口腔病学会雑誌
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歯槽膿漏症とMycoplasmaについて
大橋 泰子
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1971 年 38 巻 3 号 p. 363-374

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抄録

人の口腔から分離されるMycoplasmaは大部分がM.salivariumとM.orale type 1であるが, これ等Mycoplasmaの口腔細菌叢に於ける役割, 或は口腔疾患との関係は非常に興味ある問題である。しかしこれ迄余り調べられていない。
歯槽膿漏症とMycoplasmaの関係を調べる為, 臨床的に正常な歯肉を有する成人13人と歯槽膿漏患者30人に付, 常在するMycoplasmaの数, 菌種の同定並びに被検者血清のMycoplasmaに対する抗体価を検索して, 両者を比較検討した。
健康人13人の内, 10人, 歯槽膿漏患者30人の内, 26人からMycoplasmaが検出された。そのcolony forming unit (CFU) は健康人5.0×102~8.9×103 (対数平均値3.0453±0.5326) , 歯槽膿漏患者8.6×102~5.9×104 (対数平均値3.9070±0.9811) で, CFUに於いて両者の間には危険率5%以下で統計学的に有意の差が認められた。
各被検者から原則としてat randomに5株を分離して10代継代後菌株の同定を行なった。健康人10人から分離した49株の菌株の内, 4株が継代中にbacterial formに変異し, 7株が継代不能となった。残り38株の内20株 (53%) がM.salivarium, 18株 (47%) がM.orale type1で両者の比は約1: 1であった。
これに対し歯槽膿漏患者30人から分離した140株の内, 10株が継代中にbacterial formに変異し, 5株が継代不能となった。残り125株の内, 102株 (80%) がM.salivarium, 23株 (20%) がM.orale type 1でありその比は約4: 1で, 歯槽膿漏患者では健康人に比べM.salivariumが著明に増加している事が認められた。各被検者から分離した5株のMycoplasmaについては, 全てがM.salivariumであった例が健康人で3例 (30%) , 歯槽膿漏患者で21例 (81%) であった。又M.orale type 1のみ分離された例は健康人で3例 (30%) , 歯槽膿漏患者で4例 (15%) であった。
被検者血清の抗体価は間接血球凝集反応で健康人13人の内6例 (46%) , 歯槽膿漏患者30人の内17例 (57%) がM.salivariumに対して8~128倍の抗体価で反応した。M.orale type 1に対しては健康人では8倍以上の抗体価で反応したものは無かったが, 歯槽膿漏患者では3例 (10%) が8倍の抗体価を示した。補体結合反応では健康人ではM.salivarium, M.orale type 1に対して反応した血清はなかった。歯槽膿漏患者では9例 (30%) がM.salivariumと反応したが, M.orale type 1と反応した血清はなかった。
所謂歯槽膿漏症では健康人に比べMycoplasma殊にM.salivariumが増加している。一方Mycoplasmaに対する血中抗体価についてはM.salivariumに対する抗体価が上昇しているように思われるが, まだ歯槽膿漏症と明らかな関連づけは出来ないように思う。

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