2012 年 69 巻 7 号 p. 443-447
低速陽電子消滅γ線分光法および低速陽電子消滅寿命法を適用して3種類の市販水処理用複合膜の積層構造および空孔構造を評価し,各複合膜の分離活性層に存在するサブナノスケール空孔と,分子量が同等な中性溶質化合物(尿素,エチレングリコール,1-プロパノール,2-プロパノール)の阻止率との関係を調べた.陽電子3光子消滅率の陽電子照射エネルギーE依存性から,E~1.0 keVにおいて各分離膜の表面に形成された分離活性層に大部分の陽電子が打ち込まれることがわかり,この時のオルト–ポジトロニウム(o-Ps)寿命から空孔サイズを算出した.溶質分子とo-Ps寿命から推定した空孔のサイズ比と各複合膜の阻止率との間には一定の相関があることが示され,陽電子消滅法で解析された微視的空間構造が分子透過に重要な役割をもつことが示唆された.