したことから還元分裂は主として第1回減数分裂において起こることが推定された。
3)雌性生殖は10分後から210分後までの間に起こることが観察された。このことから第1極体および第2極体は産下後3.5時間後までは炭酸ガスの刺激に応じて接合可能な状態にあるものと考えられた。
4) 炭酸ガス処理によって卵核と極体核間あるいは2個の精核間に例外的な接合が起こるのは雌性核, 雄性核が本来持っているはずの接合性が炭酸ガス処理のため破壊されることに原因すると考えると最も合理的に説明される。

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