高分子論文集
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原著論文
ナノ試験管中での分子内ATRPによるラダー状ビニルポリマーの精密合成と特性解析
小原 忠与篠﨑 祐希山口 敏夫汪 舟鷺菊地 守也鳴海 敦川口 正剛
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2019 年 76 巻 2 号 p. 168-178

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抄録

α-末端にATRP開始基をもち,剛直らせん主鎖上に多数個のペンダントビニル基を有するマルチビニルポリマー(MOI-EO-26)は,体積100 nm3程度のナノフラスコ中に一分子だけ入れられた.そのナノフラスコ中で分子内ATRPを行うことによって,高い二重結合消費率で分子間重合が抑制された分子量分布の狭いラダービニルポリマーが合成された.MOI-EO-26 (Mw/Mn=1.03)は,ATRP開始基を有するチタンアルコキシド錯体を用いて2-(methacryloxyethoxy)ethyl isocyanate (MOI-EO)の配位リビング重合により合成され,さらにリサイクル分取SECにより分画することによって得られた.MOI-EO-26の分子特性解析は25°C,THF中,SAXS測定を用いて行われ,全長5.39 nmの棒状分子であることがわかった.また部分比容の値から棒の直径は1.35 nmと決定された.ナノフラスコは光学的に透明な逆相ナノエマルションからできており,分散相として2,2,2-trifluoroethanol (TFE),連続相としてヘプタン,界面活性剤として3-[dimethyl(octadecyl)ammonio]propane-1-sulfonate (C18APS)を用いて新規に調製された.MOI-EO-26を内包したナノフラスコの構造はSAXS測定から精密に特性解析され,全長17.6 nm,直径2.8 nmの円柱もしくは長軸11.4 nmと短軸1.45 nmの扁平楕円体であり,体積は80~100 nm3のナノサイズの試験管であることがわかった.ナノ試験管中に画分化されたMOI-EO-26の分子内ATRPが55°C,CuBrと三種類の配位子を用いて行われた.その結果,配位子に4,4′-dinonyl-2,2′-bipyridylを用いた場合,分子間の重合はまったく起こらず,二重結合消費率=61%,Mw/Mn=1.07で対応するラダーポリマー[poly(MOI-EO-26)]を回収率100%で得ることができた.Poly(MOI-EO-26)のSECにおける溶出体積はMOI-EO-26よりも大きくなり,ラダーポリマーは流体力学的にコンパクトな形態になることがわかった.また,poly(MOI-EO-26)をリサイクル分取SECで分画すると,大きい溶出体積の成分ほど二重結合消費が高く,最大で80%になることがわかった.

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© 2019 公益社団法人 高分子学会
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