日本蚕糸学雑誌
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無撚りラッピングシルクの開発
清水 重人青木 昭松本 信孝
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2001 年 70 巻 3 号 p. 171-176

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抄録

本研究では, 柔らかくソフトタッチなシルク本来の風合いをもつシルク素材と織・編地の開発を目標としているなかで, 化合繊糸と生糸の熱水収縮率の差に着目した。通常, 生糸を織・編物にする場合, 織物では生糸を合糸, 撚糸, 精練して織物にする (先練り) か, 合糸, 撚糸, 製織後精練する (後練り)。一般に編物では, 生糸が硬いので撚糸後に精練し編成する。このような織・編物の生地は, 撚糸によりしっかりした生地となるが, 逆に風合いは硬目となる。柔らかな風合いを出すには, 撚りは少ないほどよい。しかし, 無撚りで精練すると, 糸がばらけるため, 先練り織物や編物には利用できない。後練り織物はできるが, スレやケバ立ちが発生しやすく商品の品質が低下する。そのため, 従来は無撚りの生糸を使用した織物では「羽二重」以外になく, 無撚り糸の先練りの編物は編成が困難であった。
無撚りラッピングシルクは, これらの問題を克服するため, 化合繊糸と生糸の熱水収縮率の差により, 精練後芯糸と鞘糸の関係を逆転させて, 収縮した化合繊糸が絹糸を締め付け, 無撚りの絹糸がばらけるのを押さえた。そのため, 膨化した絹糸の風合いをもちつつ, 毛羽立ちやスレが押さえられる。無撚りラッピングシルクは伸度・強力ともに高く, ヤング率は低く, 弾力性をもっているため高速織機での製織が可能となり, 製織能率が大幅に向上した。製織した布地はしわになりにくく, 耐洗濯性が向上するなどの特長を有することが明らかとなった。無撚りラッピングシルクによるニットは, ストレッチ性と適度な弾力性をもち, 表面が滑らかでヌメリ感があり, 肌にしっとりとした感覚を有することが明らかとなった。
以上のような新素材の開発には, 化合繊糸の熱水収縮性だけでなく, 絹糸と化合繊糸の強伸度などのバランスも重要で, 本研究のような物性を有する化合繊糸 (ナイロン66) を選定する必要がある。

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