日本蚕糸学雑誌
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家蚕の中腸核多角体病について
(II) 多角体形成におよぼす飼育温度の影響
山口 邦友
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1968 年 37 巻 6 号 p. 462-470

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抄録

家蚕の種々の令の幼虫に中腸核多角体病ウイルスを経口接種して後, それぞれ18℃, 25℃, 30℃ならびに35℃で飼育し, 多角体の形成状態を観察した。
病勢の進行は接種後の飼育温度によつて異なり, 30℃区, 25℃区では発病が早く, 18℃区, 35℃区では発病がおくれ病蚕の発生も不斉一であった。
多角体の形状は18℃区, 25℃区では正常な外観4角形の大形多角体が形成されたが, 30℃区においては正常な多角体の形成は少なく, 多様の不正形多角体が中腸の円筒細胞の核内に形成された。35℃区においては多角体形成はほとんど認められなかつた。不正形多角体は中腸の円筒細胞の同一核内に形成されているものでも, 大きさは斉一でなく形も多様で, 球形, 俵形, 紡錘形, 曲玉形, 小点状などを呈し, 内側には空洞のみられることが多かった。
不正形多角体の形成されていると思おれる病蚕を, 25℃に移して数時間おきに調べたところ, 不正形多角体は正常多角体に変ることが認められた。不正形多角体の染色性は正常多角体とほぼ等しく, 60℃の1N HClによる前処理で, ブロムフェノールブルー, オレンヂG, フクシン, フロキシン, メチルオレンヂ, エオシン, アニリンレッドおよびハイデンハインの鉄ヘマトキシリン等に好染した。また5%醋酸による前処理でアゾカーミンによく染まった。
接種時の温度, 接種前後の絶食または低温処理が, 多角体の形成状態に影響をおよぼす現象は認められず, ウイルス増殖および封入体形成時の温度が, 多角体の形成あるいは形状に特異的な影響をおよぼすことを知った。

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