1997 年 66 巻 1 号 p. 48-53
無翅突然変異 (fl) の翅原基は正常のものに比べ, 5齢期の成長は顕著でなく, 細胞分裂数も少なかった。また, 翅部の骨格形成がみられず, 気管枝束の翅部への進入も顕著でなく, 吐糸期には翅のう部の増大はあるが翅部の増大が無く, 膨らんだ翅のう内に萎縮した翅部が観察された。一方, 細胞レベルの異常は見られず, 蛹化前には翅部の外転, 扁平化, 基底側細胞部分の伸長及び表皮側のクチクラ形成などの正常と同様の変化がみられ, 組織の壊死, 細胞内器官の崩壊などは認められなかった。羽化時に, 稀に翅部の突起が通常の無翅の個体より長い個体が出現する場合があり, これらの突起の表面にはりん毛が形成されることが観察された。吐糸期の翅原基の合成蛋白質に2次元電気泳動で無翅でのみ認められるスポットが3種観察された。これらの結果から無翅の発達異常は個々の細胞レベルの欠陥ではなく, 組織全体の発達不全が原因であると考えられた。