2015 年 72 巻 2 号 p. 82-89
本報は,ビスフェノールAタイプの2官能性エポキシと酸無水物とからなるエポキシ樹脂中に直径約4∼6 nmのZrO2ナノ微粒子を高含有量でナノ分散させ,約1 mmの膜厚においても高透明なハイブリッド材料を得る手法について報告した.これを達成するためには,硬化前のエポキシと酸無水物モノマー中にZrO2微粒子をナノ分散させることと,硬化中,ZrO2微粒子それ自体が硬化反応に関与できる官能基を有することが重要であった.水中にナノ分散しているZrO2微粒子は,さまざまなカルボン酸を表面処理剤に用いた溶媒置換法により表面修飾された.表面修飾されたZrO2ナノ微粒子のエポキシモノマー中への再ナノ分散性を評価したところ,脂肪族カルボン酸よりも安息香酸などの芳香族カルボン酸で修飾された方が良好な結果を示すことがわかった.安息香酸で表面処理されたZrO2微粒子をエポキシと酸無水物からなるモノマー中にナノ分散させ,硬化反応させたところ,硬化中激しく凝集し不透明化した.エポキシ硬化反応に関与する官能基としてヒドロキシ基を有するo-ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸)を表面処理剤として用いたところ,ZrO2微粒子は効率的にエポキシネットワーク中にナノ分散化され,約1 mmの膜厚の材料に対しても光学的に高透明なハイブリッド材料が得られることがわかった.ハイブリッド材料の屈折率は,アッベ数をそれほど低下させることなく,加えたZrO2ナノ微粒子の体積分率の増加とともに増加し,エポキシ樹脂の光学特性を制御できる可能性が見いだされた.