抄録
先媒染した絹布上で生成するカルミン酸の金属錯体の構造についての知見を得るため, コチニールから抽出, 精製したカルミン酸を用いて種々の検討を行った。色素分子中の酸性基の解離定i数を決定し, 色素水溶液の可視部吸収スペクトルに及ぼす溶液のpHおよびアルミ共存の影響を調べた。また製膜した絹フィブロインを先媒染して, 染色膜の可視部吸収スペクトルを測定した。得られた結果を比較検討した結果, カルミン酸は水溶液中では1, 4-型を基本骨格とする錯体を形成するが, 先媒染した絹フィブロイン膜中では6, 7-型錯体を形成するとした。また, その理由を, 先媒染の条件では, アルミが基質高分子鎖上に配位結合で固定されていること, および色素に結合している糖が1, 4-型錯体の生成を立体的に妨害することの2つと考えた。スズおよびアルミで先媒染した絹布および染色絹布をさらにそれぞれの金属塩水溶液で処理した絹布を測色して, 処理によって色度点がa*b*色度図上を顕著に赤~青軸方向へ移動することを示した。