口腔病学会雑誌
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猫上顎骨の側方拡大に関する実験的研究
小杉 緑郎
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1969 年 36 巻 4 号 p. 223-245

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抄録

日常の矯正臨床において, 上顎歯列弓あるいは上顎骨自体の狭窄をともなう不正咬合の症例のために拡大ネジを用いたいわゆる側方拡大が用いられる。しかし, 側方拡大による組織変化を扱った研究は非常に少なく, とりわけ急速拡大を行なった際の初期変化についての検討は必ずしも充分ではない。それで, 本実験は, 模型計測およびX線写真と組織学的所見を対比することにより, 急速拡大を行った際の初期変化を含めた骨の改造過程を観察しようと試みた。
実験方法は, 成猫34匹を2群に分け拡大ネジを用いた装置を適用して2週間で総計3.6mmと2.4mm上顎骨を側方に拡大した。各群は, 拡大後即日屠殺と5日後, 9日後, 2週間, 4週間, 6週間保定後屠殺に細分した。また, 対照群として3匹を置いた。拡大の効果を評価する目的で拡大前および屠殺後に印象採得と咬合法X線撮影を行なった。さらに, 拡大前後および保定期間後に岡田・三村め酢酸鉛生体染色をほどこし, 屠殺後採取した組織切片はヘマトキシリン・エオジン, ワイゲルト, アザン染色を行なって, 正中口蓋縫合と切歯, 犬歯, 前臼歯を含む隣接諸構造を組織学的に観察した。その結果
1.X線写真により正中口蓋縫合は, 拡大ネジによって離開することを確認した。また, 離開形態は, 楔状離開と平行離開の2種が認められ, その離開は, 口蓋骨部にまで達していた。
2.歯列弓幅径の増加量は, 3.6mm拡大した群の方が2.4mm拡大した群より大きく, また, 大きく拡大した群は平行離開を示した。
3.組織学的観察によると, 変化は, 正中口蓋縫合の離開とその間隙の内出血で始まり, 次で保定5日後に離開壁面に針状骨梁が出現し, 保定4週間後には離開間隙が著明な結合組織線維の伸展と急速な骨の形成が認められ, 結局保定6週間あるいはそれ以後に完全なる化骨によって完了した。
その修復過程は, 平行離開より楔状離開の方が速かった。また, 変化は, 周囲諸構造 (切歯縫合, 横口蓋縫合, 切歯管, 鋤骨, 鼻腔底, 口蓋面, 顎骨Havers管) にも認められた。
4.側方歯群は歯体移動を目的としたにもかかわらず, 傾斜移動あるいはそれに近い移動を起こした。その組織変化は, 矯正学上のいわゆるheavyforceによる像と一致した。
5.正中口蓋縫合部の修復過程は, 歯周組織の修復過程に先行した。したがって短い期間内に大きな離開を与えることによって顎の拡大が可能であることを確認した。

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