口腔病学会雑誌
Online ISSN : 1884-5185
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ヒト口腔各種組織初代培養細胞の動態に関する顕微鏡映画法ならびにオートラジオグラフィーによる研究
第1報口腔粘膜上皮細胞について
臼田 篤伸
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1972 年 39 巻 3 号 p. 442-460

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抄録

本教室では1965年以来組織培養法を応用し, ヒト口腔領域の非腫瘍ならびに腫瘍組織の初代培養における動態について検索し, その成果を逐時発表してきた。
本研究において著者は教室の既往業績に基づいて, 口腔諸組織の初代培養細胞の動態を一層明確にするために16ミリ微速度顕微鏡映画法を応用して, これら培養細胞の形態, 動き, 増殖能の推移を検索するとともに, 3H-TdR投与オートラジオグラフィーにより得られた細胞集団のDNA合成能の所見との関連性もあわせ追究した。本報では正常口腔上皮細胞について得られた結果を報告する。
研究材料としては東京医科歯科大学歯学部附属病院歯科病棟に入院した口蓋裂患者の形成手術時に切除された裂縁部組織を用いた。培養法は既報告の直接カバーグラス法により, 培養液はEagle MEMニッサンを用い, 37℃のCO2培養器で培養した。顕微鏡映画撮影は培養後20時間目から行ない, 遊出細胞の動態を検索した。一方その同型培養体に対し3H-TdR (0.5μCi/ml) を1cc, 1.5時間投与した後固定し, オートラジオグラフを作製して細胞集団のDNA標識指数および分裂指数を母組織付近, 上皮シート辺縁部および両者の中央部の計3部分について計測した。
培養数時間後に多数の円形細胞がガラス面に遊走し, 次いで約20時間後に上皮細胞がシートを形成して遊出し, その速さは約30~40μ/hrであった。上皮細胞はほぼ均一な形態を示し, 相互の細胞結合は強く維持されていたが, シートの広がりにつれ, シートの外形および個々の細胞の結合様式は変化した。培養初期の1~2日後には細胞分裂像は認められず, シートの広がりは主として母組織からの細胞遊出によるものであった。細胞分裂像が最も高頻度に観察されたのは6~10日目であり, それ以降は徐々に低下した。またシート辺縁部の細胞形態は早期に扁平化し, 細胞境界は不鮮明になり, 増殖力も低下したが, 母組織付近では約30日後においても細胞遊出と分裂が行なわれた例もあった。上皮シートの3部分について計測されたDNA標識指数と分裂指数の経日的推移曲線は相似していた。このことから本実験における培養細胞においてもDNA合成を行なった細胞のほとんどが分裂していくものと推定された。またオートラジオグラフィーによる所見と顕微鏡映画法による所見とは多くの点で相応し, これらの方法を用いることにより, 口腔上皮細胞の動態をより正確に把握することができた。

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