口腔病学会雑誌
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Pulse列電気刺激による歯髄診断の研究
(痛覚閾値と病理組織学的所見との関係)
松本 光吉
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1972 年 39 巻 4 号 p. 551-564

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抄録

臨床診断と病理組織診断の一致を目的とした歯髄診断の試みは多いが, 全ての歯髄の病態を確実に鑑別する診断法は, 未だ, 確立されていない。最近, 伊藤は, Pulse列矩形波電流で人の歯を刺激するとき・刺激の持続時間 (Dulation) , Pulse間隔 (Interval) , 及び刺激発数 (N) を変えて, これらの組合せによって起る痛覚閾値の変動で歯髄疾患の鑑別診断を研究したところ, 臨床的に健全歯と思われる歯牙と炎症歯と思われる歯牙との間に差があることを示唆した。そこで, 著者はこの研究を引継ぎ, 更に病理組織学的な検討を行った。
被検歯は東京医科歯科大歯学部付属病院を訪れた9~58歳の患者85人 (♂28, ♀57) の111歯を用いて, 一般的な臨床診査を行い, 次いで, D=0.03msec, N=3を一定にしたpulse列矩形波電流刺激にて, Iを0.5, , 0.8, 及び1.0msec, 三通りの夫々の痛覚閾値を測定して, 直ちに抜去し, 歯髄の病理組織所見と痛覚閾値との相関関係を検討した。その結果, I=0.8msecを中心にPeakを示す症例は64例で, その中, 病理組織学的に全く健康歯髄と診断された症例が59例 (92.2%) , 慢性閉鎖性歯髄炎5例であった。一方, I=0.8msecを中心にPeakを示さなかった47例に於いては, 高度の変性, 萎縮又は炎症のある歯髄が40例 (85.2%) , 健康歯髄7例であった。又病理組織診断とD=0.03msec, N=3一定にして, Iを0.5, 0.8, 及び1.0msecと延長した場合に生ずる曲線の型との相関関係を統計的な検定 (差の平均値, t-分布) により推定したところ, 健康歯髄に於いては, I=0.8msecを中心にPeakを示す傾向があり, 一方, 炎症歯に於いては, I=0.8msecを中心にPeakを示す傾向がないことが確かめられた。
従来の歯髄の電気診断は, 一般的には, 主に, 歯髄の生死の判定に用いられて来た。今回の実験結果から。従来その識別が全く困難なものとされた健康歯髄と機能的, 器質的に変化の生じた歯髄との鑑別診断の際に, Pulse列矩形波電流刺激が極めて有力な手がかりとなることを知った。

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