抄録
レーザー分光法を用いた蛋白質のガラス転移と構造変化のダイナミックスに関する最近の著者らの研究を中心に報告する. ヘリウム温度において亜鉛置換ミオグロビンにサイト選択蛍光分光法を適用することにより, 光吸収スペクトルが不均一に広がっていることを見いだし, さらに, 平衡点近傍での振動モードの有効状態密度を抽出することに成功した. 不均一分布が凍結されているとして吸収スペクトルを計算したところ, 180K付近まで, 観測スペクトルとの極めて良い一致を見, それ以上の温度においても基底状態におけるボルツマン分布を仮定することにより, 良く再現するという結果を得た. このことは, 蛋白質が常温では立体構造の異なる準安定状態間を揺らいでいるが, 温度を下げると液体-ガラス転移を起こし, 個々の蛋白質分子は特定の準安定状態に凍結されるという描像を支持するものである. 一方, 共鳴蛍光スペクトルとホールスペクトルの時間分解測定を行い, 蛋白質の構造緩和には溶液などの場合と異なる特有のダイナミックスが存在することを見いだした. また, 低温においてホールスペクトルに対する温度サイクルの効果を調べ, 準安定状態間を隔てる障壁の高さの分布および蛋白質内の局所構造変化に関する知見を得た. 液体-ガラス転移と関連付けられる蛋白質の立体構造の変化に関する近年の実験研究の動向についても言及した.